私自身、顧問先の社長に対しては「引き際」や「事業承継」の話をすることがありますが、自分のこととなると意外と深く考えていないもの。今回は、私なりの「仕事の引き際」についての考えをまとめてみます。

「社長、いつまで仕事しますか?」は他人事ではない

みなさん、こんにちは。京都の税理士、加藤博己です。

顧問先の経営者の方々と向き合う中で、避けては通れないテーマの一つが「事業承継」です。

「社長、いつまでこの仕事を続けようと考えていますか?」
「息子さんに引き継ぐのはいつ頃をお考えですか?」

お客様に対しては、このようにあまり言われたくないような、耳が痛い質問を投げかけることもあります。

お客様の会社が将来にわたって続いていくためには、経営者の「引き際」を明確にし、準備を始めることが不可欠です。

しかし、翻って自分のこととなると、まさに「医者の不養生」。

他人の会社の未来については熱心に語るものの、自分の「引き際」については、驚くほど無頓着になりがちです。

税理士という仕事は、体が動く限り、知識のアップデートを怠らなければ、極論すれば何歳になっても続けられる・・・そう信じてしまっているフシがあります。

サラリーマンであれば、会社が定年という形で明確な「期限」を設けてくれます。

何歳まで働き、そこからどう生きるかを考える必要はありますが、少なくとも「いつ辞めるか」という問いに対しては、会社が答えを用意してくれます。

ところが、独立した士業や経営者の場合、その「区切り」を誰かが決めてくれるわけではありません。

全ては自分自身が決断し、計画しなければなりません。

だからこそ、「いつまで仕事をするか」という問いは、誰かに聞かれるまでもなく、自問自答し続けなければならないテーマといえます。

顧問先の未来を真剣に考えるのであれば、自身の「引き際」をしっかりと見据え、「いつ、誰に、どのように」仕事を渡していくのか、あるいは「いつ、どのように」幕を引くのかを具体的にイメージしておくべきではないでしょうか。

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税理士の仕事って、何歳までできるか?

では、具体的に税理士の仕事は「何歳まで」できるのか?

この点、今後の環境変化などに大きく左右されると思いますが、かつてはベテランの経験と手計算がすべてだったものが、今や電子申告、クラウド会計、AIによるデータ分析などが当たり前の時代になりました。

知識の更新スピードは凄まじく、税制は年々複雑化し、少しでも手を抜けば、あっという間に時代に取り残される感覚があります。

もちろん、今でも80歳を超えて、現役でバリバリと活躍されている先生方はいらっしゃいます。

ただ、その「現役」の中身については深く考える必要があるのではないかと。

もし、ご自身で日々変わりゆく税法を学び続け、新しいソフトやサービスを使いこなし、クライアントのクラウド会計データをチェックし、ご自身で申告書作成の作業工程まで全て担当されているのであれば、それは本当に驚異的なことです。

しかし、多くのケースでは、業務の一部(例えば、入力作業や電子申告への対応など)は職員に任せて・・・というケースがほとんどではないかと思います。

「税理士」としてのアドバイスや判断力は何歳になっても衰えにくいかもしれませんが、「実務」としての作業負荷やスピードは、どうしても年齢とともに現実的な壁として立ちはだかります。

特に、ほぼ一人で事務所を切り盛りしている士業にとって、「自分で入力して、申告書を作って、顧問先とやり取りして…」という全ての工程を、80歳を超えても完璧にこなすのは、体力・気力の両面から、現実的ではないかもしれません。

だからこそ、自分の体力や気力の限界を見極め、「いつまでやるか」という線引きについては、早めに、そして具体的に考えておく必要があるのだろうと考えています。

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自分の人生を、たまには俯瞰して眺めてみる

自分の仕事の「引き際」を考える上で、私が意識しているのは「自分の人生をたまには俯瞰して眺めてみる」という作業です。

私には、人生を「20年ずつの区切りで捉える」という考え方があります。

事前に意識していたわけではなくて、たまたまそうなったという側面が強いのですが、わかりやすい区切りだと感じています。

  • 最初の20年:生まれてから社会人になるまで。教育を受け、人格を形成する期間。

  • 次の20年:会社員として組織の中で仕事をした期間。新卒で社会に出て、仕事の基礎を学び、スキルを磨いた期間。 

  • その次の20年:税理士業界に飛び込んで税理士としてのスキルや経験を積み重ねる期間。今まさにこの区間にいます。

この考え方で行くと、次の節目は60歳前後ということになります。

その辺りをメドに、そのまま税理士の仕事をメインに続けるのか、税理士として完全に引退するなど働き方を大きく変えるのか、あるいはまったく別の仕事をしてみたり、趣味や社会貢献活動に時間を使うのか等々。

これは決して、「もう歳だから」というネガティブな話ではありません。むしろ逆です。

自分の人生の持ち時間とエネルギーを意識することで、今、何をすべきか、何に集中すべきかが明確になります。

人生を俯瞰することで、現在の方向性が妥当かどうか、別のことにエネルギーを使うべきかなど、方向性を再確認することができます。

この「20年区切り」という考え方は、誰にでも合うものとは思いませんが、ご自身の人生を振り返って、大きな区切りで捉えるというやり方は応用できるのではないでしょうか。

たまには一度立ち止まって、ご自身の人生を俯瞰して眺めてみる時間を作ってみてはいかがでしょうか。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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