電子取引データの保存についてクラウド会計にデータ連携していれば問題ないといった説明がありますが、この方法に落とし穴がないか確認をしておきましょう。

クラウド会計でデータ連携していればデータ保存はOK?

freeeの電子帳簿保存法対応について書かれたページを見ていると、次のような記載がありました。

そして、自動連携した明細は、改ざんができない仕様になっているため、電子帳簿保存法で求める要件をクリアし、freeeと同期するだけで電子取引データの電子保存が実現いたします。

クラウド会計にデータ連携しておけば(訂正削除等ができないという前提は必要ですが)、電子帳簿保存法に対応しているという考え方。

国税庁のQ&A等にはこの点明確に書かれていないため、実際に認められるんだろうかという疑問は少しあるんですが、

  • 法律上は「電子取引をした場合は電子データのまま残しておきなさい」となっていること
  • EDI取引について他の保存システムに転送して保存する方法も認められていること(国税庁:お問合せの多いご質問(令和3年 11 月) 電取追補2)
  • 恐らくfreeeさんは国税庁に問合せ・確認した上で掲載している可能性が高いこと

といったことから判断すると、多分大丈夫だろうと。

税務調査の場面で、このツイートのようなやりとりが将来起きるんじゃないかと少々心配ではありますが・・・

他にもデータ保存を特定の会社のサービスに依存する場合、もし乗り換える必要が出てきたらどうするかという問題は常につきまといます。

サービス契約を解除しても、いきなりデータが消えることはないと思いますが、いつまで保存してもらえるのかは明確ではありません。

電子帳簿保存法に関連して、サービス提供者に依存してしまう問題については、国税庁はノーコメントなんですよね・・・。

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クレジットカード明細だけ連携したときに考えられるリスクとは?

クラウド会計とどこまでデータ連携をしているか?

クラウド会計へのデータ連携に関連して今回確認しておきたいのは、Amazonや楽天などネット通販でクレジットカードを使って購入するようなケース。

例えばAmazonで1万円の備品をクレジットカードで決済した場合。

クラウド会計にAmazon・クレジットカードともに連携していると、次のような処理になります。

■Amazonから連携したデータ

消耗品費 / 未払金(Amazon) 10,000

■クレジット会社から連携したデータ

未払金(Amazon)  / 未払金(クレジット会社) 10,000

この未払金が何度も出てくるのを避けるために、クレジット会社のみとデータ連携して、

消耗品費 / 未払金(クレジット会社) 10,000

という処理をされている会社も意外と多いのではないかと考えています。

このようにクレジット会社とのみデータ連携している場合に、

「クラウド会計にデータ連携しているから、電子取引データの保存は問題なし」

といえるのかどうか。

Amazonとの取引とクレジット会社との取引は異なるものとして扱うべきですから、正しくはAmazonが発行する領収書などを別途保存すべきでしょう。

ところが、クラウド会計を提供する会社の説明を誤解して、

「クラウド会計に連携すれば、連携が部分的であっても電子帳簿保存法対応はすべてOK」

と考え、Amazonの領収書保存をしないケースがでてくるんじゃないかという心配はあります。

仮にクレジット明細のみ保存してネット通販の領収書保存が漏れていたらどうなるか。

先日公表された 国税庁:お問合せの多いご質問(令和3年 11 月) にて、

「電子データの保存がされていないことだけをもって青色申告の取消はしない」

旨の説明がありましたので、税務調査の場面でいきなり青色申告の取消や経費を認めないといったことになる可能性は低いと考えます。

とはいえ保存しておけば何も問題にならないわけですから、やはりきちんと保存しておくべきでしょう。

消費税に関する注意点

ここまでの話は法人税・所得税に限った話です。もう一つ注意しておく必要があるのが消費税です。

クレジットカードで決済した場合の領収書等の保存については、以前より

カード会社からの請求明細書

という質疑応答事例が公表されています。

内容としては、

  • クレジットカードで決済した場合も、あくまで取引はモノやサービスを購入したお店と行ったと考える
  • クレジットカード会社が発行する請求明細書等は、消費税を計算する上では請求書等と認めない
  • 消費税を計算する上では、購入したお店で発行されたご利用明細等を保存しておく必要がある

というもので、クレジット会社からの明細しか保存してないと、最悪のケースとして消費税の仕入税額控除(納める消費税を計算する際に、支払った消費税を差し引くこと)ができませんよ、ということになります。

クラウド会計にクレジット会社のデータのみを連携し、Amazonや楽天などが発行する領収書等を残していないという状況は、まさにこのケースに当てはまります。

消費税の計算上は電子データでなく紙での保存も認めていますので、クレジット会社のみと連携されている場合には、紙でもデータでもいいのでネット通販会社が発行する領収書等を残しておいた方が安全です。

もちろん税務調査の際に、ネット通販会社のサイトで領収書等をダウンロードできれば問題にはならないと思いますが、これはあくまでそれぞれの会社が顧客サービスとして行っているもの。

「必ず何年間はダウンロードできるようにしておく」ということは明記されていませんので、購入の都度保存しておくべきでしょう。

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正しく理解した上で、冷静に対応する

電子帳簿保存法の改正は年明けからの適用となりますので、実際の現場でどのような対応が取られるかはまだわかりません。

今回取り上げたクレジットカードの明細保存についても、税務調査の現場で細かくチェックされて問題になったという話は(少なくとも私は)聞いたことがありません。

この記事を読んだ皆様に一つだけアドバイスするとすれば、

『税務調査の時に一番困る状況は「何も残っていないこと」なので、紙でもデータでもいいのでネット通販の領収書等を残しておいて欲しい』

となります。

紙であれデータであれ、何か残っていれば税務調査でも対応が可能となりますので、例えば今回のケースでいえば

  • ネット通販もデータ連携するよう変更する(仕訳ルールの変更も必要となります)
  • ネット通販の領収書は少なくとも紙に印刷して保存しておく

等の対応が考えられますので、一度ご検討いただければと。

(なお、法律上はデータでの保存が義務となっていますので、紙での保存を推奨するつもりはありません)

今回の記事をご覧になって、すごく不安になり「大変だ、大問題だ、なんとかしなきゃ」と思われる方がいるかもしれませんが、不安を煽る意図は一切ありません。

正しく理解した上で「何もしない」と判断することと、何も知らずに「何もしない」のは大きな違いです。 正しい知識を得た上で、冷静な判断・対応をお願いします。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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