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個人事業者の方から法人成りについてのご相談を受けるケースがあります。その際に知っておいてほしい役員給与について解説します。

法人成りをした場合のメリット

個人事業者の方から法人成りについてご相談いただくケースがあります。

お話を伺う中で「税金のメリットが欲しいので法人成りしたい」という理由だけの方には法人成りを勧めていません。

「今後事業を拡大するにあたり法人の方が社会的に信用がある」など事業を進める上で、会社という器を必要としているか確認した上で話を進めることにしています。

もちろん法人成りには税金のメリットもあります。

そのひとつが消費税が2年間免税となるというものでしたが、インボイス制度によりこのメリットを受けられるケースはほとんどなくなりました。

他にも法人成りのメリットして挙げられる項目は色々とありますが、大きなものとしては個人事業者が自分自身に払う給料が費用(法人税では「損金」といいます)になるという点があります。

個人事業者のままだと自分自身に給料を払うことはできず、引き出したお金は「生活費」という扱いです(つまり所得税を計算する上で経費として認めてもらえません)。

一方で法人成りをした後に自分自身に払う給料が、法人税を計算する際に経費になるのであれば、大きなメリットとなるでしょう。

さらに受け取った役員の側では「給与所得控除」という形で、領収書等がなくても一定の控除を受けた上で所得税を計算することになりますので、この点も法人成りのメリットのひとつして挙げられています。

費用(損金)として認められる役員給与とは

メリットだらけのように見える法人成り後の自身への給料の支払いですが、実際の支払いには成約がいろいろとあります。

法人税を計算する上で経費(損金)として認めてもらえる役員給与は

  1. 定期同額給与
  2. 事前確定届出給与
  3. 業績連動給与

の3つしかありません(退職金などを除く)。

このうち3については算定方法を決定していることなどを有価証券報告書等で開示する必要がありますので、これから法人成りをするようなケースで使うことはありません。

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定期同額給与とは

1の定期同額給与ですが、カンタンにいうと

  • 毎月決められた日に
  • 一定額を給料として支払う

というルールを守る必要があります。

個人事業主の場合だと「今月は生活費が足りないから事業用の銀行口座から少し多めに引きだそう」ということがよくありますが、こうしたことが自由にできなくなります。

※お金を引き出すこと自体は可能ですが経費として認められません。

しかも給料の額の変更についても

  • 年度初めの3ヶ月以内に変更した場合
  • 昇格して責任が重くなったなど明確な理由がある場合(降格のケースもあり)
  • 業績が大きく悪化して給料を下げざるを得ない場合

と認められるタイミングについて厳しく制限されています。

法人となった場合には「会社と個人の財布は別」という点をきちんと理解しておく必要があり、従来とは考え方を切り替えることも法人化の際には求められます。

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事前確定届出給与とは

2の事前確定届出給与については、1よりもさらにルールが厳しくなります。

具体的には

  • 年度の初め頃(期限が決まっています)に税務署に各人別に支払日と支払額を届出する
  • 届出をした日に届出をした額を支払う

ということを行う必要があります。

支払日や支払額が少しでも違うと、全額を経費として認めてもらえなくなりますので、このあたりの管理をきちんとできる体制が整っていない場合にはオススメできません。

従業員に賞与を出している会社の場合、経営者の方も「従業員と同じタイミングで自分も欲しい」ということがあります。

そうしたケースではこの制度を使うか検討することになりますが

  • 届出などの手続きをきちんと行えるか
  • 決めたとおりにきちんと運用できるか

といった点をよく見極めてから使うかどうか決めるべきでしょう。

届出内容の書き間違いや振込日の誤りといった理由で経費として認められない場合、税金計算への影響が大きいものとなりますので、実際に利用するかどうかは注意が必要です。


「法人になれば自分に給料が払える」ということで法人成りを検討されるケースもあると思いますが、役員に支払う給料については細かいルールがたくさんあります。

今回解説したのは基本的な部分だけであり、実際には他にも注意すべき点が多々あります。

こうした内容を踏まえた上で、法人化するかどうか慎重にご検討ください。

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メリットを享受するために経理体制を整える

個人的に「節税」という言葉はあまり好きではありませんが、法律上認められている制度についてはきちんと活用して、税金を払いすぎることはないようにすべきです。

ただ、法人となってそうした制度を活用するには、経理体制を整えることが欠かせません。

例えば今回の内容でいえば

  • 定期同額給与:毎月決められた日にきちんと給与の振込みを行う
  • 事前確定届出給与:届出した日をきちんと管理してその日に振込を行う

といったことができないと、制度を活用して費用(損金)とすることができません。

法人化を進める際には、同時に経理体制も従来以上に整える必要があるという点を意識していただければと思います。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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