今年の税制改正大綱にて電子取引データ保存を2年猶予するとされていた点について、年内に法律の改正がされました。最終的にどのように改正されたのか確認しておきましょう。
目次
電子取引に関するデータ保存の2年猶予が正式に決定
年内最後のブログ更新ということで、今年の振返りでもしようかと思ってましたが・・・。
税制改正大綱にて示されていた電子取引データ保存の2年猶予について、12月28日に資料が出てきました。
恐らく役所の仕事納めの日までに出せるよう突貫で作業されたのでしょう。
ということで、今回はこの公表された資料について確認していくことにします。
今回の改正内容に関連する資料としては、
- 省令といわれる法律の改正(経過措置を追加)
- 通達の追加(7-10・7-11)と趣旨説明
- 一問一答の追加(問41-2~41-5)
があります。
※他にパンフレット等も一部改定されて、2年間猶予される旨が追記されています。
まず法律に追加された内容ですが、
- 電子取引のデータ保存ができなかったことについて、税務署長が「やむを得ない事情がある」と認めること
- 税務調査などの際にデータを印刷したもの(整然とした形式及び明瞭な状態のもの)を提示または提出できること
の両方が満たされていれば、令和5(2023)年12月31日までの電子取引については、データで保存していなくてもいいよ、というものです。
税制改正大綱で示された内容がそのまま法律になっています。
この内容を見て気になるのが、
- 税務署長が「やむを得ない事情がある」と認めるのってどんなケース?
- 印刷したものを「整然とした形式及び明瞭な状態」で保存しておくってどういうこと?
- この猶予を適用してもらうのに、税務署に事前に届出など必要なの?
といったところではないでしょうか。
これらの点について、追加された通達と一問一答をもとに確認してみましょう。
疑問点を通達・一問一答で確認
税務署長が「やむを得ない事情がある」と認めるのはどんなケース?
今回追加された通達7-10の趣旨説明において「やむを得ない事情」について説明があります。
具体的には
例えば、その電磁的記録の保存に係るシステム等や社内のワークフローの整備が間に合わない等といった、自己の責めに帰さないとは言い難いような事情も含め、要件に従って電磁的記録の保存を行うための準備を整えることが困難な事情がある場合については、この宥恕措置における「やむを得ない事情」があると認められることに留意する。
とされています(太字は筆者)。
つまり、「システム対応が間に合わなかった」といった自社の対応遅れといった理由であってもやむを得ない事情として認めてくれるとなっています。
・・・そもそも一問一答がでたのが今年の7月で短期間での対応を求めておいて、
「システム対応が間に合わなかったのは自己責任」
みたいに言われることに納得できない方も多いと思いますが、その点には今回は触れません・・・。
ところで一問一答の問41-2には次のような記述があります(太字は筆者)。
(参考)
この宥恕措置の適用にあたっては、保存要件に従って保存をすることができなかったことに関するやむを得ない事情を確認させていただく場合もありますが、仮に税務調査等の際に、税務職員から確認等があった場合には、各事業者における対応状況や今後の見通しなどを、具体的でなくても結構ですので適宜お知らせいただければ差し支えありません。
つまり税務調査などの場面で、「やむを得ない事情」について聞くかもしれませんが、具体的でなくてもいいので現状や今後の対応について教えてね、と。
「具体的でなくても結構ですので」とまで書いてくれていますので、これについては
「どのシステムを使うか、どのように保存するか現時点で未定。令和6年1月に向けて対応を検討中。」
といった回答で恐らく問題にはならないと思われます(令和5年12月の調査でこんな回答だとマズいかもしれませんが)。
結論として、「やむを得ない事情」についてはそれほど厳しいことはいわれない、かなり広範囲に認められる、と考えて問題ないでしょう。
「整然とした形式及び明瞭な状態」での保存とは
この点については、一問一答問41-4にて解説されています。
具体的には
「整然とした形式及び明瞭な状態」とは、書面により作成される場合に準じた規則性を有する形式で出力され、かつ、出力される文字を容易に識別することができる状態をいいます。
とされています(太字は筆者)。
要するに、
- 紙で保存する場合と同じように、きちんとファイリング等されていること
- 印刷された文字がきちんと読める状態になっていること
ということです。
税務調査の際に提示を求められた請求書などについて
「あれ、あの請求書どこに保存したかな、見つからない・・・」
とか
「請求書見つかったけど、印字がかすれて(もしくは書類が破損して)金額が確認できない」
といったことはダメですよ、ということです。
これって今まで請求書等を紙で保存してきたときと何も変わりません。
従来通り「求められたらすぐに出せる」「書かれている内容を確認できる」という状態で保存しましょうねと。
従来の紙での保存時に求められることと変わらないのですから、特に問題はないでしょう。
税務署に事前に届出など必要なの?
一問一答問41-5にて
やむを得ない事情の有無や出力された書面については、必要に応じて税務調査等の際に確認することとしており、事前に税務署への申請等をすることは必要ありません。
とされています。
つまり、今回の2年猶予を受けるにあたり、税務署へ事前に書類を提出する必要はありません。
ここまで今回の改正内容を確認しましたが、特に厳しいと感じる点はありません。
2022年1月からの2年間において電子取引のデータ保存については、従来通り紙で保存をしておいても税務署との間で特に問題になることはない、という理解でよいでしょう。
この2年で準備を確実に進めておきましょう
今年7月頃から大騒ぎとなっていた、来年1月からの電子取引についての紙での保存禁止。
最終的には土壇場で実質的に2年間延期となったわけですが、改めて確認しておきたいのは「対応できない会社は2年間できてなくてもいい」ということであって、「中止」ではないという点。
一問一答の問41-2においても
なお、令和6年1月1日以後に行う電子取引の取引情報については要件に従った電子データの保存が必要ですので、そのために必要な準備をお願いします。
と書かれています。
つまり、この2年間でどのように対応するか検討していく必要があるというわけです。
データ保存ができていないとしても、いきなり青色申告を取り消すことはないとされていますが、税務調査時にトラブルになる可能性をわざわざ抱えておく必要はありません。
また時間的な余裕ができたことで、データ保存のための使いやすいサービスなどがでてくる(もしくは改善される)可能性も大いにあります。
こうしたサービスを上手に活用して書類に囲まれる経理業務を見直し、効率アップや生産性向上につなげるための検討を進めていただければと思います。
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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