ご相談の中で「私って税金で損していませんか?」という質問を受けることがあります。こんな時に確認しておきたいポイントを整理しておきましょう。
「私って税金で損していませんか?」という質問
いろいろとご相談を受ける中で、時々受ける質問として
「私って税金を払いすぎていませんでしょうか?」
というものがあります。
誰しも払う必要がないものは払いたくありません。
税金の制度は一般の方には複雑で理解しづらいものですから、こうした疑問が出てくるのは当然のことでしょう。
払いすぎているかどうかはその方の事業の状況など様々な要因で決まりますので、これだけ確認すれば大丈夫とまとめられるものではありません。
しかしながらよくあるケースというのもありますので、そうした点について今回確認しておきましょう。
税金を損しているかもしれないケースとは
事業者には法人と個人がありますが、主な税金としては
- 法人税(法人の場合)
- 所得税(個人の場合)
- 消費税(法人・個人共通)
がありますので、それぞれについて確認します。
法人税
法人税で税金を損している可能性としては
申告すれば適用できるのに適用していないケース
があります。
例えば、ここ数年よく使われるものとして「賃上げ税制」という制度があります。
前年度よりも従業員に支払う給料を増やした場合に、増やした額の一定割合を法人税から引いてもらえるというものです。
このように法人税から一定金額を差引いてくれる制度のことを「税額控除」といいますが、これらは税務署が自動的に計算してくれるものではありません。
ほとんどの場合、確定申告をする際に必要な書類などを添付しなければ適用してもらえません。
つまり、こうした税額控除について、適用できるのにそのことを知らずに適用していない場合には、税金を損しているといえます。
※所得税についても税額控除の制度があるため、同様のケースはあり得ます。
所得税
所得税では「青色申告」という制度があり、多くの事業者が適用しています。
青色申告においては「青色申告特別控除」という控除を適用することができ、条件を満たすことで
- 10万円
- 55万円
- 65万円
の控除を受けることができます。
もし65万円の控除を受けることができる事業者が10万円しか受けていなければ、損をしているということになるでしょう。
ただし65万円の控除を受けるためには、ザックリ言うと
- 貸借対照表(B/S)を作成して確定申告書に添付する
- 電子申告で確定申告書を提出する(もしくは電子帳簿保存法の要件を満たす)
という追加の対応が必要となります。
B/Sを作るのはカンタンといった解説も見かけますが、作成するにはきちんと作り方を学ぶ必要があります。
とりあえず銀行データを会計ソフトに連携してB/Sが出てきたものの、預金残高がマイナスになっていた、ではB/Sとして認めてもらえません。
そういう点では、「損をしている」というよりも「どこまで労力を払って税金を減らすか」といった方がよいでしょう。
ちなみに所得税に関しては、
「自宅事務所のケースなどで家賃や水道光熱費を経費入れましょう」
といった解説をネットなどで見かけますが、事業とプライベートで使う分を合理的に分ける必要があります。
明確な根拠を持って税務署に説明できるのであればいいですが、そうでなければ払うべき税金を減らしすぎていることになりますのでご注意ください。
消費税
消費税については、本則課税と簡易課税のどちらを適用するかで税額が変わるため、「結果的に」損をする可能性はあります。
本則課税とは、売上に含まれる消費税から仕入や経費として支払った消費税を差引いて税額を計算する方法です。
簡易課税とは、売上が決まれば、仕入や経費に相当する消費税を事業内容に応じてパーセントで計算する方法となります。
売上に対して人件費の割合が大きい事業などの場合、簡易課税を適用した方が消費税が減るケースが多いです。
しかしながら難しいのは、簡易課税は事業年度が始まる前に届出を出さないと使えないという点です(かつ、一度選択すると2年間強制適用となります)。
人件費の割合が高い事業であっても、例えば大きな設備投資をする場合などは本則課税の方が有利になるケースもあります。
つまり事業の先行きを見据えてしっかりとシミュレーションをした上でないと、本則課税と簡易課税のどちらが有利か判定するのは難しいのが実情です。
※簡易課税は2期前の課税売上高が5千万円以下の事業者が適用できる制度となります。
損をさせないために事業の内容を理解する
「税金を損しているかも?」というときに確認しておきたいポイントをまとめてみました。
「税金を損する」といっても、税額控除の適用忘れなどを除くと、それなりに労力を掛けて対応しないと税金を減らすことは難しいのが実情です。
なお私の事務所では、確定申告の時に年1回だけお会いするという契約は積極的に受けていません。
基本は顧問契約という形で契約してもらって、お客さまと話をする機会をできるだけ増やすようにしています。
これは話をする機会が増やすことで、その方の事業に対する理解を深めることを目的としています。
事業に対する理解が深まると、税金の面からできることがいろいろと見えてきます。まさに「税金で損をさせないため」に話を聞く機会を増やしているわけです。
税理士といえど、お客さまの事業を短期間で深く理解できるわけではありません。時間をかけて話をする中で気付くことや見えてくることは多いものです。
事業者の方から
「税理士と面談したって何も話をすることがない」
という意見を聞くこともありますが、税理士の方にご自身の事業を理解してもらうという観点で、雑談を含めていろいろとお話をされてみてはいかがでしょうか。
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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