今回は、私の海外出向時の経験を踏まえて、海外会社への出向者が「雑用係」になりやすい理由とその対応策について書いてみたいと思います。
海外会社への出向者が雑用係に陥りやすい理由
海外に製造工場や販売拠点として子会社を作った場合、
「現地スタッフだけでは親会社が実態を把握できない」
「コミュニケーションがうまくいかない」
などの理由で親会社から出向者を出すケースが多いと思います。
海外に出向する方は、海外子会社全体を把握する必要があるため、海外子会社の重要なポストに就くことが多いでしょう。
つまり、日本でやっていた役職より高い役職となると(日本で部課長クラスの方が海外会社の社長になる、係長クラスの人が課長となるなど)。
ここで出向した方が悩むことの一つが、「日本側からいろいろと雑用を頼まれること」ではないでしょうか。
例えば現地の管理部門責任者として赴任しているのに、日本側から
「この請求書の内容がわからないので教えて」
「請求書の○○の部分が間違ってるので、直して至急送り直してください」
といった、担当者に依頼すべきような内容まで、直接対応を求められることがあります。
なぜこのようなことが起きるかというと、
- 親会社の担当者と出向者が、もともと顔見知り・元同僚であることが多く頼みやすい
- 親会社の担当者が外国語でのコミュニケーションに不慣れなため、そうしたやりとりを回避したい
- 現地の担当者と直接やりとりすると返事が遅い等の理由で時間がかかることが多く、親会社の担当者が現地担当者と直接コミュニケーションをとりたがらない
といった理由が挙げられます。
親会社担当者の気持ちもわからないではないのですが、出向者にしてみれば日本で仕事をしていたときよりも、重い責任をもって仕事をしているわけです。
やるべきことは山積しているため、担当者から頼まれる雑用に対応していては、本来やらなければならない仕事にかけられる時間が減ってしまうことになります。
親会社側の意向を海外会社に徹底したり、コミュニケーションの行き違いで解決が難しくなった場合など、親会社と子会社の間の窓口にならないといけないケースももちろんありますが、私の経験では本来担当者間で解決すべき仕事を頼まれることも多かったかなと。
「役割の明確化」と「顔を合わせる機会」が大事
では、出向者が雑用に時間をとられることを避けるためにどうすべきか?
大事なのは、
- 親会社側で出向者の役割を明確にする
- 明確にした役割を親会社内で徹底する
- 親会社の担当者と子会社の担当者が顔を合わせる機会を意識的に作る
という3点です。
1・2については、出向者を出す側の親会社は、「何を目的」として海外子会社に出向者を送り出すのか。
親会社側のトップがその点を明確にして、出向者本人と親会社内部に徹底することがまず最初の一歩となります。
この理解が共有されていないと、親会社の担当者も出向者本人も
「どこまで頼んでもいいのか?」「どこまで対応が必要なのか?」
という判断ができません。
3については、なぜ出向者に直接仕事を頼んでしまうのか?
その最大の要因は、現地担当者とのコミュニケーションに対するためらいや戸惑いです。
日本人同士であっても、まったく見ず知らずの人とコミュニケーションを取り始めることにためらいを感じる方はいらっしゃるのではないでしょうか。
ましてやそれが、日本語を話せない外国の方となると、そのためらいはさらに大きなものになるでしょう。
不思議なもので、「会ったことがある」「話をしたことがある」という経験があるだけで、その方とのコミュニケーションのとりやすさは大きく変わります。
つまり、やるべきは「顔を合わせる機会を意識的に作る」ということになります。
可能であれば、海外子会社の主要な人材を日本に研修に招待して、顔合わせや打合せをする機会が作れれば理想ですが、コストもかかりますし、そもそも現在のコロナ禍においてはそうした対応は困難でしょう。
そうであれば、定期的なビデオ会議を行い、親会社の担当者と子会社の担当者が直接話をする機会を作ることが考えられます。
もちろん、双方が慣れるまでは出向者も出席してビデオ会議の運営が円滑に進むようサポートすることが欠かせません。
もちろん国によっては時差の関係で、ビデオ会議の設定も難しいケースがあるかもしれませんし、出向者にとっても当初は負担ですが、将来のことを考えた場合、必要な対応だと理解いただく必要があるでしょう。
役割が明確でないと、ムダな仕事をしてしまう可能性が
今回、「出向者が本来やるべき仕事は何か?」という観点でまとめてみましたが、これは出向者に限った話ではありません。
組織の中で働いていると、いつの間にか本来業務以外の仕事をいろいろと頼まれて、時間がいくらあっても足りない、という経験は多くの方がしていることではないでしょうか。
「本来やらなければならない仕事は何か?」という点について、上司と部下で共有し、その結果をレビューする仕組みがないと、なかなか成果はあがりません。
さらにそうした見直しをする中で、頼まれていた仕事の中に、実はまったくやる必要のない仕事が含まれていた、ということが見つかるかもしれません。
「本来やらなければならない仕事は何か?」「自分が果たすべき役割は何か?」といったことを明確にすることで、仕事の見直しにつながります。
「なんかいつの間にか雑用が増えてて・・・」「部下の残業が一向に減らない」といった状況であれば、「やるべき仕事」「役割」が明確になっているか、一度見直しをしてみてはいかがでしょうか?
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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