改正電子帳簿保存法が適用されるまで2ヶ月を切りましたが、国税庁からは一問一答より細かい情報は出てきていません。個別具体的な事例でどのように判断すべきか、Amazonで備品を購入したケースを例に考えてみましょう。

電子取引データの保存方法、そろそろ「具体的に」考えるべき

電子帳簿保存法の改正、特に電子取引の取扱いについて何度も取り上げていますが、適用が開始される2022年1月1日まで既に2ヶ月を切っています。

今年の7月に国税庁が「電子帳簿保存法に関する一問一答」を公表して以降、実務の判断をする上で役立つような追加情報は出てきていません。

新たな情報を待っていては何も進みませんので、手元にある資料をもとに来年1月以降の具体的な対応を決めなければならない時期に来ています。

そこで今回は一つの例として、Amazonで備品をクレジットカードで購入した場合、どのように領収書等を保存しておくべきかについて考えてみることにします。

なお、保存方法としては、電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】問22にある

(4)訂正削除の防止に関する事務処理規程を策定、運用、備付け(規4①四)

の方法による保存を前提とします。

また、コンビニ払いや代金引換による購入については、(使ったことがないので詳細を知らないのですが)支払い時に紙の書類が手元に残るはずなので、今回の検討には含めません。

Amazonで購入した場合の領収書等とは?

一般消費者向けAmazonで備品を購入するケースとは

Amazonには一般消費者向けとは別に法人・事業者向けのAmazonビジネスというサービスがありますが、(これも使ったことがないため)今回の検討対象にはしていません。

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あくまで一般消費者向けAmazonサイトにて、

  • 個人事業主が事業用の備品を購入
  • 企業の従業員が会社用の備品を購入(例:テレワーク時に使用する備品を購入して、あとで立替経費精算するケースなど)

といったケースを想定しています。

対応を判断する上で確認しておきたいのが、電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】問27です。この回答内容に基づいてどのように保存すべきか、あとで確認していきます。

問27 電子取引を行った場合において、取引情報をデータとして保存する場合、どのような保存方法が認められるでしょうか。

Amazonで購入した場合に発行される領収書等

Amazonの「注文履歴」で購入した商品右上の「領収書等」をクリックすると

  • 請求書
  • 領収書/購入明細書

の2つが表示されます(電子書籍等の購入時には表示が異なるケースもあります)。

それぞれクリックして表示される書類の違いとしては、以下の点があります。

リンク名 表示書類 消費税率 支払方法 表示方法
請求書 支払い明細書 記載あり 記載なし PDF
領収書/購入明細書 領収書 記載なし 記載あり HTML

細かいことを言い出せば、両方保存していただいた方が無難ではありますが、もしどちらか一方だけ保存するのであれば、消費税率の記載がある「支払い明細書」を保存した方がよいと考えます(この点は人により意見が分かれると思いますので、各々ご判断ください)。

電子帳簿保存法一問一答に示されている保存方法

ここで先ほどの問27に戻りますが、回答には次のように書かれています(太字は筆者)。

2 発行者のウェブサイトで領収書等をダウンロードする場合
 (1)PDF等をダウンロードできる場合
  ①ウェブサイトに領収書等を保存する。
  ②ウェブサイトから領収書等をダウンロードしてサーバ等に保存する。
 (2)HTMLデータで表示される場合
  ①ウェブサイト上に領収書を保存する。
  ②ウェブサイト上に表示される領収書をスクリーンショットし、サーバ等に保存する。
  ③ウェブサイト上に表示されたHTMLデータを領収書の形式に変換(PDF等)し、サーバ等に保存する。

