前回に引き続き、令和5年度税制改正大綱の中から電子帳簿保存法に関する内容を取り上げます。
目次
令和5年度税制改正大綱が公表されました
2022年12月16日に令和5年度税制改正大綱が与党から公表され、ここに記載された内容に沿って来年法律が改正されます。
前回に引き続き、今回は税制改正大綱の中から電子帳簿保存法に関するものを確認しておきましょう。
なお、記事の内容は税制改正大綱に基づくもののため最終的には異なる部分が出てくる可能性がありますのでその点ご注意ください。
電子帳簿保存法に関する変更点
【1】優良な電子帳簿の範囲の見直し
「優良な電子帳簿」としての要件を満たした帳簿を備付けて、事前に税務署に必要な届出を行った場合、過少申告加算税が5%軽減される措置があります。
この場合に保存しておくべき帳簿については、ザックリいえば
「法人税・所得税・消費税で保存が求められている帳簿すべて」
となっていました。
正直なところ範囲が広すぎて、中小零細企業がこの制度を適用するのは難しい面もありましたが、法人税・所得税に関してはその範囲を以下の通りとするよう改正されることになりました。
- 仕訳帳
- 総勘定元帳
- 次の事項が書いてある1・2以外の帳簿(所得税についてはdを除く)
- 手形債権債務
- 売掛金などの債権
- 買掛金などの債務
- 有価証券(商品を除く)
- 減価償却資産
- 繰延資産
- 売上等の収入
- 仕入・経費や費用(法人税については賃金・給料手当・法定福利費・厚生費を除く)
会社ごとに対象となる帳簿は変わってきますので一概には言えませんが、保存すべき帳簿の範囲が明確になり、過少申告加算税の軽減措置の適用を検討する会社が増えるのではないでしょうか。
【2】スキャナ保存制度の要件緩和
スキャナ保存制度に関連して
- 読み取った際の解像度・階調・大きさに関する情報保存が不要
- 入力者等の情報の確認要件を廃止
- 相互関連性要件の対象を契約書・領収書等の重要書類に限定
という改正が行われる予定です。
スキャナ保存をするのであれば何らかのソフトやサービスを使うことになると思います。
1・2については、スキャナ保存制度に対応したソフトやサービスを選定する際にはチェックすべき項目ですが、実際にスキャナ保存を行う段階になれば気にすることはほとんどないと思われます。
そのためサービス提供会社以外はあまり意識することはないかもしれません。
3についてですが、スキャナ保存制度ではスキャンしたデータと帳簿の関連性を確認できるようにしておく必要があります。
現在はスキャンしたデータすべてが対象ですが、この対象を契約書や領収書などに限定するというものです。
ただ領収書などは従来通り対象となっていますので、負担としてはほとんど変わらないのではという気がします。
電子取引の保存についてはこうした要件はないのですが、スキャナ保存については廃止してくれないようです。
【3】電子取引保存の検索要件が不要となる対象範囲の拡大
電子取引データの保存について、データのダウンロード要請に応じるのであれば検索要件が不要とされていたのは、従来は判定期間の売上高が1,000万円以下の事業者だけでした。
これが
- 判定期間の売上高が5,000万円以下の事業者
- 電子取引データを印刷・ファイリングした書面を提示・提出できるようにしている事業者
に拡大されました。
売上高が常時5,000万円以下の事業者は、データダウンロードに応じるのであれば検索要件を気にせずにとりあえずデータを保存しておけばよいことになります。
それ以外の事業者についても
- データダウンロードの要請に応じる
- 電子取引データを印刷したものをきちんとファイリングしておく
ことにより検索要件は不要となります。
ただ個人的には、もしデータを一切保存せずにすべて書面で保存するという従来の運用をしたらどうなるのだろうかという疑問はあります。
この場合ダウンロードできるデータはないわけですが、特に問題なく認めてもらえるのかどうか。
このあたりは今後の情報を待ちたいと思います。
【4】電子取引の保存ができない相当の理由がある場合の猶予措置
【3】とは別に
- 検索要件等を満たして電子取引データを保存できなかったことについて税務署長が「相当の理由」があると認める
- データのダウンロード要請に応じる
- 電子取引を印刷・ファイリングしたものを提示・提出できる
という条件を満たした場合にはその保存を認めるという措置が導入されるとのこと。
この猶予措置については「相当の理由」として認められる範囲がどうなるかにより影響は変わってくることになります。
どんな理由でもOKということであれば、従来通りの紙保存をすればよいとも読めます。
この点についても今後詳細が明らかになる中で確認していきたいと思います。
【5】宥恕措置の廃止
2023(令和5)年12月31日までは実質的に紙での保存を認めていた宥恕措置については期限が到来した時点で廃止されます。
電子化は電帳法と切り離して検討すべき?
今までこのブログでは電子帳簿保存法について
「電子取引への対応をきちんと検討していきましょう」
というスタンスでお伝えしてきましたが、今回の改正を踏まえると
「慌てて対応するのはやめましょう」
といわざるを得ません。
既に対応済みの事業者もいらっしゃるわけで、いろいろ納得がいかない部分もありますが、対応がまだの方については法律や通達などきちんとした情報が出てから対応しましょう。
中小零細企業にとっては電子取引の保存に関して求めるハードルが高かったため、電子帳簿保存法への対応をひとつのキッカケとしてペーパーレスや電子化を進めるべきと考えていましたが、ここまで緩和されると法律対応はあまり気にする必要はないと考えます。
今後は自社の電子化・ペーパーレス化などについては、純粋に自社にとって業務効率化などのメリットがあるかどうかで検討していくべきでしょう。
法律対応をあまり気にする必要がなくなりましたので、検討しやすくなったともいえます。
とはいえ税制改正大綱だけでは詳細がわからない部分もありますので、その点は今後確認していきたいと思います。
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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