インボイス制度の開始まで残り3ヶ月となりましたが、最近は免税事業者が登録するかどうかに焦点が当たることが増えてきました。そこで今回は免税事業者がインボイス登録するか考える際のポイントを整理しておきたいと思います。
新聞記事を読んで感じた違和感
今週の新聞記事において、免税事業者のインボイス登録が1割程度しかされていないため、混乱を招かない対策が重要という内容がありました。
免税事業者がインボイス登録をしない理由が複数挙げられていたのですが、読んでいて違和感が。
記事の論調として
「免税事業者のインボイス登録が進んでいないことにより混乱が生じる」
という書き方のように読めるのですが、インボイスに詳しくない免税事業者の方ががこれを読むと
「インボイス登録しないと自分に取って不利益が起きるんじゃないか」
と誤解しかねない内容と感じます。
そもそも必要がなければ課税事業者であれ免税事業者であれインボイス登録する必要はありません。
大事なのは、免税事業者の方にとってご自身の状況がインボイス登録を必要とするかどうか冷静に判断することです。
既にいろいろなところで取り上げられている内容ではありますが、免税事業者がインボイス登録すべきか検討する際の考え方を確認しておきましょう。
インボイス登録が不要なケースとは
そもそもなぜ免税事業者であってもインボイスの登録が必要なケースがあるかというと
「取引先(売上先)が困るから」
です。
具体的には、インボイスをもらえないと取引先が税務署に払う消費税額が増える可能性があります。
裏を返せば
「取引先にこうした不都合がなければインボイスの登録は不要」
ということです。
では取引先が困らないケースとしてどのようなケースがあるのでしょうか?
具体的には
- 消費者
- 消費税の免税事業者
- 消費税を納税しているが簡易課税という方法で計算している事業者
の3つが挙げられます。
税務署に消費税を払っていない一般消費者や免税事業者は、税務署に支払う消費税を計算しません。
こうしたケースではインボイスを作って渡す必要はありませんので、仕事をしたら従来通りの請求書などを渡せばよいだけです。
次に、消費税を納税している事業者であっても2期前の売上が5,000万円以下の場合、簡易課税という方法を選択できます。
※簡易課税を使うには事前に届出の提出が必要であり、2期前の売上が5,000万円以下であっても簡易課税を使っていないケースはあります。
この場合、税務署に支払う消費税を計算する際にインボイスは必要ありません。
結果として、インボイスを渡さなくても取引先が困ることはありません。従来通りの請求書などを渡せば十分です。
これら3つのケースについてはインボイスを必要としませんので、取引先がこうしたケースに該当するのであれば、無理にインボイス登録をする必要はありません。
ただし困ったことに取引先が上記3つのパターンに該当しているのか、外からはわからないという点です。
どういうことかというと
「一般の消費者だと思っていたら実は事業をしている方で、事業に使う材料を店頭に買いに来ていた(ことを後で知った)」
「事業者であることはわかっているが、消費税を納税しているかわからない」
「消費税を納税していることは知っているが、簡易課税を使っているかどうかわからない」
といった点で悩んでしまい判断できなくなってしまうわけです。
この点については各事業者の置かれている状況により対応は異なるかもしれませんが、少なくとも特定の取引先と普段から取引されているケースであれば、インボイスを必要としているか聞いた方がいいと考えています。
「登録しようかどうしようか」と悩むのであれば、まずは状況を整理する。
登録するかどうか判断するための材料をできるだけ手元に揃えないと、ご自身にとって正しい判断ができません。
小売店の場合などは個々のお客様に聞くわけには行きませんが
「制服や作業着で買いに来る方が多く、会社の経費で使っていそう」
「レシートの他に領収書を求められることが多い」
といった、普段来店する客層やその行動からある程度判断することができるのではないでしょうか。
ひとりで悩まずに相談窓口の活用を
免税事業者がインボイス登録するかどうかのポイントを確認しましたが、実際に判断するとなると疑問が山のように出てくるでしょう。
免税事業者の方にとっては今までやったことがないわけですから、わからないことが出てきて当然です。
知らないことがあるのならどうすべきか。これは知っている人に聞くしかありません。
専門家に一度話を聞けばスッキリする可能性は高いです。
とはいえ、税理士などへの相談にコストを掛けたくないという方も当然いらっしゃるでしょうから、税務署や中小企業庁などが準備している窓口の活用も検討してみましょう。
専門家に相談して
「自分はわざわざインボイス制度に登録する必要がない」
と判断できれば、冒頭のような記事を見かけたとしても惑わされることはありません。
「よくわからない」と放置してしまうことが一番よくありませんので、「登録すべきかどうか」と悩んでいる方はまずは「相談する」という行動から始めましょう。
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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