これがAmazonなどネット通販サイトで備品を購入した際の保存方法に該当します。

Amazonのサイトでいえば、

  • 「支払い明細書」:2(1)に該当
  • 「領収書」:2(2)に該当

となります。

Amazonで購入した場合の領収書等の具体的な保存方法

では、具体的にどのように保存すべきか?選択肢の多い「領収書」のケース(問27の回答2(2))で考えてみましょう。

【ケース1】ウェブサイト上に領収書を保存する

    これは要するに、PDFファイルへの保存等を行わず、Amazonサイトに保存しておきましょう、ということです。

    税務調査が来たときにAmazonのサイトを表示して、「領収書ここにありますよ」と提示することになります。

    この方法カンタンでとっても魅力的ですよね。

    でもこの方法はゼッタイにオススメしません。

    理由としては、

    1. Amazonサイトに領収書を7年以上にわたり保存すると書かれていないこと
    2. 注文履歴を「金額」で検索できないこと
    3. 税務調査の際に、購入履歴という個人情報を見せたくないこと

    の3点です。

    電子データの保存年数について

    電子帳簿保存法による保存というのは、紙の保存と同じ年数だけ保存しておく必要があります。

    Amazonサイト内を探してみましたが、どこにも「法律で定めされた年数の間、領収書を表示できるようにします」とは書いてありません。

    税務調査を受けた際に領収書を見せようとしたら、Amazonのサイトで表示できなくなっていた、となる可能性があります。

    この場合、税務署からは「領収書等を保存していなかった」として扱われます。

    検索要件の確保について

    「注文履歴」には検索ボックスがありますが、ここには

    「タイトル、カテゴリー、またはお届け先で検索」

    と書かれています。

    実際に購入金額を入力しても、検索できません。

    電子取引データの保存については、少なくとも「取引年月日・取引金額・取引先」で検索できるようにしておく必要がありますが、この条件を満たしていないため、不十分な状態での保存となってしまいます。

    個人情報について

    購入履歴というのはこれ以上ないほどの個人情報です。

    それを税務調査の際に見せるのかどうか。

    個人事業主の方で「気にしない」という方であれば構いませんが、例えば企業の従業員が個人のアカウントで購入したようなケース。

    一定の間は個人で電子データを保存しておくことも認められていますが(一問一答 問8)、税務調査の際に従業員の方が「注文履歴を見せたくない」と主張するなどのトラブルの可能性もゼロではありません。

    税務調査委の際にその従業員の方が既に退職していて、連絡がつかず領収書を提示できない、といったリスクも考えられます。

    個人立替分についても、都度電子データを提出してもらうような体制を整えておくべきでしょう。

    【ケース2】表示される領収書をスクリーンショットしサーバ等に保存

    これはAmazonのサイトに表示される領収書の画面を、いわゆる「スクショ」として撮った上で画像データとして会社内のフォルダ等に保存する方法です。

    Windowsであれば、「Windowsキー+Shift+S」でカンタンにスクショをとれますので、難しくはありません。

    なお、この場合

    • ファイル名を「20210925_Amazon_4708」等、取引日・取引先・取引金額がわかるものにする
    • ファイル名は連番にして、別途索引簿を作成する

    等の方法で保存する必要があります。

    【ケース3】表示されたHTMLデータを領収書の形式に変換(PDF等)しサーバ等に保存

    ケース2との違いは、画像データとして保存するか、PDFファイルとして保存するかの違いになります。

    最近のブラウザーは、「印刷」機能の中に「PDFファイルとして保存」といった名称の選択肢がありますので、この方法でPDFファイルとして保存し、会社のフォルダーに保存しておきます。

    この場合もケース2と同じように、ファイル名に取引日・取引先・取引金額を入れるか、索引簿を作成する等の方法で保存する必要があります。

    ちなみに「支払い明細書」であっても、回答の2(1)①は【ケース1】と同じ。2(1)②は【ケース3】で印刷機能を使ってPDFファイルを作成する代わりに、ダウンロード機能でPDFファイルを保存する点が異なるだけです。


    Amazonで備品を購入したケースを例に、具体的に何をどのように保存するかについて検討してみました。

    現状で個別具体的なケースを判断する基準としては、先ほど挙げた国税庁の一問一答しかありません。

    それぞれの取引が一問一答に記載されているどのケースに該当するか判断した上で、対応を決めていくしかないのが実情です。

    そうした判断をされる際の参考になればということで、私見ではありますがまとめてみました。

    今回の記事、電子帳簿保存法データ取引保存の実務判断をされる際の一助となれば幸いです。

    投稿者

    加藤 博己
    加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
    大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
    31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち、7年間を欧州で勤務。

    40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

    中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

    現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。