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電子帳簿保存法への対応にあたってはいろいろと疑問点も多いですが、先週国税庁より「お問い合せの多いご質問」という形で追加情報が公表されました。今回はこの内容を確認しておきましょう。

国税庁より「お問合せの多いご質問(令和3年 11 月)」が公表

来年1月から適用となる電子帳簿保存法の改正ですが、今年の7月に一問一答という形でQ&Aが公表されて以降、国税庁から追加の情報等はありませんでした。

11月に入り、ようやく追加情報などが出てくるようになりました。

例えば、YouTubeでの解説動画や、

一問一答の内容に対して寄せられた問合せの多い質問への回答が掲載されています。

国税庁:お問合せの多いご質問(令和3年 11 月)

※ちなみにこのYouTube動画、全然わかりやすくないです。一般の方にはツラすぎるかと。

今回は、「お問い合せの多いご質問(令和3年11月)」内容を確認していきましょう。

中身を確認してみると、追加のQ&Aとして

  • 帳簿書類に関するもの:3問
  • スキャナ保存に関するもの:6問
  • 電子取引に関するもの:7問
  • 補足説明:4件

の合計20件の情報が追加されていますが、このうち義務化されることにより対応を急がなければならない「電子取引」に関するものに焦点を当てます。

公表資料からわかる新たな情報は?

公表資料から読み取れる情報について確認していきましょう。

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紙とデータ両方受取った場合の取扱い

例えば請求書についてメールの添付ファイルで事前に受取り、後から紙の請求書が送られてくるようなケース。

これについては、「電取追1」の回答にて次のように記載されています(太字は筆者による)。

電子データと書面の内容が同一であり、書面を正本として取り扱うことを自社内等で取り決めている場合には、当該書面の保存のみで足ります。ただし、書面で受領した取引情報を補完するような取引情報が電子データに含まれているなどその内容が同一でない場合には、いずれについても保存が必要になります。

要するに、取引先と「紙を原本として扱いましょう」と取り決めしておけば、電子データ(PDFファイルなど)の保存は不要ということが明記されています。

ただし、メール本文に取引に関する追加情報(紙の請求書に記載がないもの)が書いてあるようなケースでは、メールも保存しておく必要がありますので注意が必要です。

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電子取引データの保存形式

保存するデータが最初からPDFファイルであれば何を保存すべきか悩むことはありませんが、EDI取引などの場合は具体的にどのようなデータを保存すべきなのか?

この点について「電取追2」の解説に次のように書かれています(太字は筆者による)。

電子取引を行った場合には、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならないと規定されているところ、必ずしも、相手方とやり取りしたデータそのもののみしか保存が認められないとは解されません
例えば、EDI の取引データを XML データでやり取りしている場合において、当該 XML データを一覧表としてエクセル形式に変換して保存する場合は、その過程において取引内容が変更される恐れがなく合理的な方法により編集したものと考えられるため、当該エクセル形式のデータによる保存も認められると考えられます。

要するに、元データ(取引内容)が変更されていないと説明できる合理的な方法で変換したデータであれば、変換後のデータを保存する方法も認められる、と読み取れます。

中小企業でEDI取引データの保存が必要な会社は多くないかもしれませんが、相手方とやりとりしているデータそのものでなくても、電子取引データの保存として認められるケースがあるという点は頭に入れておいて損はないでしょう。

検索要件の一つである「取引金額」は税抜?税込?

電子取引データの保存にあたってはデータを検索できるようにしておく必要があり、その項目の一つとして「取引金額」があります。

この「取引金額」は、税抜金額とすべきなのか、それとも税込金額とすべきなのか?

