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インボイス導入後にインボイス保存が不要な個別のケースについて何度か取り上げましたが、今回は全体像を確認しておきましょう。

現時点で請求書なしでも問題ないケースとは

インボイスの確認をする前に、現在の消費税がどうなっているかまず確認しておきましょう。

税務署に支払う消費税を計算する際に、自分が支払った消費税を差し引くことを「仕入税額控除」といいます。

「仕入税額控除」をするためには、請求書等と帳簿の保存が必要です。

ところが何にでも例外はあるもので、現時点では

  1. 税込支払額が3万円未満の場合
  2. 税込支払額が3万円以上であっても、請求書等をもらえないことについてやむを得ない理由がある場合(ただし帳簿にやむを得ない理由と相手方の住所の記載が必要)

には請求書等を保存していなくても、帳簿を保存していれば問題ないとされています(消令49①)。

このルールがあるため、消費税の計算においては、例えば出張で使った電車の切符が回収されてしまった場合や、請求書の発行をお願いしたがどうしても発行してもらえない場合などについても仕入税額控除が可能です(消費税基本通達11-6-3)。

※参考まで現在の通達を引用しておきます。

11-6-3 令第49条第1項第2号《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等》に規定する「請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由があるとき」は、次による。
 なお、請求書等の交付を受けなかったことについてやむを得ない理由があるときに該当する場合であっても、11-6-4に該当する取引でない限り、当該やむを得ない理由及び課税仕入れの相手方の住所又は所在地を帳簿に記載する必要があるから留意する。(平10課消2-9により追加)

(1) 自動販売機を利用して課税仕入れを行った場合

(2) 入場券、乗車券、搭乗券等のように課税仕入れに係る証明書類が資産の譲渡等を受ける時に資産の譲渡等を行う者により回収されることとなっている場合

(3) 課税仕入れを行った者が課税仕入れの相手方に請求書等の交付を請求したが、交付を受けられなかった場合

(4) 課税仕入れを行った場合において、その課税仕入れを行った課税期間の末日までにその支払対価の額が確定していない場合
 なお、この場合には、その後支払対価の額が確定した時に課税仕入れの相手方から請求書等の交付を受け保存するものとする。

(5) その他、これらに準ずる理由により請求書等の交付を受けられなかった場合

この点について、インボイス導入後に何が変わるかといいますと、このaとbについて書かれている法律が全部削除されて

「具体的に法律に書いてあるケースについてのみ、インボイスがなくても帳簿の保存だけで仕入税額控除を認めるよ」

というやり方に変わります。

今までは「やむを得ない理由」ということで、ある程度幅を持たせていたワケですが、この点が厳しくなります。

インボイス導入後に帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるケースとは

インボイスがなくても仕入税額控除が認められるケースについては、国税庁のインボイスQ&Aの問79にまとめてあります。

少し意訳した上で列挙すると、次のようになります。

  1. 3万円未満の公共交通機関を利用した場合
  2. 簡易インボイスが使用後に回収されてしまう場合(入場券等、1に該当するものは除く)
  3. 古物商がインボイスを発行しない者から古物を棚卸資産として購入する場合
  4. 質屋がインボイスを発行しない者から質物を棚卸資産として取得する場合
  5. 宅地建物取引業者がインボイスを発行しない者から建物を棚卸資産として購入する場合
  6. インボイスを発行しない者から、その事業者の棚卸資産として再生資源や再生部品を購入する場合
  7. 自動販売機や自動サービス機を使った商品購入等で3万円未満のもの
  8. 郵便ポストに投函する際の切手代
  9. 従業員に支給する出張旅費等

3~6については、特定の事業者にのみ関連する内容であり、そうした事業を行っていない場合には特に気にする必要はありません。

8についても、従来の切手購入時の処理と特に変わらないでしょう。

一般的な会社に関係しそうなのは、1・2・7・9あたりかと。

1については、3万円以上であればインボイスの保存が必要となりますので、例えば会社として新幹線の切符等を直接購入する場合には、インボイスとしての要件を満たす領収書等を受取った上で、きちんと保存しておく必要があります。

なお、古物商と旅費精算に関しては、以前下記の記事にまとめていますので、ご興味があればご参照ください。

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「やむを得ない理由」がなくなったことに注意が必要

ここまで読む限りでは

「インボイス導入後であっても、今やってる処理方法のままで問題ないでは」

と感じるかもしれませんが、注意が必要な点もあります。

特に注意いただきたいのは、仕入税額控除について「やむを得ない理由」がなくなってしまったことです。

現在の法律では3万円以上であっても「やむを得ない理由」があれば請求書等の保存は不要とされています。

この「やむを得ない理由」については、通達には

(3) 課税仕入れを行った者が課税仕入れの相手方に請求書等の交付を請求したが、交付を受けられなかった場合

(5) その他、これらに準ずる理由により請求書等の交付を受けられなかった場合

といったものも含まれています(消費税法基本通達11-6-3)。

つまり現状では、請求書の発行を依頼したがどうしても請求書がもらえなかった場合や、その他税務署が認める理由があれば請求書等がなくても問題となりません。

ところが、インボイス導入後は

「3万円以上であってもやむを得ない理由があればOK」

としていた法律(消令49①二)自体が削除されてしまいますので、相手が請求書を発行してくれないとか、その他の理由があっても

「インボイスを保存してないから、消費税の計算上支払った消費税を差し引くことはできません」

といわれてしまいます。

自販機での仕入や切符などについては大きな変更がないため、インボイス導入後も大きな変化がないように感じるかもしれませんが、会社での経理の運用状況によっては、取引先との調整などが必要となる可能性があります。

特に請求書等を受取らずに仕入税額控除を適用している取引がある場合には、インボイス導入後も問題がないか検討いただくべきかと。

インボイス導入により変更となる点は意外と多いものです。

事前に準備を進めていただき、万全の体制で制度変更に対応できるようご準備ください。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち、7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
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