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インボイスには書くべき項目が決まっていますが、必ずしも一つの書類にまとめる必要はありません。今回はこの点について確認しておきましょう。

インボイスに必要となる記載事項

インボイス制度におけるインボイスって税務署から

「この書式を使え!!」

と言われるわけではなく、今お使いの請求書・領収書・納品書などをインボイスとすることができます。

但し、インボイスとして認めてもらうには、次の項目を書いておかなければなりません(簡易インボイスを除く)。

  1. インボイスを発行する事業者の氏名又は名称・登録番号
  2. 取引年月日
  3. 取引内容(軽減税率対象の場合はその点がわかるような表記)
  4. 税率ごとに合計された取引金額(税抜・税込どっちでもOK)・適用税率
  5. 税率ごとの消費税額
  6. インボイスを受取る相手の氏名又は名称

普通に考えると、これらの項目をすべて1枚の書類(例えば請求書など)に記入することになると思うのではないでしょうか。

ところがインボイス制度では、複数の書類を合わせてこれら6項目の記載があればOKとされています。

今回はこの点について確認しておきましょう。

記載事項は複数の書類に分かれてもOK

インボイスに書くべき項目が複数の書類に分かれても構わないという点については、国税庁のインボイスQ&A問55に説明があります。

具体的には

適格請求書とは、必要な事項が記載された請求書、納品書等の書類をいいますが、一の書類のみで全ての記載事項を満たす必要はなく、交付された複数の書類相互の関連が明確であり、適格請求書の交付対象となる取引内容を正確に認識できる方法(例えば、請求書に納品書番号を記載する方法など)で交付されていれば、これら複数の書類に記載された事項により適格請求書の記載事項を満たすことができます(インボイス通達3-1)。

とされていて(太字は筆者)、複数の書類間のつながりが明確であれば、複数書類をワンセットとしてインボイスとすることができるとされています。

この問55に具体例のひとつとして

  • 納品書・・・登録番号以外の記載事項あり
  • 請求書・・・登録番号の記載あり

というケースが挙げられています。

ちなみにインボイス制度開始後は、電子インボイスとしてデータで受取ったインボイスはデータのまま保存することも可能です。

先日読んでいた雑誌では、この複数書類の組み合わせについて

  • 「紙の書類」と「紙の書類」
  • 「紙の書類」と「データ」
  • 「データ」と「データ」

のどの組み合わせでも問題ないとの解説がありました。

組み合わせについては特に法律上ルールはありませんので、当然の結論といえばそうなのですが、一応頭には入れておきたい点です。

なお、ここまで読むと

「インボイスに対応するために、請求書発行ソフトの改修で結構費用がかかりそうだったけれど、これなら費用かけずに済むかも」

と思った方もいるかもしれません。

ただ、個人的な意見としてはこの複数書類によるインボイス対応はできるだけ避けるべきと考えています。

理由としては

  1. 複数書類だと税務調査の時に提示するのが面倒(なお、インボイスは発行側も受取側も保存が必要です)
  2. インボイス発行側と受取側で「何をインボイスとするか」の認識を合わせておく必要がある
  3. 時間の経過(担当者の変更など)に伴い背景・経緯がわからなくなり、いつの間にか間違った処理に変更される心配がある

といったところです。

複数書類をインボイスとすると、例えば通常であれば税務調査の際に請求書だけ見せれば済むところ、納品書も一緒に見せないとインボイスを保存していないといわれるリスクがあります。

しかも事前に売手・買手で認識を合わせておかないと

「インボイスじゃないと思ってたから廃棄した」

なんて可能性もゼロではありません(納品書などを安易に廃棄する会社はないと思いますが・・・)。

また時間の経過とともに担当者が変わるなどして、複数書類のセットでインボイスになるという点が引継がれずに、経理処理を変更してしまう可能性もあります。

こうした理由から、やはりきちんとシステム対応をして、ひとつの書類でインボイスとして使えるようにすべき、というのが私の意見です。

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複数書類にせざるを得ないケースとは

とはいえ、この複数書類での対応をせざるを得ないケースというの実際にはあります。

例として挙げられるのが

「事務所家賃が口座振替で引き落とされるケース」

です。

こうしたケースでは、通常は大家さんから請求書が発行されません。

ではこうしたケースでは何をインボイスとするか?

国税庁のインボイスQ&A問79に、その対応例が書かれています。

基本的には登録番号の記載がある賃貸借契約書の保存により、インボイスの記載事項の大部分を満たせるはずですが、契約書では「取引年月日」を示すことができません。

そのため、口座振替による支払日が確認できる通帳を保存しておくことで、インボイスとして認められるとされています。

つまり

  • 賃貸借契約書・・・取引年月日以外の記載事項あり
  • 通帳・・・取引年月日(引落日)の記載あり

という組み合わせになります。

なおこの対応をする場合、大家さんが黙ってインボイス登録をやめてしまうと、気付かずにそのまま処理してしまう可能性がある点には注意が必要です。

また、中小起業ではあまりないかもしれませんが、EDI取引を行っている場合にも、こうした複数書類での対応を検討する必要があるのかもしれません。

とはいえ、こうした複数書類での対応は

「他に方法がない場合の最終手段」

くらいの位置づけにしておくべきでしょう。

今回の記事、請求書システムなどの改修や請求書等の受取り方法を検討される際の参考としていただけると幸いです。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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