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クラウド会計の登場で、会計ソフトは感覚的に使えるものというイメージが広まった気がします。実際のところはどうなのか検討してみましょう。

会計ソフトの指示通りに処理すれば問題ない?

クラウド会計の広告などでは

「簡単にできる」「記帳の自動化」「専門家不要」

といった類いの文言が並んでいることが多く、こうした広告を見た方の中には

「難しく考えなくても画面の指示通りに処理すればいいんだ」

と考える方もいらっしゃるようです。

もちろん昔ながらの会計ソフトと比べると

  • 入出金については貸借を考えなくていい(データ連携すれば預金科目は入力済み)
  • 仕訳ルールを正しく登録すれば毎回処理を悩まなくていい(登録ボタンを押すだけ)
  • ある程度は科目を提案してくれる

といったメリットもあり、一般の方にとって使いやすくなったのは間違いありません。

実際のところ、会計ソフトに入力するとなると借方・貸方という表示に戸惑い、どっちに何の科目を入れれば良いか悩む方も多でしょうから、こうした点は大きく改善されたといえるでしょう。

その一方でイレギュラーな内容が発生した場合など、画面の指示通りに処理しても正しくならないケースも当然ありますし、会計ソフトが提案する科目が常に正しいとは限りません。

画面表示に従ってボタンを押すだけで、最終的に正しい数字が出てくる可能性はかなり低いです。

出てきた数字が正しいか必ずチェックが必要

会計ソフトを思うように使いこなせない理由は何か?

「簿記3級程度の知識を持っていないからだ」という考え方もありますが、それだけではありません。

簿記を学ぶと「手作業で」帳簿を作成する手順を学びますが、簿記の仕組みでチェックできるのは帳簿間の転記が正しいかどうかだけです。

会計ソフトを使うとこの手作業における転記についてはソフトが自動的に行ってくれますので、簿記的なチェックは必要ありません。

その一方で出てきた数字そのものが正しいかどうかのチェックは必要となりますが、簿記を学んでもこうしたチェック方法は教えてくれません。

会計ソフトから出てきた数字をチェックする方法としては、例えば次のような方法があります。

  • 貸借対照表(B/S)
    • 各科目の残高が補助簿(金銭出納帳・売掛帳・固定資産台帳など)や通帳・残高証明書など「こうなるはず」という数字になっているかチェックする
  • 損益計算書(P/L)
    • 売上高や減価償却費など補助簿(売上帳・固定資産台帳等)がある科目は補助簿と数字が一致しているか確認する
    • 前年の実績と比較して大きく増減している科目について原因を確認する
    • 月別の推移表を見て突出して増減している科目がある場合に原因を確認する

といった方法があります。

貸借対照表については、すべての残高について「答え」となるものがあります。

この「答え」と帳簿の残高が合っているかをチェックすることになります。

損益計算書については、貸借対照表と違って「答え」になるものがない科目もたくさんあります。

こうしたケースについては、別の基準(前年・前月・計画など)と比較することで処理の誤り(金額の入力誤り・科目の誤りなど)を見つけやすくなります。

このような会計ソフトから出てきた数字をチェックする方法については、一般の方には学ぶ機会がほぼありません。

そのため結果が正しいか判断できず、会計ソフトを十分に使いこなせないということになってしまうわけです。

「正しい入力の仕方を知っていればチェックなんて不要だ」と考える方がいるかもしれませんが、普段から入力作業をしている専門家であってもミスは必ず起きます。

「出てきた数字が正しい」と言えるためには必ずチェックが必要です。

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なにごとも「最初に」基礎を学ぶのが大事

今回解説した内容については

「知っているかどうか」「知っているのなら実際にチェックするか」

だけです。

事業を始める方の場合

「規模が大きくなってから税理士に相談しよう」

というケースが多いかもしれませんが、どちらかといえば最初にきちんとやり方を学んだ方がトータルとして効率が良いと思います。

最初に全体像を学んで「自分には手に負えない」となれば記帳代行を頼むという判断もしやすくなるでしょう(もちろんコストとの兼ね合いはありますが)。

「なにごとも最初が肝心」といいますが、会計ソフトの使い方にも当てはまります。

「会計ソフトでボタンを押していたら数字が出てきたので、これで申告すれば問題ない」というケースは現状ではほとんどありません。

「出てきた数字に対しては必ずチェックが必要」という点をご理解いただければと思います。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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