今年6月以降の給与等に対して定額減税を適用する必要があります。給与担当者が実務を行うにあたり注意すべき点を確認しておきましょう。
定額減税の実施時期が近づいてきました
定額減税については、2024年6月以降最初に支給する給与や賞与から適用する必要があります。
既に5月に入りましたので、1ヶ月ほどすると対応しなければなりません。
この制度、調べれば調べるほど、現場の実務をまったく考慮していないものだと感じます。
「そもそも給付した方が効率的では」
「せめて年末調整でまとめてやればいいのでは」
等々、いろいろ思うところはありますが、決まってしまった以上は粛々と進めていくしかありません(とはいえ今回は筋が悪すぎますが)。
今回のブログでは、給与計算を担当する方向けに間違いやすいポイントを
令和6年分所得税の定額減税Q&A (概要・源泉所得税関係【令和6年4月改訂版】)
というQ&Aを元に確認します。
定額減税の大まかな流れ
Q&Aを確認する前に、定額減税の実務について大まかな流れを確認しておきましょう。
定額減税では
- 月次減税事務(月々の給与計算で行う処理)
- 年調減税事務(年末調整で行う処理)
の2つがありますが、今回は月次減税事務を取り上げます。
月次減税事務では
- 対象者の確定(従業員などのうち誰が対象か)
- 対象者のうち、計算に含めるべき配偶者や扶養親族は誰かを確認
- 月次減税額(月々の給料から総額でいくら減税するか)の確定
- 6月以降の月々の給料や賞与に対して減税を実施(減税額を全額引けるまで毎月継続)
- 給与明細に減税した金額を記載
といった作業を行う必要があります。
これらに関して注意すべき点を確認しましょう。
間違いやすいポイントは?
以下、Q&Aから間違いやすいポイントを10点取り上げます。見出し後のカッコ内の数字は該当するQ&A番号となります。
月次減税事務の適用は任意か?(2-4)
残念ながら、給与の支払者・従業員どちらからも定額減税の適用を受けるかどうか選択することはできないとされています。
6月1日時点の状況に基づいて月次減税事務を行った後、年末調整時の状況に応じて減税額を最終的に精算することになりますので、年末調整での一括精算を認めてもよいのではないかと思うのですが・・・。
月次減税開始後に扶養親族などの変更があった場合(6-12)
月次減税を開始する時点で、対象となる従業員等についていくら減税するか(月次減税額)を計算しますが、その後に結婚した、子どもが産まれたなど対象人数が変更することもあるでしょう。
扶養親族などの変更があった場合も、いったん計算した月次減税額の総額は変更しません。
こうした変更については、年末調整または確定申告において精算することになります。
6月1日以後、賞与の支払いが先にある場合(7-2)
月次減税額は、2024年6月1日以後に最初に支払う給与等から控除することになっています。
そのため、例えば
- 6月10日:夏期賞与支給日
- 6月25日:6月給与支給日
という会社の場合、6月10日の夏期賞与から定額減税を反映した計算を行わなければなりません。
こうしたケースの会社については、準備のための時間があまりありませんので注意が必要です。
退職金にも定額減税を適用するのか?(1-8)
退職金を支払う際に源泉所得税が発生したとしても、定額減税は実施しません。
退職したことにより、給料だけでは定額減税を全額受けることができず、退職金をもらったようなケースでは、確定申告により定額減税の適用を受けることができるとされています。
ちなみに退職金をもらう際には税金が発生しない方も多いので、確定申告しても定額減税額が変わらない人がほとんどではという気もします。
Q&Aの書き方だと、退職所得があれば確定申告で減税額が増えるように読めるのですが、誤解する人は出てこないでしょうか?
合計所得金額が1,805万円を超える見込の人(2-2、2-8、3-4)
今回の制度では、合計所得金額が1,805万円を超える人は定額減税を受けることはできません。
ところが月次減税については、今年の合計所得金額が1,805万円を確実に超える人についても月次減税を実施することとされています。
つまりこうした人の場合には月次減税で減税された上で、確定申告で最終的に減税分を精算して返すことになります。
ちなみに合計所得金額が1,805万円超というのは、給料だけをもらっている人で言えば給与収入が2千万円超を意味します。
給与の総額が2千万円を超える人は年末調整の対象外となりますので、確定申告したら追加納税というケースが増える可能性があります。
給与と年金の両方をもらっている人(2-3)
今の時代、年金をもらいながら働いている方もいるでしょう。
実は公的年金についても源泉徴収される税額に対して定額減税が適用されます。
「定額減税の二重取りになるから、給与の方は定額減税を止めるべきでは?」と思うかもしれませんが、気にせずに定額減税を適用してください。
逆に言えば、従業員の方に「年金もらってますか?」といった確認をする必要はありません。
給与と公的年金での定額減税のダブりについては、確定申告で精算が行われるとのことですが・・・
2カ所以上から給与をもらっている人(2-5)
2カ所以上で勤務して給料をもらっている方もいるでしょう。
こうした方については、「扶養控除等申告書」を提出している勤務先、つまり給与計算時に「甲欄」で税額計算している勤務先において定額減税を適用することになります。
もし「乙欄」で税額計算している場合は、定額減税を適用しません。
ただ、従業員の方が制度を理解せずに、複数の勤務先に「扶養控除等申告書」を提出している場合はどうなるのかという疑問は残ります。
とはいえ、従業員に対して
- 他にも勤務先があるか?
- 他の勤務先に「扶養控除等申告書」を提出しているか?
といちいち確認している余裕はないでしょう。
この点は「扶養控除等申告書」の提出を受けていれば、割り切って定額減税を適用すればいいと考えます。
短期アルバイトなどの取扱い(2-6)
短期アルバイトの方がいる場合、税額計算時に「丙欄」を使って給与計算をするケースがあります。
定額減税は源泉所得税を計算する際に「甲欄」を適用している方のみが対象です。
そのため給与計算時に丙欄を適用する人には定額減税を実施しません。ご本人が確定申告をすることにより定額減税を受けることとなります。
青色事業専従者への適用は?(2-9)
個人事業者の場合、親族を「青色事業専従者」として給料を支払うケースもあるでしょう。
青色事業専従者に対しても給与支払い時に定額減税を適用することになります。
「ウチは青色事業専従者しかいないから、定額減税なんて関係ない」とはなりませんのでご注意ください。
6月2日以後に転職した場合(3-3、4-1)
月次での定額減税の対象となるのは、6月1日にその会社に勤務している方に限られます。
6月2日以後に再就職してきた方がいる場合は、月々の給料において定額減税を適用する必要はありません。
こうした方については年末調整において定額減税を適用することになります。
月次減税事務に時間をかけすぎないように
月次減税事務で間違いやすいポイントを10個解説しました。
月次減税は、結局のところ仮計算のような扱いになってしまっています。
エラい人たちからは怒られるかもしれませんが、最終的に年末調整で再度確認することになるわけですから、月次減税事務についてはあまり深刻にならない方がいいのではないかと。
その分、今年の年末調整は例年より大変になる可能性が大ですが・・・。
給与ソフト使っている方は、ソフトのアップデート内容には注意して下さい。
給与計算担当者にとっては報われる仕事ではありませんので、できるだけ効率的にすすめましょう。
投稿者

- 加藤博己税理士事務所 所長
-
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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