テレワークへの移行が急速に進んでいる印象を受けますが、今まで何も準備をしていなかった状態で、カンタンに移行できるものかどうか。経理業務という観点から考えてみたいと思います。
目次
テレワークってカンタンに始められるもの?
先日テレビのニュースで、テレワーク需要の高まりに伴いヘッドセットやWebカメラが売れていたり、簡単に導入できる方法を紹介する動画があるといった内容がありました。
それを見たときに感じたのは、
「テレワークって、そんなカンタンに始められるものなの?」
という感想です。
現状はコロナウイルスの感染を防ぐためにできるだけ接触を避けるべきですし、そのためにもテレワークの敷居はできるだけ低くしたいと思っています。
しかし、現状を正しく把握して、きちんと準備して進めなければ、結局うまくいかずに出社せざるをえないことにならないか。
実際、以下のようなテレワーク導入支援のためのサイトもありますが、「テレワークの導入方法」といった説明を見ても、そんなカンタンなものではないということがよくわかります。
在宅勤務をご検討なら|テレワーク相談センター(厚生労働省委託事業)
経理の仕事を例にテレワークを考えてみる
私自身、事業会社で経理をしていた経験はありますので、そうした経験から、仮に会社の経理の仕事を自宅でするとしたら、どんな準備や対応が必要かを考えてみたいと思います。
経理の主な仕事としては、以下のようなものがあります。
- 現金出納(小切手管理、立替経費の精算を含む)
- 支払(仕入・経費・給与など)
- 上記に伴う記帳
他にも回収管理や給与計算など、さらに会社ごとに違いはあると思いますが、今回は上記3つに絞って検討します。
これらの業務について、順番に見ていきましょう。
1.現金出納(小切手管理、立替経費の精算を含む)
まず最初に、現金や小切手を扱っている限り、自宅で経理業務を行うことはできません。
もし仮に、(様々なリスクがあるため絶対に推奨しませんが)会社の現金や小切手帳・会社印を経理担当社員の自宅に持出したとします。
このときに現金・小切手での回収や支払をする相手に、社員の自宅まで来てもらうことは可能でしょうか?ほとんどの会社では対応してもらえないでしょう。
そのため、普段から「現金・小切手の取扱いを減らす」ということが、経理のテレワークを行う上で重要となります。
また、社員の立替経費の精算については、各社員から申請書や領収書の紙を経理社員の自宅に郵送していては効率的ではありません。
立替経費精算システムなどを導入して、領収書などもそのシステムの中で画像として確認できるようにしておくとともに、精算金額は給与に含めて振込むなどの仕組みが必要となります。
2.支払(仕入・経費・給与など)
現金以外の預金からの支払を考えたときにポイントとなるのは、
- ネットバンキングを使って、支払は上司承認後に行うよう設定しているか
- 仕入れ先などからの請求書をPDFなどデータでもらえるか
- 支払内容の確認・承認のためのルールや仕組みはあるか
といったところでしょう。
ネットバンキングを使っていない場合には、支払のたびに銀行の支店まで赴く必要がありますが、これでは何のためのテレワークかわかりません。
そのため、ネットバンキングの契約は必須といえるでしょう。
また、組織の規模にもよると思いますが、担当者が承認なしに支払処理ができてしまうと、不正やミスの原因となりかねません。
上司承認後に支払処理が行われるような設定をすることが必要です。
そして、支払処理をするための仕入れ先などからの請求書をPDF等のデータでもらうことができるか。
紙の請求書を仕入れ先から経理担当者の自宅に郵送してもらうことは、現実的ではありません。
さらに、経理担当者が直接請求書を受け取っても、金額・内容が正しいのか、支払ってよい内容なのかを判断することは不可能です。
注文した人のチェックを受けてから、経理担当者に支払依頼が来るような申請・承認のためのルールと仕組みが必要となります。
3.記帳処理
経理の仕事である以上、入出金があったものについては仕訳を作成して帳簿に記帳する必要があります。
ここでまず問題となるのが、「会計ソフトがどこにあるか?」という点です。
会計ソフトが会社のデスクトップパソコンにしかない、となると自宅で経理業務を行うことはできません。
インストール型の会計ソフトであれば、少なくとも持出し用のノートパソコンにインストールされている必要があります。
(この場合も、データのバックアップをどうするかという問題は残りますが)
テレワークという観点からいえば、クラウド型の会計ソフトにして、自宅からでもインターネット接続があれば、アクセスできるようにしたほうがよいでしょう。
「現物」と「対面」をどれだけネットに乗せられるかがポイント
今回経理業務のうち、3つの項目について検討してみましたが、実際にはこれ以外にもさまざまな経理業務があります。
テレワークを実施するといった場合、それらの業務のうち「どこまでを」「どのように」自宅で処理してもらうか決める必要があります。
ヘッドセットとWebカメラを準備しても、それはあくまで社内コミュニケーションのための、ツールを準備しただけであり、個々の業務内容について、一つずつやり方を決めていかないとテレワークを実施することはできません。
そうした検討の際に意識しておく必要があるのは、「現物」と「対面」がある仕事はテレワークに移行できないということです。
「現物」とは、現金、小切手帳、振込依頼書、請求書、領収書、印鑑、参照する書類 など。
こうした「現物」をどこまでネット上の仕組みに載せることができるかで、テレワークできる範囲が変わってきます。
また、支払や経費精算の承認印の取得や「報・連・相」といわれる業務、こうした「対面」の作業がある場合にもテレワークへの移行はできません。
この点については、ワークフローといわれるネット上で申請・承認ができるような仕組みやチャットツールなどの導入を検討する必要があるでしょう。
実際のところ、テレワークの実施にあたっては様々な課題がありますが、こんな状況だからこそ、できることから始めるというのは大事です。
強制的に始めざるをえない状況になれば、その中で課題も明確になってきます。
今の状況はピンチではありますが、これを将来の生産性向上に繋げるチャンスと捉えて、できることから始めていく。
今回の記事、そうした行動をとられる方の参考になれば幸いです。
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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