「インボイスに税率の表示をしなくても取引内容から税率はわかるから問題ないのでは?」という意見をたまに聞くことがあります。今回はこの点について確認をしておきましょう。
インボイスには必ず税率表示が必要か?
インボイス制度の開始が近づくにつれて質問を受けることが増えたのが
「8%(軽減税率)の売上がなければインボイスに10%と表示しなくてもいいですよね」
というもの。
法律上はインボイス(簡易インボイスを除く)には税率の表示は必須となっています。
またインボイスに含まれる税率がひとつだけの場合に税率を表示しなくていいというルールもありません。
従って税率の表示は必要です。
この点については国税庁のインボイスQ&A(令和5年4月改訂)の問72で解説されています。
軽減税率(8%)の販売がない現状の請求書に対して記載が必要な項目として「適用税率」が挙げられていますし、最後の一文で
「なお、適用税率(10%)や消費税額等の記載が必要となる点には、ご留意ください。」
とはっきり書かれています。
同じく問72にあるインボイス対応した請求書の例においても「10%対象」という形で適用している税率を明記しています。
ちなみに、8%(軽減税率)対象の販売がない場合に、わざわざ
「8%対象 0円(消費税0円)」
とまでは書く必要はないという点も書いてくれています。
「税率なんて書いてなくてもわかるでしょ」は正しいか?
そもそもこうした質問が出てくる背景としては
「わざわざ10%と書かなくても、請求書の中身を見たら10%ってすぐにわかるでしょ」
という考え方があるのだと思います。
食品かどうかの判断なんて難しくないと思われるかもしれませんが、実際には同じ食品でも10%になったり8%となるケースがあります。
飲食できるものなのに10%となる例としては
(1) 工業用原材料として取引される塩
(2) 観賞用・栽培用として取引される植物及びその種子
があります(軽減税率通達2)。
「塩」を聞くと恐らくほとんどの方が「食品でしょ」と考えると思いますが、工業用の原材料として取引される場合には消費税率は10%が適用されます。
食べられるものであっても売手側が
「これは飲用や食用として売るものではありません」
と認識している場合は消費税率は10%となります。
ちなみに飲食用として8%で購入したものを、購入者が飲食用以外の用途に使ったとしても税率は8%のままです。
他にも
- 「みりん」は酒類なので10%、「みりん風調味料」は食品なので8%
- 「重曹」を食品添加物として販売した場合は8%
など食品かどうかの判断は意外と悩ましいケースが多いものです(国税庁:消費税の軽減税率制度に関するQ&A問14・問20)。
軽減税率が導入され複数税率となったことにより、売手が買手に対して税率や税額を正しく伝える必要が出てきたためにインボイス制度が導入されることとなりました。
上記の例のように判断に迷うケースが出てくるので「売手側の認識」を正しく買手に伝える必要があります。
「だけどウチはそもそも食品に該当しそうなものは一切扱ってないから書かなくても問題ないでしょ」といいたくなる方もいると思いますが、税率を書く必要がある事業者と書かなくてよい事業者を線引きするルールを作るのは大変ですから現実的ではないでしょう。
区分記載請求書等について
軽減税率が導入された時点で「区分記載請求書等」と言われる書類(請求書等)がないと仕入税額控除ができないことになりました。
この区分記載請求書等は、将来のインボイス制度への対応に向けた橋渡しといういうか準備期間のものと位置づけられています。
で、この「区分記載請求書等」には税率を書かなくていいことになっています。
最終的にインボイスに税率を書かないといけないことがわかっていたのであれば、なぜ「区分記載請求書等」に税率の記載を求めなかったのか疑問です。
事業者のシステム変更等の負担を減らすためだと思いますが、数年後に再度変更が必要だとわかっていたわけですから、最初からインボイスと同じ記載項目を求めても良かったんじゃないかと(消費税額の端数処理の問題とかありますが)。
取引先からの印象を悪くしないためにも税率の表示を
もしインボイスに税率の表示を忘れたらどうなるか?
税務調査の時にわざわざインボイスを1枚ごとチェックして、
「税率表示がないからこのインボイスで仕入税額控除できません」
なんてケースはほとんど無いと思ってます。
とはいえ
調査で指摘されない=法律上問題なし
ではありません。単に手が回らなくて細かい点までチェックできないだけです。
数年後に
「今ウチに税務調査が入っていて、御社の請求書に税率表示がないのでインボイスの要件を満たしていなって言われた。税務署に説明するために取引がすべて10%であることを保証する文書を出してほしい。」
みたいなことを言われる可能性はゼロではありません。
こういうことを取引先から言われたらなんかカッコ悪くないですか?
そうでなくても大手の会社と取引がある場合は
「この会社の請求書、税率表示がないからインボイスとしての要件満たしてない」
と思われるかもしれません(出し直してくれと言われる可能性も)。
税率の表示は一度対応すればあとは特に対応は不要なので、そこまで手間はかからないはず。
ここで手を抜いてもほとんどメリットはないでしょう。
細かい話ではありますが、インボイスの税率表示はきちんと対応しておきましょう。
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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