この点については、「電取追4」の回答で次のように述べられています。

帳簿の処理方法(税込経理/税抜経理)に合わせるべきと考えられますが、受領した国税関係書類に記載されている取引金額を検索要件の記録項目とすることとしても差し支えありません。

結論から言えば、自社の経理方式(税込経理/税抜経理)に合わせた金額にしてもいいし、請求書等に記載された金額を使ってもいい、ということであまり気にする必要はなさそうです。

ただ、個人的な意見としては、保存する電子データのファイル名に取引金額を含める場合、わざわざ税抜金額を計算してファイル名にするのは大変かと思います。

従って、請求書等に記載の金額をファイル名とする方法をオススメします。

なお、本題からはそれますが、同問の解説において、

検索機能の確保の要件は、税務調査の際に必要なデータを確認することを可能とし、調査の効率性の確保に資するために設けられているものと考えられます。また、税務調査では帳簿の確認を基本とし、帳簿に関連する書類や取引情報の確認を行っていくことが想定されることから、基本的には帳簿と同じ金額で検索できるようにしておくべきと考えられます。

とあります(太線は筆者)。

帳簿から遡って原始証憑を調べることを想定しているのであれば、なぜファイル名を仕訳帳の仕訳番号とする方法も認めなかったのだろうか、という思いはあります。

請求書・領収書等以外は仕訳帳と紐つかない、記帳処理前にファイル名を付けたいケースもある、などの理由はあるかと思いますが、いきなり取引金額で検索するケースが一体どれほどあるのだろうか?という疑問は残ります。

取引金額がない場合、検索すべき「取引金額」をどうすべき?

契約書などで取引金額がない書類も存在します。

その場合に、検索要件の一つである「取引金額」をいくらにすべきか?

「電取追5」の回答は次のようになっています(太線は筆者)。

記載すべき金額がない書類については、「取引金額」を空欄又は0円と記載することで差し支えありません。ただし、空欄とする場合でも空欄を対象として検索できるようにしておく必要があります。

「0」にするか「空欄」にしておいて、ということのようです。

なお電子取引データの保存に使うシステムで「空欄」が検索できる場合は問題ありませんが、保存するファイル名で検索する場合には「空欄」についてはきちんとスペース(空白)を入れておく必要があると考えます。

そうしておかないと「空欄」として検索できませんので、この点は注意が必要です。

税務調査でダウンロードを求められたときに提供すべきデータ形式

検索要件を一部免除してもらうには、税務調査の際にデータダウンロードに応じる必要がありますが、この際にどのような形式で提供する必要があるのか?

この点については、「電取追6」の解説に次のような記載があります(太線は筆者)。

データのダウンロードを求める際には、通常出力が可能な範囲で税務職員が出力形式を指定することもありますが、出力可能な形式でダウンロードを求めたにも関わらず、検索性等に劣るそれ以外の形式で提出された場合は、そのダウンロードの求めに応じることができるようにしていたことにはなりません(法令解釈通達 4-14 参照)。

例えば独自ソフトなどでデータを管理していて、CSVファイルで出力可能な機能があり、CSVファイルでの提供を求められたにもかかわらず、そのソフトでしか読み取りできないような形式でデータを提供すると、「ダウンロードの要請に応じていない」ということで問題となる可能性があります。

「このデータ形式でなければならない」という決まりはないものの、何でもいいわけではないという点には注意が必要です。

データを印刷してからスキャンするのはOK?

電子取引とスキャナ保存の両方に対応する会社であれば、社内フローを統一するために電子データについても一旦印刷してスキャナ保存のフローとして処理したい、と考える会社があるかもしれません。

この点については、「電取追7」の回答にて明確に「No」とされています。

電子取引の取引情報に係る電磁的記録を出力した書面について、スキャナ保存することは認められません。

ちなみに、世の中には電帳法の改正により

「電子データを紙に印刷すると法律違反になる」

という誤解があるといった話をたまに耳にします。

法律違反になるのは、あくまで

「電子データを紙に印刷して、取引の証拠として保存すること」

であって、社内業務や検討のために紙に印刷することはまったく違法ではありません、念のため。

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まだまだスッキリしない点は多いですが・・・

国税庁から追加公表された資料を元に、電子取引に関する主な内容を確認しました。

実務上の取扱いがハッキリしない点はまだいろいろとありますが、とりあえず追加情報が出てくるようになった点は素直に歓迎したいと思います。

実施まで既に2ヶ月を切っているため、最低限の準備を進める必要はありますが、一問一答や今回の追加情報を読む限りでは、国税庁側も「何でもかんでもダメ」というスタンスで臨んでいるわけではないと感じています。

ラクとはいいませんが、電子帳簿保存法の電子取引データの保存については、過剰に恐れすぎずにひとつずつ問題点をクリアしていくことが重要です。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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