話題に上ることの多い「インボイス」と「電子帳簿保存法」ですが、この2つにはどのような関係があるのか確認しておきましょう。
インボイスと電子帳簿保存法の関係
ここ数年、税金関係で大きな話題となっている(振り回されている?)インボイスと電子帳簿保存法。
インボイスについては制度開始が迫ったこともあり取り上げられることが多くなっていますが、電子帳簿保存法は多くの方が興味をすっかり失ってしまったような感じでしょうか。
この2つのテーマについては一緒に語られることもあり
「なにか関係があるだろうか?」
と疑問を持つ方もいるかもしれません。
そこで今回はこの2つの関係を整理しておこうと思いますが、結論から言えば
「この2つはほとんど関係ありません。まったくの別物です。」
となります。
ただし、インボイスをデータで保存する際に電子帳簿保存法が関係してきますので、この点を確認しておきましょう。
電子インボイスを保存する際に守るべきルール
インボイスについては紙以外にデータで渡すことも可能です。
データで渡すインボイスのことを「電子インボイス」と呼ぶこともありますので、この記事においてはこの呼称を使用します。
電子インボイスについても保存が必要となりますが
- 売手:発行したインボイスの控えを保存する義務がある
- 買手:仕入税額控除を受けるために受け取ったインボイスを保存しなければならない
ということで買手(受取り側)だけでなく売手(発行側)も保存しなければならない点に注意が必要です。
売手が買手に対して電子インボイスを送付したり、買手が売手から電子インボイスを受け取ることは、電子帳簿保存法における「電子取引」に該当します。
こうしたケースでは「電子取引」を保存するのと同じルールで電子インボイスを保存しなければなりません。
「電子取引」を保存する際のルールとしては
- システム概要書等の備え付けを行うこと
- パソコン・モニター・プリンター及び操作説明書を備え付けて、わかりやすい状態ですぐに確認できるようにしておくこと
- 次のような検索をできるようにしておくこと(ダウンロード要請に応じる場合はb・cは不要)
- 取引年月日・取引金額・取引先で検索できる
- 日付・金額については範囲指定できる
- 2以上の条件で検索できる
- 以下のいずれかの措置を行うこと
- 発行側がデータにタイプスタンプを付す
- 受取側が取引データ受領後に自社でタイムスタンプを押す
- 訂正削除履歴が残る又は訂正削除不可のソフトに保存する
- 訂正・削除に関する事務処理規程を備付けして運用する
を守る必要があります。
※3については令和5年度で要件を緩和する改正がありました。詳細は以下の記事でご確認ください。
電子インボイスを保存する際にもこうしたルールを守って保存する必要があるという点でインボイスと電子帳簿保存法はつながっています。
ところが、です。
電子帳簿保存法では「電子取引」は必ずデータで保存しなさいとなっているのですが、消費税法では
「紙で保存してもOK」
となっています。
電子インボイスを発行したり受け取ったのに印刷して保存した場合、電子帳簿保存法には違反しているけれど消費税法には違反していない、というなんとも気持ち悪い状態になります。
消費税の計算上は請求書等を保存していないと、仕入や経費に含まれる消費税額を控除する仕入税額控除が認められず、納税額に大きな影響があるという配慮からこのような取扱いにされているようです。
とはいえ、一般の方からしたら「結局どちらで保存すればいいの?」と混乱してしまいます。
基本はデータで保存しておいて、もしデータ保存できていなかったことを税務調査で指摘された時に
「消費税の計算上は紙でも問題無いですよね」
と言えるようにしておくのがいいんじゃないかと思います。
紙で発行したインボイスの元データを保存したい場合
インボイスと電子帳簿保存法については、実はもうひとつ関係する点があります。
請求書発行ソフトなどでインボイスを作成しているものの、取引先には紙で送付しているケースも多いのではないでしょうか。
この場合、インボイスの控えを紙で保存することになりますが
「せっかくソフトの中にデータがあるのだから、データのまま保存したい」
と考えるケースもあるでしょう。
ソフトでインボイスを作成するなど最初から一貫してデータで作成したものについてはデータで保存することも可能です。
ただしこの場合は先ほどの「電子取引」ではなく「電子書類」として保存することになります。
「電子取引」をデータのまま保存するのは電子帳簿保存法では義務ですが、「電子書類」についてはデータで保存したい人だけが行います。
「電子書類」を保存する際に守らないといけないルールは
- システム概要書等の備え付けを行うこと
- パソコン・モニター・プリンター及び操作説明書を備え付けて、わかりやすい状態ですぐに確認できるようにしておくこと
- 次のような検索をできるようにしておくこと(ダウンロード要請に応じる場合はa・bともに不要)
- 取引年月日等の日付で検索できる
- 日付については範囲指定できる
です。
こうしたケースでも電子帳簿保存法のルールがインボイスに影響を与えています。
インボイスと電子帳簿保存法の関係について確認しましたが、関係するのは
「インボイスをデータで保存したい場合に電子帳簿保存法のルールを守る必要がある」
という点です。
あまり難しく考えずに
『基本的に両者は別物だけど「データ保存」が関係するときは少し注意しよう』
と理解してもらえれば十分でしょう。
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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