「電子帳簿保存法に完全対応するんだ」と始めてみたものの、「やはりウチにはムリ」というケースも可能性としては考えられます。こうした場合の取扱いを確認しておきましょう。
目次
電子帳簿保存法って途中で断念しても大丈夫?
電子帳簿保存法が改正されて、今年(2022年)からは帳簿や書類などのデータ保存やスキャナ保存のハードルが下がりました。
これを機に
「ウチも完全ペーパーレスを目指そう」
という事業者もいらっしゃるのではないでしょうか。
とはいえ意気込んで始めてみたものの
「まだ会社としての体制が整っていなかった」
「従業員が十分に対応できない」
「検討が不十分だったため、紙の保存より手間がかかる」
といった理由でデータでの保存を断念せざるを得ないケースもあるかもしれません。
今年からは電子帳簿保存を行うにあたり税務署長の事前の承認を受ける必要はなく、やめる際にも申請や届出をする必要はありません。
そのため一旦始めた電子帳簿保存を途中でやめることには問題はありません。
ただしそこまでデータで保存していた帳簿や書類についての取扱いについては注意が必要です。
そこで今回は残念ながら途中でギブアップしてしまったときの取扱いを確認します。
なお、電子帳簿保存法には大きく分けて
- 電子帳簿・電子書類
- スキャナ保存
- 電子取引
の3つの区分がありますが、今回のお話しは1・2に関する内容です。
3の電子取引についてはデータ保存は「義務」となっていますので、途中でギブアップすることは認められていませんのでご注意ください。
途中でデータ保存をやめる時に注意すべき点
途中でデータ保存をやめた場合の取扱いについては、電子帳簿保存法の一問一答に解説があります。
電子帳簿・電子書類とスキャナ保存に分けて確認していきましょう。
電子帳簿・電子書類
途中でやめた場合の取扱いについては
電子帳簿保存法一問一答【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】
の問37に説明があります(太線は筆者)。
問37 電磁的記録等による保存等を取りやめることとした場合、その取りやめることとした日において保存等している電磁的記録等は、そのまま電磁的記録等により保存等することとしてもよいのでしょうか。
【回答】
電磁的記録等による保存等を取りやめることとした場合、その取りやめることとした日において保存等していた電磁的記録等のうち、保存要件を満たせなくなるものについては全て書面(紙)に出力して保存等をする必要があります(取扱通達4-39)。
引用の中にあるとおり、電子データでの保存をやめた日においてデータで保存していた帳簿や書類については
すべて紙に印刷して保存する必要がある
とされています。
データのまま保存しておくことは認められていませんので注意が必要です。
データで保存するつもりがないのだから、一旦データで保存したものについても保存する前と同じく紙で保存しなさい、ということなんでしょう。
スキャナ保存
スキャナ保存を途中でやめた場合の取扱いは
の問63で説明されています(太線は筆者)。
問63 スキャナ保存を途中で取りやめることとした場合、その取りやめることとした日において保存している電磁的記録は、そのまま電磁的記録により保存することとしてもよいのでしょうか。
【回答】
スキャナ保存を適用していた保存義務者が途中でスキャナ保存を取りやめることとした場合、電磁的記録の基となった書類を廃棄している場合は、その取りやめることとした日において保存している電磁的記録を、当該国税関係書類の保存期間が満了するまでそのままスキャナ保存の要件に従って保存することになりますが、電磁的記録の基となった書類を保存しているときは当該書類を保存する必要があります。
(以下略)
この回答のポイントとしては
- スキャナ保存した紙の書類を残している場合・・・紙の書類を保存する
- スキャナ保存した紙の書類が廃棄済みの場合・・・スキャナ保存をやめる時点で既にデータ化済のものは、そのまま要件を満たして保存する
となります。
つまり元の紙書類を廃棄している場合には、スキャナ保存をやめることにしたとしても
やめる時点で既にスキャナ保存しているデータは保存期間が終了するまでデータでの保存はやめられない
という点に注意が必要です。
紙の書類が残っていないのでデータを削除できないのは当然ですが、すでにバージョン管理等されている状態のデータを紙に出力すると管理レベルが下がってしまうので、税務署としては認められないということかと思います。
ここまでの内容を表にまとめると次のようになります。
区分 | やめた時点のデータの保存方法 |
電子帳簿・電子書類 | すべて紙に出力して保存 |
スキャナ保存(元書類が残っている場合) | オリジナルの紙書類を保存 |
スキャナ保存(元書類が残っていない場合) | スキャナ保存を継続 |
【参考】「優良帳簿」の過少申告加算税軽減措置の適用をやめた場合
※中小零細企業でこの項目に該当する事業者は少ないと思われますので、興味のない方は読み飛ばしてください。
電子帳簿の保存にあたり「優良帳簿」の要件を満たした上で、税務署に過少申告加算税の軽減措置を受けるための届出書を提出していたものの軽減措置の適用をやめた場合について確認します。
やめた後の保存については電子帳簿保存法一問一答【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】の問48に説明があります(太線は筆者)。
問48 法第8条第4項(過少申告加算税の軽減措置)の規定の適用を受けることをやめようとする場合の取りやめの届出書を提出した場合、その取りやめの届出書を提出した日において保存等している電磁的記録等は、そのまま電磁的記録等により保存等することとしてもよいのでしょうか。
【回答】
法第8条第4項(過少申告加算税の軽減措置)の規定の適用を取りやめる旨等を記載した届出書(以下「特例取りやめ届出書」といいます。)を提出した場合、その特例取りやめ届出書を提出した日において保存等をしている特例国税関係帳簿に係る電磁的記録及び電子計算機出力マイクロフィルムについては、引き続き規則第2条第2項の要件を満たしていれば電磁的記録等により保存等を行って差し支えありません。
なお、規則第2条第2項の要件を満たせない場合には、その電磁的記録等を書面(紙)に出力して保存等をしなければなりません。(取扱通達4-39)。
要するに「優良帳簿」でなくなったとしても「一般帳簿」としての要件を満たすのならば、電子帳簿として保存できますよということが書いてあります。
「一般帳簿」としての要件も満たさないのであれば、先ほど説明したように紙に出力して保存する必要があります。
ダメだったときの対処法を知ることで最初のハードルを下げる
電子帳簿書類やスキャナ保存を途中で断念したときの取扱いについて確認しました。
スキャナ保存で紙を廃棄している場合にはデータ保存を継続しなければならないという点には注意が必要ですが、他には特に難しい対応を求められるわけではありません。
「始めてみたいけどうまくいかなかったときのことが心配」ということであれば、運用が軌道に乗るまではスキャナ保存した紙の書類をいったん保存しておくという方法も考えられます。
(この方法ではスキャナ保存のメリットを十分には活かせないという問題は残りますが)
ダメだったときの対処法を理解しておけば、始めやすくなるものです。
「失敗したらどうしよう」ということで踏み出せていなかったのであれば、今回の記事も参考に改めて検討いただければと思います。
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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