以前役員給与の基本的な考え方を解説しましたが、実はお金でもらわないものでも役員給与とされてしまうケースがあります。今回はこの点について解説します。
お金でもらってないのに「給与」になるの?
以前このブログで法人成りの際の注意点として、役員給与の基本的な内容を解説しました。
ここで書いた以外にも、役員給与に関しては注意すべき点が多々ありますが、その中で一般の方に理解してもらいにくいのが
「お金でもらってなくても給与とされてしまうケースがある」
という点です。
今回はこの点について取り上げたいと思います。
法人税法という法律の中には
4 前3項(筆者注:役員給与に関するルール)に規定する給与には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むものとする。(法人税法第34条)
という条文があります(太字は筆者)。
「債務の免除による利益その他の経済的な利益」というのが要するに、お金で支払うものだけが給料ではないということを意味しています。
このように書いても中々ピンと来ないと思いますが、平たく言えば
役員本人が個人的に「トク」をしたもの
が給料になるということです。
こうしたお金以外に受け取る「トク」のことを「経済的利益」と呼びます。
この「経済的利益」が役員給与となりますが、以前の記事で解説したとおり、法人税を計算する上で費用(損金)として認められるのは
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 業績連動給与
のどれかに該当するものに限られます。
もし税務調査などで
「これは経済的利益として役員給与に該当します」
と言われた場合、1~3に該当すれば会社の費用として認められますが、そうでない場合は費用として認められません。
※会社の費用として認められた場合も、会社としては給与からの源泉徴収漏れという問題は生じますし、個人の所得税の計算も変わります。
ちなみに従業員に対しても、この「経済的利益」が発生することはあります。
ただし従業員に支払う給料については役員給与のようなルールはありませんので会社の費用(損金)としては通常認められます(個人としての所得税の問題は別途生じますが)。
役員が「トク」するケースとは?
ここで
『役員が個人的に「トク」したら給与とされてしまうことはわかったけれど、具体的にどんなものが該当するの?』
という疑問がでてくるのではないでしょうか。
この点については、法人税基本通達9-2-9(債務の免除による利益その他の経済的な利益)というところにいくつかのケースが示されています。
ここで列挙されている12個の類型の中から最初の3つについて確認することで、どんなものが該当するのかイメージを掴んでいきましょう。
(1)役員等に対して物品その他の資産を贈与した場合におけるその資産の価額に相当する金額
これは要するに、会社の資産などを役員が個人的に使用するためにタダであげるケースが該当します。
例えば会社のパソコンを、役員が私用にのみ使う目的でもらったような場合です。
この場合、役員は自分でお金を払わずに個人用のパソコンを手に入れたわけですから「トク」することになります。
そのためパソコンの価値に相当する金額が役員給与とされることになります。
(2)役員等に対して所有資産を低い価額で譲渡した場合におけるその資産の価額と譲渡価額との差額に相当する金額
先ほどの説明を読んで
「そうか、タダでもらうから役員給与になるんだな。だったら少しだけお金を払って会社から買い取ればいいんだ。」
と考える方が出てくるかもしれませんが、そうしたケースも役員給与になってしまいます。
仮に20万円の価値があるパソコンを1万円を払って役員が買い取ったとします。
この場合は、20万円から1万円を引いた残りの19万円が役員給与となります。
(3)役員等から高い価額で資産を買い入れた場合におけるその資産の価額と買入価額との差額に相当する金額
ここで
「会社からモノをもらったり安く買うから問題になるんだな。だったら自分が持っている資産を会社に高く買い取ってもらうのであれば問題ないだろう。」
と考えた方はいませんでしょうか?
実はこれも役員給与になります。
古くなって今や1万円しか価値のないパソコンを会社に20万円で買い取ってもらった場合、これも20万円から1万円を引いた19万円が役員給与となります。
要するに、形はどうあれ役員個人が「トク」するような取引については役員給与とされる可能性が高いと考えるべきです。
他にも9つのケースが挙げられていますので、注意すべき点はまだまだありますが
「このような取引を会社とすると役員給与になるかもしれない」
というイメージを今回は掴んでいただければと思います。
「トク」しても給料にならないケース
会社と役員の間の取引が役員給与とされる可能性がある一方で
『これって個人的に「トク」してるんじゃないの?』
というものであっても役員給与にならないものがあります。
具体的には法人税法基本通達9-2-10(給与としない経済的な利益)に書いてあるのですが
- 所得税法上、経済的な利益として課税されないもの
- 会社がその役員等に対する給与として経理しなかったもの
については役員給与にしないことになっています。
ここで1についてですが、例としては
- 結婚や出産があった場合の祝金や祝い品など
- 身内に不幸があった場合に出す香典や災害時の見舞金など
が挙げられます。
ただこうしたものであっても、世間的な相場からかけ離れた金額を支給したりすると役員給与とされるリスクがありますのでご注意ください。
今回はお金で払うもの以外で役員給与とされるケースを取り上げました。
会社が法人税を計算するにあたっては、上記のような点にも注意しつつ行う必要があります。
「現金や振込で払うものだけが給料」と理解していると思わぬ落とし穴がありますのでご注意ください。
投稿者
-
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
最新の投稿
- 弥生会計2024年11月21日弥生会計NEXTを試してみた素直な感想をまとめてみる
- Notion2024年11月17日Notionフォームの使い方
- Notion2024年11月14日NotionでTrelloと同じ機能を再現するための手順
- AI2024年11月10日今後のAI活用を考えたときに、データの集約を意識しておくべきかについて考える