サービス業の仕事をしていると、自分が気付かないうちに提供している価値があったりします。今回はそうした価値のひとつである「選択肢を絞る」ということについて考えてみたいと思います。

「何でも選べる」と行動につながらない

税理士もサービス業のひとつであり、確定申告書や帳簿といった形のある提供物はあるものの、全般的には目に見えないサービスを提供することの方が多いものです。

そうした無形のサービスにどのように価値を感じてもらうか、というのはカンタンに答えの出ない難しい問題だと感じています。

私にとって、こうしたことを考える際のヒントになる本として

「選択の科学」(シーナ・アイエンガー著)

があります。

この本の中で取り上げられている実験のひとつに

「ジャムを売る際に、試食用のジャムの数を増やしすぎると逆に売上が減った」

というものがあります。

「選択肢が多い」というのは一見恵まれた状況のようですが、どれにするか悩んでしまって逆に決められなくなってしまう、という状況はみなさんも経験があるのではないでしょうか。

「何かを決める」というのは意外と労力を使う行為です。

考えずに済むのであれば、その方が疲れずに済みます。

そのため

「多すぎる選択肢は最終的に行動につながらず、何も変わらない結果になりうる」

というのが私がこの実験内容から感じたことでした。

相手の状況を考慮して適切な選択肢を提供する

税理士の仕事をしていると、処理方法が複数あって、どれを選ぶかお客様に決めていただくケースがあります。

ただこうした時に大量に選択肢を提示してしまうと、提示された方は決められなくなってしまい、

「どれがいいの?そっちで決めて」

となってしまうこともあります。

これってまさに先ほどのジャムの実験と同じで、選択肢がありすぎるが故に逆に決められなくなってしまうというわけです。

この仕事をしていると

「説明が不十分なために後で問題が起きて、損害賠償請求されたらどうしよう」

という不安を感じて、ついついすべてを説明したいという気持ちになってしまいます。

ところがすべてを逐一説明してしまうと、聞く側からすれば、自分が理解・判断できる容量を超えた情報をいきなり渡されて、何も決められなくなってしまいます。

これって結果だけ見れば、説明する側の自己満足でしかなく、説明を受ける人にとって有益な価値を提供できていません。

だからこそ、「全部説明しておきたい」という誘惑をグッとこらえて、相手の状況をきちんと理解した上で、聞く人に合った選択肢を提示するというのは価値のあるサービスになるわけです。

先ほどの実験のいえば

「どのジャムを試食用に並べるか決める」

という部分をサービスとして提供することになります。

説明を受ける人が、たくさんある選択肢(ジャム)の中からどれを買うか決めるためのお手伝いをするということです。

「何でもいいから、とりあえず選びやすいように適当に3つくらい並べればいいや」

ではなく

「この人の現在の状況からすれば、この選択肢から選べば満足度が高いのでは」

という判断をした上で、選択肢を提示する。

こうすることで説明を聞く側は判断するための労力を大きく減らすことができます。

もちろん、こうしたことをサービスとして提供しても、受ける側がその価値に気付いてくれるかどうかという問題は残ります。

提供するサービスに価値を感じてもらえなければ、結局は継続的な仕事につながりません。

ただ、提示を受ける側にとって決めやすい形で選択肢を提示することを続けていけば

「この人から説明を受けると、ものごとが決めやすい」

と感じてもらうことができ、意識するかしないかは別としてお金を払う価値を感じてもらえるのではないでしょうか。

気付かずに提供している「価値」を意識してみる

説明する相手に対して「選択肢を絞る」ことが有益なサービスになる、ということを書きましたが

「そんなこと当然のこととしてやっている」

と感じた方がいるかもしれません。

自分が提供しているサービスの「良さ」や「強み」というのは、意外と無意識のうちにやっていることも多いものです。

だからこそ、選んでもらえる理由となる「強み」はやはり明確に理解しておいた方がよいはず。

自分が提供しているサービスが本当に価値あるものか悩んでいるということであれば、どこに価値があるのか一度意識して確認してみてはいかがでしょうか。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち、7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。