インボイス制度開始から1年が経過し、多くの方の関心は「手間をかけずに対応するにはどうすればいいか」に移っているのではないでしょうか。法律やQ&Aで認められている「手抜き」できるルールについて確認しておきましょう。

慣れたとはいっても手間は増えている

インボイス制度開始から1年が経過し、実務上はかなり落ち着いてきたともいえます。

その一方で、例えば商工会議所が今年行った調査を見ると、約8割(82.2%)の事業者が事務負担の増加を感じているとのこと。

日本商工会議所:「中小企業におけるインボイス制度、電子帳簿保存法、バックオフィス業務の実態調査」結果について

「慣れた」と「手間が増えた」は別物ですから、慣れたといっても以前と比べて作業量が増えている部分はあるでしょう。

こうした増えた手間に対して、いかに効率化できるかが多くの方の関心ではないでしょうか。

こうした点に配慮して、制度開始前からいろんなルールが追加されています。

タイトルに「手抜き」ルールと書きましたが、実務上ラクできるように(というつもりで)つくられたルールや、「そもそも法律上それってOKなの?」みたいな謎ルールがQ&Aに記載されています。

今回は、そうした実務上の手間に影響がある内容をいくつか取り上げてみます。

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実務に配慮した(と思われる)インボイスのルール

令和5年度改正の3兄弟(2割特例・少額特例・少額返還インボイス)

インボイス導入前に負担軽減策として導入されたのが

  • 2割特例
  • 少額特例
  • 少額返還インボイスの交付免除

の3つです。令和5年度税制改正によって導入が決まったものとなります。

2割特例は、インボイス制度により消費税を納税することとなった事業者が、消費税の納税額をカンタンに計算できるようにとのことで、売上に含まれる消費税の2割を納税すればいいという制度です。

確かに計算自体はカンタンなのですが、実はこの制度が使えるかどうか判定するのが非常にメンドクサイ。

国税庁は2割特例が使えるか判断するためのフローチャートを提供してくれていますが、これだけの項目をチェックしないと使えるかどうか判断できません。

国税庁:インボイス発行事業者の「2割特例」適用可否フローチャート(令和6年9月版)

少額特例については、税込1万円未満の取引については、インボイスがなくても消費税の控除ができるというものですが、2期前の売上が1億円以下の事業者のみが対象だとか、期間限定の措置(2029年9月までの取引が対象)とか、微妙に使いづらいものとなっています。

1万円未満というのは仕方がないとしても、対象事業者とか期間とか制限せずに、細かい取引はインボイス不要とすれば、多くの事業者が「手抜き」できて助かるのですが。

少額返還インボイスの交付不要については、買手が振込時に振込手数料を差引いた場合に、売手が誰からもインボイスをもらえないことが問題となり導入された制度です。

これも税込1万円未満という決まりはありますが、すべての事業者が対象で期間制限もありません。

これがなかったら実務上はメチャクチャ大変になっていたと思いますので、多くの事業者が恩恵を受けているといえます。

ETCの利用証明書は1回だけ保存してねルール

ETCカードってクレジットカードに紐ついているケースが多いと思いますが、実はクレジットカードの利用明細はETC利用についてのインボイスにはなりません。

「え、でも利用したときに紙も何も出てこないじゃん」と思うのですが、正しい対応としてはネットで「ETC利用照会サービス」にアクセスして、そこで利用証明書をダウンロードする必要があります。

これに対して「いや、ウチは営業車が何台もあるのに、そんなことしてられない!」という声が恐らくあったのでしょう。

クレカ会社からのカード利用明細を保存することを条件に、利用明細書については高速道路会社ごとに1回だけダウンロードしておけばよいことになりました。

でもこの1回って面倒だし、忘れそうですよね。そもそも1回でいいなら、税務調査の時にその場でダウンロードして提示でいいんじゃないかと思うんですが・・・。

1回のダウンロードでいいのは「手抜き」できますが、もっと簡素にしてくれればいいのにと思います。

国税庁インボイスQ&A:高速道路利用料金に係る適格簡易請求書の保存方法

買手側でもインボイス修正可能なケースがあるんだよルール

インボイスに関しては、受け取った側でインボイスを修正することはダメ!とされています。

ただし、買手が必要事項を記載した「仕入明細書」をつくり、売手側の確認を受ければ、それもインボイスとして認められるというルールがあります。

仕入明細書については、インボイス制度が始まる前から認められていたものですから、特に驚きはありません。

Q&Aの内容で驚いたのは

受領した適格請求書の記載事項を買手が自ら修正することは原則として認められませ
んが、自ら修正するのみではなく、その修正した事項について売手に確認を受けることで、その書類は適格請求書であるのと同時に修正した事項を明示した仕入明細書等にも該当することから、当該書類を保存することで、仕入税額控除の適用を受けることとして差し支えありません。

という内容です(インボイスQ&A問92「交付を受けた適格請求書に誤りがあった場合の対応」)。

修正はダメだといってるけれど、修正後に売手の確認を受ければOKだよと。

売手に「インボイス修正して再発行してください」とお願いしても、対応してもらえないケースも実務上ないとはいえませんので、そうした意味では「手抜き」できるルールとなっています。

ただこれが認められるのなら、最初から「インボイスの修正はダメ」なんていわなくてもよかったのではという気が・・・。

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負担軽減にあまりなってないような・・・

実際には他にも実務に配慮した(と思われる)ルールがたくさんありますが、長くなりますので、このあたりで止めておきます。

私個人の感想としては、こうしたルールが多数追加されていますが、実務上の負担はあまり減っていない気がします。

例えば、インボイスを受け取ったものの、「必要事項の記載が不足していてどうしよう・・・」と悩んだ経理担当者は多いのではないでしょうか。

インボイスの記載事項って、請求書システムを使っていれば問題ないのですが、手書きの領収書を使っているケースだとモレがあることが多いですよね。

正直なところ

  • 発行事業者名
  • 登録番号
  • 請求先名
  • 請求金額
  • 税率

が書いてあれば十分なんじゃないかと思います。

消費税額の記載も現在は必要ですが、税額の計算に積上げ計算を使っていなければ、記載がなくても問題なしとした方が、実務は回りやすいのではないでしょうか。

ダウンロード1回必要とかも、調査時に提示できればOKとしてくれればラクになる事業者は多いでしょう。

インボイス制度って事業者にとっては特にメリットはありませんので、実務の負担が少しでも減るような改正が行われることを望みます。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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