会社や個人事業主として銀行口座を持つことは、事業を行う上で絶対に必要なことです。ではどれくらいの銀行と取引をすべきか、今回はそんなお話です。

業歴が長くなると取引銀行の数も増えていく

様々なお客様とお付き合いしていて感じるのは、長く会社や事業をされていると、取引する銀行の数が増えていくケースが多い、ということです。

全ての方がそうだとはいいませんが、いろんな理由があって銀行と取引を開始して、そのまま整理せずに複数の銀行を使い続けている、というケースが多いのではないでしょうか。

私自身の経験として、会社勤めをしていて海外会社に出向していたことがありましたが、当時海外会社が本社の了承を得ずに銀行口座を新規に開設することは認められていませんでした。

本社が把握していない銀行口座を開設して、その口座を使って不正が行われないようにする、といった目的もあったかと思いますが、口座の開設目的を説明して了承を得る必要があったわけです。

「何のためにその銀行と取引をするのか」という点、取引開始時点では当然明確なはずですが、当初の目的がなくなったとしても、ついつい放置してしまっているということも多いのではないかと。

そんなことを考えつつ、「事業を行う上での適正な取引銀行数はあるのか」という疑問が湧きましたので、その点について少し考えてみたいと思います。

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事業用の取引銀行数を判断する上での2つのポイント

事業用の取引銀行をいくつ持っておくべきか、という点については、

  • リスク管理
  • 管理コスト

の2つの観点から考えてみましょう。

リスク管理

昔であれば「銀行は絶対につぶれない」といわれた時代もありましたが、北海道拓殖銀行や長銀・日債銀などの破綻を知っている世代からすれば、「銀行だってつぶれることはある」というのが実感ではないでしょうか。

銀行が破綻した場合であっても、ペイオフという制度により金融機関ごとに、決済性預金の全額とそれ以外の預金1,000万円までは保護されることとなっています。

預金については一定額まで保護されるとはいえ、事業を行う上で気をつけておきたいのは、そうした状況に陥った場合に、通常通りの支払ができる保証がない、という点です。

もちろん連鎖倒産等起きないよう、最大限の配慮はされると考えられますが、もしひとつの銀行としか取引がない場合、最悪のケースとして支払ができずに仕入が止まってしまう、ということが考えられます。

普段から手元にそれなりの額の現金を持っておいて現金決済できるよう備えておく、という方法も考えられなくはありませんが、万が一のことを考えると取引銀行がひとつしかないという状況は避けるべき、ということになります。

管理コスト

取引銀行がひとつでは心許ないということであれば、とにかく取引する数を増やせばいいのかどうか。

例えば仮に、10の銀行と取引していると想像してみてください。

そのときに、どのようなコストがかかるかといいますと、

  • 口座間でお金を動かすための振込手数料
  • 決算の時の残高証明書発行手数料
  • 管理する銀行口座が増えることによる経理社員の工数増

等が考えられます。

銀行口座が10もあって、それぞれの口座で回収や支払をしていると、それぞれの残高が不足しないか確認したり、お金を移し替えたりするだけでもかなりの労力がかかると思いませんか。

ひとつひとつのコストはそれほど大きなものではないかもしれませんが、回数・年数が経過していくと累計でのコストは大きなものとなります。

つまり取引銀行が増えすぎるのは、好ましい状況とはいえない、ということです。

ではいくつであれば適性なのか?

これはその会社や事業がおかれた状況により判断していくしかありません。

つまり、「その銀行と取引する理由は何か?」という点を明確にすることが重要ということです。

銀行と取引する理由を考える上で参考になるのが、税理士の近藤学先生が翻訳された「PROFIT FIRST」(マイク・ミカロウィッツ著、ダイヤモンド社)です。

この本の中では、会社にお金を残すために、

  1. 売上入金用
  2. 利益用
  3. オーナーの給料用
  4. 税金用
  5. 事業経費用

の5つの銀行口座を持とうと提唱しています。

家計を管理するために、目的別に封筒にお金を入れておくというやり方が昔からありますが、これと同じことを会社でやりましょう、というものです。

銀行口座別に目的がハッキリしていますので、それぞれの銀行口座の残高を見れば、その目的に使えるお金がいくらあるのかすぐに把握できるので、管理がしやすくなります。

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その銀行、取引する目的は明確になってますか?

ここまでの話をまとめますと、

  • 取引銀行がひとつでは、いざというとき不安
  • 取引銀行が増えすぎると、管理コストが増大して好ましくない
  • 取引銀行の数は、取引の目的を明確にして決めるべき

ということになります。

ちなみに、私自身先ほどのプロフィットファーストの考え方に基づいて、事業用のお金の管理をしていますが、5つの銀行と取引しているわけではありません。

最近はひとつの金融機関の中に複数の口座を持つことが難しくなっていますが、ネット専業銀行であれば、目的別に口座をつくることができるところもあります。

そのため

  • 売上入金用:A銀行
  • 事業経費用:B銀行
  • それ以外:C銀行(ネット専業銀行の目的別口座3つ)

という形で運用しています。

経費の支払をネット専業銀行で行わないのは、ペイジーが使えないなどの制約があるためです。


今回は取引すべき銀行の数について考えみました。

事業用に取引されている銀行の数は、放置しておくといつの間にか増えてしまうものです。

取引銀行の数が増えすぎていないか確認するためにも、それぞれの銀行口座を使う目的を一度整理してみてはいかがでしょうか。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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