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電子取引のデータ保存については2年間猶予されていますが、現実的な対応を少しずつ考えていく必要があります。今回はその前提となる電子取引の保存場所について確認しておきましょう。

電子帳簿保存法について現実的な対応を考える時期

電子取引データはデータのまま保存しなければならないという電子帳簿保存法の改正については、今年1月から実施予定でしたが、実質的に2年間延期されています。

改正についての一問一答が公表されたのが昨年7月で、年内に対応が必要だったため、昨年中はとにかく必要最低限の対応で間に合わせることに主眼が置かれていたのではないでしょうか。

大企業などは力業でなんとか昨年中に対応されたところも多いかもしれませんが、中小企業や個人事業者ではまだまだ何も対応できていないというところも多いのではないかと思います。

2年間の猶予が与えられたとはいえ、法律の改正がなくなったわけではありません。

「まだ1年半以上あるし大丈夫」と思っていると、あっという間にその時期は来てしまいます。

そろそろ、少しずつであっても中小企業や個人事業主でも対応可能な現実的な方法を考えていく時期になっていると感じています。

電子取引の保存場所についての考え方

ということで今回は、請求書をPDFファイルで受け取るなどの電子取引について、現実的な保存方法を考える際に前提となる考え方を確認しておきましょう。

それは

「電子取引のデータは一すべて同じ場所(サービス)にまとめて保存しないといけないのか?」

という点。

例えば、受け取ったデータについてファイル名を電帳法に対応するように変更してサーバーのフォルダーに保存すると決めた場合、他のどんなデータであってもすべてサーバーのフォルダーに保存しないといけないのか?

これについては、電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】の問23に回答が示されています。

問 23 電子取引の取引データの保存について、複数の改ざん防止措置が混在することは認められますか。また、電子データの格納先(保存場所)を複数に分けることは認められますか。

回答としては

電子取引の取引データの授受の方法は種々あることから、その授受したデータの様態に応じて複数の改ざん防止措置が混在しても差し支えありません。
また、電子データの格納先や保存方法についても、取引データの授受の方法等に応じて複数に分かれることは差し支えありませんが、電子データを検索して表示する場合には、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができるように管理しておく必要があります。

とされていて、データの受け取り方などに応じて別の場所で保存しても構わないとされています(太線は筆者)。

ただし、求められた時に検索してすぐにデータが表示されるように準備しておく必要はあります。

なお回答の前段で「改ざん防止措置が混在しても差し支えない」とありますが、これは電子取引データの保存については保存の際に

  1. タイムスタンプ付のデータを受け取る
  2. データ受領後に、タイプスタンプを自分で押す
  3. データの訂正削除の記録が残る(もしくは訂正削除できない)システムに保存する
  4. 訂正削除についての事務処理規程を準備する

のどれかが必要となります。

受け取るデータに応じて、タイムスタンプを押すサービスに保存したり、訂正削除の事務処理規程に基づきサーバーのフォルダに保存する、といった具合に保存する際の対応方法が複数になっても構わないということを指しています。

とはいえ、これはその日の気分に応じて保存場所を変えてもよい、ということではありません。

仮にA社から毎月同じ方法(例えば、PDF請求書のメール添付)で受取っているにもかかわらず

「今月は訂正削除に対応したBサービスに保存しよう」

「今回は、Bサービスへ登録するの面倒だからフォルダに保存しておこう」

といった対応はダメです。

(Bサービスとフォルダを同時に検索できるような仕組みがあれば、認められるかもしれませんが)

きちんとルールを定めて、同じ種類の電子取引データは同じ場所に保存しておかないと、回答の中にある

整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができるように管理しておく必要があります

を満たしていないとされてしまいます。

また、複数の方法やサービスを使ってデータ保存する場合には、どういったデータがどこに保存されているかわかるように、ルールや一覧表などで整理しておいた方がよいでしょう。

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実態に応じて最も負担の少ない方法を検討する

データの保存場所やサービスをひとつにまとめなくてよいということは、データの種類に応じて最も利便性の高いものを利用すればよいということになります。

電子取引と一口に言っても

  • メールに添付されたPDFの請求書
  • クラウドサービス経由で受け取る請求書
  • EDIシステムの取引データ

などなどいろいろあります。

これを無理にひとつのサービスに保存しようとすると大変ですが、それはやらなくていいということです。

メール添付の請求書は都度自社サーバーに保存するけれど、クラウドサービス経由で受け取るものはそのままサービス内で保存する、といった使い分けが可能です。

データ保存といった業務については、実際に作業する人が負担だと感じるとうまく機能しない可能性が高くなります。

コストは意識しながらも、実際に保存を行う人に最も負担がかからない方法を検討する必要があります。

そのためにも、まず最初の一歩として

  • どの会社から
  • どのような電子取引データを
  • どのような方法で

受け取っているかという調査・整理から始めることが大事です。

まだ時間はありますので、実態を整理した上で最も負担が少ない方法を検討していきましょう。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち、7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
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