電子取引のデータ保存については2年間は厳しく追求されないものの、法律としては既にスタートしています。そこで今回は小規模事業者がデータ保存に使えそうなサービスについて確認しておきましょう。
電子取引データの保存方法を改めておさらい
電子取引を行った場合に取引情報は電子データのまま保存しなければならないという法律の改正。
昨年いろいろありましたが、とりあえず今年と来年については紙で保存しておけば、税務署はあまり細かいことは言わないということになりました。
とはいえ法律としては既に今月からスタートしていますので、改めて電子取引データを保存する際に認められている方法を確認してみましょう。
具体的には
- 取引相手からタイムスタンプ付のデータをもらって保存する
- データ受領後速やかに自社でタイムスタンプを付けて保存する(タイムスタンプを付与できるシステムに保存する)
- データの訂正削除の履歴が残るシステムに保存する
- 訂正削除の防止に関する事務処理規程を準備してフォルダなどに保存する
のいずれかで対応する必要があります。
コストをかけたくない中業企業としては、4が現実的ではありますが
「データを検索できるようにしておかないといけない」
というルールもあるため、PDFファイルなどのデータを保存する際に
「20221031_(株)国税商事_110000.pdf」
と取引日・相手先・取引金額を含めたファイル名にする必要があります。
そのため、このファイル名の変更が結構手間なんじゃないかという心配があるわけです。
「ファイル名を変えるのは面倒だけどコストもかけたくない」となると無料・もしくは低コストで使えるデータ保存サービスを検討することになります。
そこで今回は、こうしたサービスについて確認しておくことにしましょう。
※余談ですが、国税庁の電子帳簿保存法に関する一問一答では、当初ファイル名は「20221031_㈱国税商事_110,000」となっていて、ファイル名の金額部分にコンマが入っていましたが、本日確認したところコンマがなくなってます。最近こういう細かい修正はアナウンスなしに実施されるので、公表資料の変更点が正確に把握できずちょっと不安です。
無料で使えそうな保存サービスは?
電子取引データを保存できるサービスを探してみたところ、見つかったのが次の3つ。
- BillOneスモールビジネスプラン
- バクラク電子帳簿保存(旧:LayerX電子帳簿保存)
- マネーフォワードクラウドBox
※freeeにも同様の機能はありますが、会計ソフトとしてfreeeを利用することが前提のため今回は対象から外しています。
従業員数100名以下の法人限定 スモールビジネスプラン | Bill One – クラウド請求書受領サービス | 請求書受領から、月次決算を加速する
電子帳簿保存法対応ソフトなら「バクラク電子帳簿保存」無料利用可能!
電帳法対応ストレージサービス「マネーフォワード クラウドBox」
公表資料などをもとに、本日時点での費用や機能制限等の違いをまとめますと
BillOne | バクラク | マネーフォワード | |
料金 | 無料 | 無料 | 無料 |
データ化可能件数 | 100件/月 | 500件/月 | 制限なし |
ユーザー数 | 制限なし | 5ユーザーまで | 制限なし |
閲覧可能件数 | 最新500件、定期的に索引簿エクスポート必要 | 記載なし | 無制限 |
データ保存件数 | 無制限 | 記載なし | 無制限 |
タイムスタンプ | なし(訂正削除履歴) | 付与する | 付与する |
その他 | 従業員100名以下の法人限定 | AI-OCRによる入力補完は毎月最初の5件のみ | マネーフォワード会計(有料)からの登録も可能 |
となります。
一番ネックになるのは、データ化できる件数が自社の規模に合っているかどうかという点です。
ここがクリアできるのであれば、こうしたサービスの利用が視野に入ってきます。
ただし、こうしたサービスを利用したとしても、取引日・取引金額・相手先といった情報については手動で入力する必要が生じる点には注意が必要です。
フォルダにファイルを保存する場合と比較して、保存業務がラクになるかどうか慎重な判断が求められます。
※BillOneはアップロードしたデータをデータ化してくれますが、取引日を入力する欄がそもそもありません。
※バクラクはAI-OCRで請求書を読み取って自動的に項目を入力してくれますが、無料プランでは5件/月しかこの機能は使えません。
すべて無料で始められますので、関心のあるサービスについては一度試してみることをオススメします。
今年と来年は紙で保存しておけばよいのですから、この期間を試行期間としてどのサービスが自社に合っているか検討する時間として活用しましょう。
ちなみにこうした無料サービスを使う際にどうしてもつきまとう
「どうせ将来有料化するんじゃないの」
という問題。これについては、正直どうなるかわかりません。
BillOneやバクラクには有料プランもありますので、
「いざというときに有料プランに移行しても構わないと思える料金体系・サービス内容か」
という観点も含めて検討いただければと思います。
検索要件を満たさない場合、どの程度問題になるか?
今回無料で使える電子取引データの保存サービスについて確認しました。
とはいえ、こうしたサービスを検討する必要があるのは
「データを検索できるようにしておくこと」
というルールがあるためです。
ではもしファイル名に取引日等を含めずに、受領したときのファイル名のまま保存しておいたら税務調査で問題になるか?
例えばですが、3月決算の会社が、
「2022年3月期」(年度)-「(株)国税商事」(取引先名)-「1月」(月度)
というフォルダ体系を作っておいて、該当するフォルダに電子取引データを保存するとします。
この場合少なくとも
- 取引先名
- 取引年月日のうち年月
についてはフォルダ体系から読み取れます。
確認した限りでは、法律の中に「検索」という言葉の定義は見当たりません。
検索要件が必要とされるのは、
- 税務調査の際にすぐに必要なデータを提示できるようにする
- 調査官が指示した検索条件ですぐにデータを探せる
といったことが目的と考えられますので、必要なデータをすぐに探せる状態にしていれば、ある程度は検索要件も満たしているといえるのではないでしょうか。
つまり税務調査の際に、必要とされるデータをすぐに提示できる状態になっていれば、実務上は問題になる可能性は低いのではないかと。
ただし、この状態では「取引日」(○日の部分)や「取引金額」については検索できる状態にはなっていませんので、法律が求めるものを完全には満たしていません。
そのため立場上は
「この方法でゼッタイ大丈夫です!」
とは言い切れず、積極的には推奨できない方法ではあります・・・。
それでも電子取引データの保存について一切何も対応していないよりは
「ここまでは企業努力として対応した」
という姿勢を見せられる方が、税務署から指摘を受けるリスクが減ることは間違いありません。
電子取引データの保存方法については、税務リスクとかかる手間を比較して「自社にとっての現実的な対応方法は何か」という観点でご検討いただければと思います。
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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