簡易インボイスだと記載項目がインボイスよりも少なくて済みますが、誰でも発行できるわけではありません。簡易インボイスを発行できる業種について確認しておきましょう。

インボイスには2種類あります

2023年10月から始まるインボイス制度ですが、発行するインボイスには

  • インボイス
  • 簡易インボイス

の2種類があります。

インボイスにはこれだけは書いておかないといけないという記載事項が決まっています。

具体的には

  1. インボイスを発行する事業者名と登録番号
  2. 売上年月日
  3. 売上の内容(軽減税率対象の場合は対象とわかるように※印などをつける)
  4. 税率ごとの売上金額合計(税抜・税込どちらでもOK)と適用税率
  5. 税率ごとに区分した消費税額等
  6. お客さんの氏名又は名称

です。

ところがタクシーなど不特定多数のお客さんがいる業種の場合、すべてのインボイスにお客さんの名前を書くとなると仕事が回らなくなり現実的ではありません。

そこでこうした業種の方については

「お客さんの名前とかいくつかの項目を省略しても構いませんよ」

ということで簡易インボイスの発行が認められています。

簡易インボイスでは、インボイスでは記載が必要だった

f. お客さんの氏名又は名称

を書く必要がなくなり、dで必須項目だった適用税率についてはeの消費税額とどちらかを書けばよいことになります。

簡易インボイスを発行できる業種

ではどういった業種であれば簡易インボイスを発行できるのでしょうか?

この点については、国税庁のインボイスQ&A(令和4年11月改訂)問24に解説があります。

簡易インボイスを発行できる業種としては

  1. 小売業
  2. 飲食店業
  3. 写真業
  4. 旅行業
  5. タクシー業
  6. 駐車場業(不特定かつ多数の者に対するものに限ります。)
  7. その他これらの事業に準ずる事業で不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業

が挙げられています。

顧客名を把握している小売業などは対象外?

簡易インボイスを発行できるのは、お客さんが不特定多数だとインボイスを発行するのが大変である点に配慮したためです。

ではネット通販などのようにアカウント登録をしないと注文できないケースだとどうなるか。

この場合顧客名をすべて把握しているという理由により簡易インボイスを発行できないのでしょうか?

この点について、問24では先ほどの1から5の業種についてはお客さんが「不特定多数」でなくても構わないとしています。

ネット通販のケースでいえば、顧客を特定できる状況にあっても、事業の内容が「小売業」に該当するのであれば簡易インボイスを発行できるということです。

飲食店業・写真業・旅行業・タクシー業も同じ考え方を適用できます。

月極駐車場でも簡易インボイスでOK?

「駐車場業」については

不特定かつ多数の者に対するものに限ります

という注釈が付されています。

つまり月極駐車場など誰に駐車場を貸しているのか契約書等で明確になっている場合には、簡易インボイスの発行は認められないということです。

その一方でコインパーキングなど誰が利用したのかわからないケースでは簡易インボイスを発行できます。

駐車場経営をしている場合は、インボイスの発行が必要なケースと簡易インボイスで済むケースがありますので注意が必要です。

他の業種では認められないのか?

Q&Aには簡易インボイスを発行できる業種として「小売業」「飲食店業」「写真業」「旅行業」「タクシー業」「駐車場業」が挙げられています。

これら以外の業種であっても、問24において例えば次のような事業を行っているのであれば簡易インボイスを発行できるとしています。

・ 資産の譲渡等を行う者が資産の譲渡等を行う際に相手方の氏名又は名称等を確認せず、取引条件等をあらかじめ提示して相手方を問わず広く資産の譲渡等を行うことが常態である事業
・ 事業の性質上、事業者がその取引において、氏名等を確認するものであったとしても、相手方を問わず広く一般を対象に資産の譲渡等を行っている事業(取引の相手方について資産の譲渡等を行うごとに特定することを必要とし、取引の相手方ごとに個別に行われる取引であることが常態である事業を除きます。)

この書き方だと具体的にどういった業種が該当するかイメージするのは難しいかもしれませんが、業種名として挙げられていなくても簡易インボイスを発行できる可能性がある点には注意が必要です。

どちらを発行すべきか確認を

インボイスと簡易インボイスのどちらを発行するかにより、請求書や領収書のどこを改修するかが変わってきます。

簡易インボイスで済むと思っていたら、あとでインボイスの発行が必要だとわかったなどとなってしまうと、追加コストが発生することになりかねません。

インボイスへの対応を検討する際には、自社の事業ではどちらの発行が必要となるかまず確認をしておきましょう。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち、7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。