法人成りしたあとは、個人事業者のときと異なり役員-法人間の取引について注意が必要です。経理処理をきちんとしておかないとどのような影響があるのか確認しておきましょう。

法人成りした際の超えるべきカベ

個人事業者の場合、例えば銀行預金について個人用と事業用を明確に分けていないケースもあります。

こうした場合「事業主」という勘定科目を使って、個人の取引を事業における取引と分けて帳簿を作成します。

その一方で法人成りをすると、会社のお金をご自身の私用のためには自由に使うことはできなくなります。

プライベートに使うお金を給料以外で会社の銀行口座から引き出した場合は、役員に対する貸付金として処理することが多いのですが、個人事業者の時と違ってこの貸付金はあとで精算しなければなりません。

あまり深く考えずに個人用のお金を引き出していたら、あとで税理士から

「役員貸付金の残高が積み上がっていますが、どうやって精算しますか?」

といったことを言われて驚いたということも起きえます。

「個人の取引と会社の取引をきちんとわける」という点が、法人になった場合の超えるべきひとつのカベといえるでしょう。

広告

きちんと分けておかないと給料とされてしまうリスク

役員貸付金であれば、あとで精算(要するに会社に対して返済)をすればいいのですが、役員貸付金として認められないケースもあります。

一例として、携帯電話の契約を会社名義に変更した際に未成年のお子さんの回線も一緒に含めてしまったとしましょう。

未成年のお子さんの通信料ですから、通常は役員ご自身が負担すべきものですが、それを会社が負担しているわけです。

お子さんの分の通信料を帳簿上は「通信費」として処理していたとしても、税務調査などで指摘を受けた場合は「経済的利益」に該当するとして「役員給与」とされてしまう可能性があります。

※「経済的利益」については以下の記事をご参照ください。



正しくは個人のサイフで負担すべきものを会社のサイフから支払ってしまうと、このようなリスクがあるわけです。

役員給与については3つの類型のいずれかに該当しないと損金(法人税を計算する上での費用)として認めてもらえません。

※損金として認められる「役員給与」の3類型については以下の記事をご参照ください。



最も該当する可能性のあるものが「定期同額給与」ですが、これは毎月一定額でないと認められません。

通信料などは毎月同額とは限りませんので、該当しない可能性が高いでしょう。

該当しない場合には

  1. 法人税を計算する上で支払ったお金が経費として認められないため法人税が増える
  2. 「役員給与」が増えるため、役員自身の所得税が増える
  3. 法人が給料を支払う際には源泉徴収が必要ですが、それが漏れていたとして修正を求められる

といろいろな点で困ったことになります。

修正に伴って過少申告加算税といった追加の税金も発生することになります。

このように個人と法人の取引はきちんとわけておかないと、あとで大変なことになるというわけです。

広告

法人に合わせた経理の体制作りを

個人事業者から法人成りする場合には、このようにサイフをきちんと分けることが大事なポイントのひとつとなります。

サイフを分けるということは、つまり「経理をきちんと行う」ということです。

「ウチは規模が小さいから自分で全部できる」という方もいるかもしれませんが、今回解説したように役員と会社の間の取引には注意が必要です。

「役員と会社の間で取引をしていない」とご自身が考えていたとしても、今回の携帯電話の契約のように正しく契約を行わないと、役員と会社の間で取引があったことになります。

税務調査で指摘を受けてから「知らなかった」では済みませんので、今回ご紹介した内容に類似した取引がないかぜひ一度見直してみましょう。

不安がある場合には、専門家に一度チェックしてもらうことをオススメします。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
広告