電子帳簿保存法で保存すべきデータを検討する場合、データの受取側より発信側の方が悩ましいケースが多いものです。今回はこの点について考えてみたいと思います。

請求書を発行したときに何を残しておくべきか

請求書を作成して発行するとひと言で言っても、やり方はいろいろあります。

大きく分類すると

  1. 紙で請求書を作成して、紙のまま送付する
  2. 紙で請求書を作成して、スキャンしたPDFファイルを送付する
  3. データで請求書を作成して、データのまま送付する

となります。

受け取った側からすると

1は紙の請求書をそのまま保存(又はスキャナ保存によりデータで保存可)、2・3は電子取引に該当しますので、データのまま保存しなければなりません。

では逆に、請求書の発行側は何を保存しておくべきか?

義務である電子取引保存にのみ対応し、任意である帳簿書類の電子保存には対応していない事業者のケースで考えてみましょう。

この場合、1については紙の請求書の控えを保存しますし、3であればデータを保存しなければなりません。

ここで悩ましいのが2のケース。

請求書の発行側には

  • メール等で送付したPDFファイル
  • 紙で作成した請求書の控え

の2つの書類が残ります。

両方とも保存しないといけないのか、それともデータだけ保存しておけばいいのか。

国税庁が公表している電子帳簿保存法【電子取引関係】一問一答には、請求書を受け取った側の取扱いはいろいろと書いてありますが、請求書を発行した側についてはほとんど記載がありません。

一般的には保存というと「受け取ったものを保存する」というイメージを持ちますので、受取り側の取扱いについて詳しく書いてあることは理解できます。

ただ、実際の調査の場面であれば、「売上除外」といった行為に対しては税務署は非常に厳しい態度で臨みますので、発行側の取扱いについて一問一答でもっと触れておくべきではという印象を受けます。

発行側は電子取引さえ保存すればよい?

請求書発行側の保存すべき書類について、先日税務雑誌の中で

「電子取引を保存しておけば、元の紙の請求書控えは保存不要」

といった旨の記載がありましたが、個人的には少し疑問を持っています。

法人を例に取れば、法人税法の中で

青色申告法人は、次に掲げる帳簿書類を整理し、起算日から7年間、これを納税地(略)に保存しなければならない。

一 略
二 略
三 取引に関して、相手方から受け取つた注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し

とされています(法規59、太線は筆者)。

青色申告法人は、自分で作成した領収書や請求書などの写しを保存する義務があります。

ただこれは紙の書類を前提とした法律であるため、データでやりとりする際の保存についてカバーしきれないということで、電子帳簿保存法第7条において

所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。

として、電子取引についても保存が必要とされています。

このように「紙の書類の保存」と「電子取引データの保存」については、根拠となる法律がそもそも異なりますし、電子取引のみに対応している事業者について

「電子取引データを保存すれば、法人税法に規定する紙の書類保存が不要となる」

と書いてある法律は、私が探した限りでは見つけられませんでした。

そうなると安易に

「電子取引データを保存してるから、元の紙の書類は保存しなくていい」

といってよいのかどうかハッキリしません。

電子帳簿保存法一問一答に請求書発行側の取扱いがほとんど記載されていないことと併せて、請求書の発行側が保存すべき書類について悩む理由はここにあると考えています。

調査の現場で問題にはならないだろうけれど…

今回、かなり細かい論点について書きましたが、実際の税務調査の現場などで、ここまで指摘されることはほぼないと考えています。

税務調査で明らかにしたいのは

「その取引が本当に行われたかどうか」

という点。

電子取引に該当する請求書データが保存されていて、そのデータについて不審な点などがなければ、スキャン前の請求書まで確認されることはまずないでしょう。

ただ、現状では税理士という立場から自信を持って

「スキャン前の請求書は破棄して問題ありません」

と言い切れないのが悩ましいところ。

とはいえ、実務を進める上では何らかの判断基準を持って保存すべき資料を決めなければなりません。

敢えて何らかの根拠を持って(多少強引にでも)判断するとすれば、電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】の問13あたりかなと。

問13 電子取引で受け取った取引情報について、同じ内容のものを書面でも受領した場合、書面を正本として取り扱うことを取り決めているときでも、電子データも保存する必要がありますか。

この解説において

取引において、通常、請求書は一つであるから、正本・副本がある場合その正本を保存すれば足りると考えられます。

とされています。

このQ&Aはあくまで請求書を受け取った側についての内容ですが、請求書に正本・副本がある場合には正本を保存すればよいと。

受取り側に適用されて、発行側に同じ考え方が適用されないことはないはずですから、メールで送った請求書データを控えの「正本」として扱うことで、データのみの保存でOKとするのがひとつの考え方かと。

この場合、電子取引には保存義務がありますので、スキャンした紙の請求書を正本として電子データを破棄すると、電子取引の保存義務を守れない点には注意が必要です。

この考え方で、税務署の調査官が納得する保証はありませんが、敢えて社内ルールを決めるとしたら、こうするかなという個人としての見解です。

法律に織り込むのは難しいでしょうけれど、少なくとも一問一答でこの点ハッキリしてくれればスッキリするんですが。

今回の件、異論・反論いろいろあるかと思いますが、電子帳簿保存法の運用を考える上でのひとつの意見として読んでいただければと。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち、7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。