先週あたりからインボイス制度の改正に関する報道が増えてきました。まだ何も確定していない状況ではありますが、頭の体操としてもし実現したらどのような影響があるか考えてみましょう。
目次
インボイス制度に変更があるかもしれません
来月になると税制改正大綱という税金に関する制度改正についてまとめた資料が自民党から公表されます。
このとりまとめに向けて様々な動きがあるようで、先週あたりからインボイス制度に関する報道を見聞きすることが増えました。
例えば、このような報道があります。
「インボイス制度」負担軽減措置導入の方向で調整 政府・与党 | NHK
こうした報道を見る限りでは、主なポイントしては
- インボイス制度により免税事業者から課税事業者になった場合、消費税の納税を売上に関する消費税額の20%に抑える(3年間の期間限定)
- 年間売上が1億円以下の場合、1万円未満の仕入・経費取引についてはインボイスを不要とする(6年間の期間限定)
があるようです。
報道されている内容はまだ確定したものではありませんので、実現するかわからない制度についてあれこれ言っても仕方ないのですが、来月税制改正大綱が出たときに影響を正確に理解できるよう、少し頭の体操をしておこうと思います。
今回の記事についてはマスコミ報道に基づくものであり、制度改正が確定したわけではありません。
あくまで「こうなるかもしれない」という内容に過ぎませんので、その点誤解なさらないようご注意ください。
もし報道通りに改正されたらどうなるか
消費税額を売上消費税の20%に抑える
この制度がもしできたとしたら、対象者はインボイス発行事業者として登録したことにより2023年10月1日付で新たに消費税の納税義務者になる方ではないかと想定しています。
実際にどのように税額を計算するかについては、消費税の計算方法には
- 原則課税
- 簡易課税
の2種類があり、このうち簡易課税制度に新たな区分が追加されることになるのでしょう。
現在簡易課税には6つの区分がありますが、7つ目の新しい区分を期間限定で追加することになるのではないかと。
ただ気になるのは、現在の制度では簡易課税を適用するには自分で税務署に届出を提出しなければなりません。
もし届出については現状と同じ扱いをした場合には、制度を知らずに届出を忘れて適用できない人が出てくる可能性があります。
「では対象者すべてに強制的に適用すればよいのでは?」と思われるかもしれませんが、簡易課税を選択するともし大きな設備投資をしたとしても消費税の還付を受けることができなくなります。
ということで、この制度がもしできた場合には簡易課税の届出の扱いがどうなるかという点がポイントになるのではと考えています。
それともう1点、3年間の期間限定ということは、例えば個人事業主の場合、3年目の消費税申告については、同じ事業を継続していたとしても途中で簡易課税の区分が変更するのではないかという疑問が残ります。
申告業務をいたずらに煩雑にしてしまうかもしれません。
こうした点を踏まえると期間は3年間となっていますが、3年目は年度の最後まで適用できるということになり、実際は3年強の間適用できるのかもしれません。
1万円未満の取引をインボイス不要とする
対象者はどうなるか?
対象者については、恐らく2期前(2年前)の消費税対象売上高が1億円以下かどうかで判定することになると想定しています。
現在消費税の納税義務については2期前(2年前)の売上高で判定していますが、これはその年度が始まる時点で消費税の納税義務があるかどうか不明では値決めや準備などができないという考え方によるものです。
年度が始まった時点で1万円未満の取引についてインボイスの保存が必要かどうか不明では実務が回りませんし、納税義務の判定とも整合性がとれません。
対応が楽になる取引は?
1万円未満のインボイスが不要となった場合、対応が楽になる取引としては
- 個人事業主が利用するタクシー代など
- ネットバンキングの振込手数料
- コインパーキング
といったものが考えられます。
タクシー代は公共交通機関特例(3万円未満の公共交通機関を利用した場合にインボイス不要となる特例)の対象外のため、仮にインボイスを発行できないタクシーを利用したとしても消費税を控除することができます。
ネットバンキングでの振込手数料については、一般的にインボイスの保存が必要とされていますが、この保存が不要となるという点で楽になるでしょう。
コインパーキングについては、自動販売機や自動サービス機を使った場合にインボイスが不要とされる特例の対象外のため(国税庁インボイスQ&A問38)、インボイスを発行できないコインパーキングを利用した場合であっても消費税の控除が可能となります。
問題はないのか?
気になる点としては、年間売上高が1億円前後で推移している事業者にとっては保存が不要となる年と必要になる年が混在することになります。
こうした対応は実務的に混乱するだけですので、結果的に毎年インボイスを保存するという対応を取らざるを得ないでしょう。
また6年間の期間限定とされていますが、例えばネットバンキングでの振込手数料について、6年後からは保存が必要となると結局課題の先送りでしかありません。
それともう一つ気になるのが、特に小規模なフリーランスに対して
「請求書を1万円未満になるように分けて」
という依頼が多発しないかどうかという点です。
もともと税理士会からは
「3万円未満の仕入は帳簿のみでOKとなるよう法律を変えないで欲しい」
という要望が今年5月に出されていて、その際にも同様の懸念はありました。
3万円よりも下がったとはいえ、制度が商取引をゆがめたり小規模なフリーランスに余計な手間を生じさせないかという心配は残ります。
実務をする立場からは負担増しか予想できない
ここまで事前に準備を進めてきた方すれば
「今頃になって制度を変えるとかやめて欲しい」
と思う方もいるかと思います。
報道内容を元にその影響をざっと考えてみましたが、現状の改正内容では効果はあまりなく実務上の作業負担が増えるだけという気がします。
最終的にどうなるかはわかりませんが、来月の税制改正大綱にて答え合わせをしたいと思います。
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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