事業で扱うデータが増えてくると、いざというときのためにバックアップを取っておくことが重要です。では電子取引のデータについてはどう考えるべきでしょうか?
バックアップは電子帳簿保存の要件ではないけれど・・・
電子帳簿保存法で電子取引をデータのまま保存しておくことは義務となっていますが、その一方で法律の中に
「データをバックアップしておきなさい」
ということは書いてありません。
この点については、電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】において
問22 バックアップデータの保存は要件となっていますか。
【回答】
バックアップデータの保存は要件となっていません。
【解説】
バックアップデータの保存については法令上の要件とはなっていませんが、電磁的記録は、記録の大量消滅に対する危険性が高く、経年変化等による記録状態の劣化等が生じるおそれがあることからすれば、保存期間中の可視性の確保という観点から、バックアップデータを保存することが望まれます。
また、必要に応じて電磁的記録の保存に関する責任者を定めるとともに、管理規則を作成し、これを備え付けるなど、管理・保管に万全を期すことが望ましいと考えられます。
となっていることからも確認できます(太字は筆者)。
法律上は必要ないといっておきながら、解説において
「データは消えたり劣化の可能性があるのでバックアップしておいた方がいいよ」
と書いてるのが微妙なところではあります。
また問24においても
問24 クラウドサービスの利用や、サーバを海外に置くことは認められますか。
という問に対する解説の中で
なお、バックアップデータの保存については、法令上の要件とはなっていませんが、通信回線のトラブル等による出力障害を回避するという観点からバックアップデータを保存することが望まれます。
ともあり、なんとも煮え切らない書き方だなと感じる次第です。
電子帳簿保存法では電子取引について、災害その他やむを得ない事情があった場合には宥恕措置といってある程度大目に見てくれるとは書いてあります(電規4③)。
ただバックアップを取らずにデータを預けているサービス提供者のデータが飛んでしまった場合に、これに該当するかどうかは現時点でははっきりしません。
そもそも電子取引などのバックアップって取れるのか?
電子取引として保存していたデータの破損・消失などがあった場合に、税務署から問題とされる可能性があるのであれば、自衛としてバックアップを取っておいたほうがよいということになります。
ただしここで問題なのは
「そもそもそうしたデータってバックアップできるの?」
という点。
保存サービスなどを確認しても「アップロード機能」はあっても「ダウンロード機能」は見当たりません。
法律上はタイムスタンプを押したり訂正削除の履歴が必要ですが、電子ファイルと一緒にそうしたものをダウンロードすることがそもそもできないんじゃないかと。
そうなるとアップロードしたファイルを別途どこかに保存するしかありませんが、さすがにそこまでやり出すと面倒です。
マネーフォワードだとAmazonから領収書を自動取得出来ますが、そうした機能が増えていくとバックアップのためだけに改めて領収書データをダウンロードしなければならなくなり、せっかくの利便性が失われてしまいます。
「デジタルデータは消失や劣化しやすいのでバックアップ取った方がいい」というのがバックアップを推奨する理由となっていましたが、そもそも紙の書類であっても文字がかすれたり破れたりといったリスクはありました。
紙の書類の保存についてわざわざコピーをとってバックアップするなんてしていなかったのに、電子データだけバックアップを取る必要があるのかどうかという疑問は残ります。
その一方で、例えば無料で提供されているマネーフォワードクラウドBOXの規約を確認してみたところ
利用規約変更のお知らせ(改定日 2022年6月28日) | マネーフォワード クラウドBoxサポート
となっていて、マネーフォワードクラウドの有料契約していないとそもそもバックアップを取らないという書き方になってます。
特に無料サービスを利用する場合はこうしたリスクも踏まえてバックアップすべきか考える必要がありそうです。
バックアップは自己判断で決めるしかない
電子取引についてバックアップをどう考えるべきか確認しましたが、現状では
- データが破損・消失した際の税務上のリスク(税務署が大目に見てくれるかどうか)
- サービス提供事業者のバックアップ体制(有償・無償による対応差を含む)
といった点を考慮して、なんらかのバックアップを取るか決めていく必要がありそうです。
個人的には電子取引データを保存しているサービス提供事業者がバックアップを取ってくれているのであれば、こちらでバックアップを取る必要はないかなと思っています。
取るか取らないかでいえば取った方がいいのですが、書類の保存にどこまで手間をかけるかという問題です。
今回は電子取引に焦点を当ててますが、電子帳簿やスキャナ保存については別の視点も必要になるでしょう。
電子帳簿っていってみれば会計データ。電子帳簿保存法に関係なくデータがなくなってしまうと困るのは自分(自社)です。
スキャナ保存については紙の元書類を廃棄してしまうので、データが消失したときに提示できる代替物がありません。
うまくいけば取引先に請求書を再発行してもらえるかもしれませんが大変です。
こうした点を踏まえてバックアップの要否を判断していくべきでしょう。
考え出すと意外と面倒な電子帳簿保存法時代のバックアップ。今回の記事がバックアップを検討される際の参考になれば幸いです。
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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