前回の記事で電子帳簿保存法に対応するための効率的なデータ保存方法について検討しましたが、今回は保存したデータを効率的に探す方法について考えます。
目次
保存データを探すのは税務署のため?自分のため?
電子取引データの保存要件は今後緩和されることになりますので、恐らく法律への対応はそこまで悩まなくて済むようになるでしょう。
だからこそこれからは法律対応のためではなく、本当に経理業務を楽にするためのデジタル化を考えるべきです。
紙の書類があると
- 何があっても経理処理のために出社しないといけない
- 上司が出張してて決裁が止まる
といった状況をいつまでも改善できず効率化できません。
紙の書類をデータに変えただけで経理が効率化するわけではありませんが、効率化するための前提条件として紙を減らしていく必要があります。
とはいえ、紙からデータに移行したときに
「あの書類(データ)どこに保存したっけ?探しても見つからない」
となってしまうと問題です。
だからこそデータをすぐに見つけられるよう「検索」しやすい状態で保存する必要があります。
「でも電子帳簿保存法で検索要件が不要となる対象は拡大するんでしょ。なんで検索について考えないといけないの?」
と思う方もいるかもしれませんが、法律対応のためではなく経理を効率化するために検索しやすくしましょう、ということです。
探し物に時間を取られることほど無駄な時間はありません。
仮に社長から「A社の1年前の請求書を見たいので持ってきて」といわれても、キャビネット内の証憑ファイルで紙の請求書を探すのではなく、保存されたデータを検索機能を使って一瞬で探し出せる方がはるかに効率的です。
経理業務における検索機能の備え方
会計ソフトを検索の起点にする
経理として書類を検索する際に活用したいのは会計ソフトです。
会社としての取引をすべて記録しているわけですから、これを使わない手はありません。
書類を紙で保存していたとしても、仕訳から書類を探しやすいように例えば取引日付順や仕訳番号順に保存するなどすれば経理としての検索機能はよくなります。
- 検索の起点は会計ソフト
- 「仕訳」と「ファイリングした書類」のつながりをわかりやすくしておく
という点を意識すれば書類は探しやすくなります。
会計ソフトへのデータ保存を検討する
紙の書類をデータに移行していくのであれば、検討したいのは会計ソフトに請求書などのデータを保存してしまうことです。
法律対応も意識するのであれば、使用中の会計ソフトが電子取引データの保存に対応している必要がありますが、これができれば
仕訳や元帳で検索 → そのまま請求書等のデータを画面上で確認できる
という流れでデータを探せるため非常に効率的です。
「取引データの保存のためだけに会計ソフトを変更できない」というケースもあるでしょう。
取引データは電子取引保存に対応したサービスにするという方法もありますが、検索できるようにするためには「取引日・取引先・金額」を改めて入力する必要があったりします。
これらの項目は仕訳入力時に会計ソフトに入力しているものですから、どうしても二度手間になるという問題が残ります。
保存フォルダの構造を検討する
会計ソフトへのデータ保存は難しいという場合に検討したいのは、データを保存しておくフォルダ構造の見直しです。
取引データを保存するフォルダについては社内で体系を決めて共有した上で、安易に変更しないようにします。
例としては
「年度」-「月」-「取引先」
「年度」-「書類の種類(請求書・領収書など)」-「取引先」
「年度」-「取引先」
といったフォルダ構造が考えられます。
最初の例でいえば「2022年度」フォルダの中に「2月」フォルダがあり、その中に「A社」「B社」などのフォルダがあるというイメージです。
この方法ではキーワード検索で探しているファイルに一回で到達することはできませんが、会計ソフトで検索した仕訳からデータを探す場合に、年度・月・取引先までは悩まずに到達することができます。
一般的に言われる「検索」とは異なりますが、フォルダ構造を整えることもファイルを探すための検索機能といえます。
ちなみにこのフォルダ構造では「A社の過去3年分の請求書を探す」といった年度をまたいでファイルを横断的に探すのは弱いという問題は残ります。
またフォルダ構造を「年度」だけにして、仕訳処理が終わった段階で取引データのファイル名を仕訳番号に変えるという方法も考えられますが、運用が大変なためオススメしにくいです。
ダウンロード要請への対策として「年度」フォルダを起点にする
最適なフォルダ構造は会社や経理の状況により変わってきますが、一番上は「年度」にすることをオススメします。
理由は、会計ソフトのデータが年度単位になっているというのもありますが、要するに税務調査時のダウンロード要請への対応です。
電子取引保存の要件は緩和されますが、代わりに多くのケースで「ダウンロードの要請に応じる」という条件が入ってきます。
もし仮にフォルダ構造が
「取引先」-「年度」
となっているとすると、税務調査時に
「2022年度のデータを提供してください」
と言われたときに各取引先のフォルダから「2022年度」のデータだけを取り出すのは大変な作業です。
モタモタしていると
「時間がかかるのなら他の年度も含めてそのまま提供してください」
なんて話になってしまうかもしれません。
必要なデータだけをサッと取り出せるようデータ保存のフォルダ構造の起点は「年度」にした方がよいと考えます。
自社にあった運用で効率化する
書類をデータ化した際に「探しやすい」保存をどうすべきかについて考えてみました。
前回ご紹介したメールの添付ファイルの自動保存と組み合わせるのであれば
- Power Automateを使ってメールの添付ファイルを一時保存用フォルダに保存
- 毎月決算の時に一時保存フォルダから最終保存フォルダ(例えば「年度」の中の該当する「月」フォルダ)へまとめてファイルを移動
といった運用が考えられます。
どのような保存の仕方が効率的かは会社の状況により変わってきますので、今回の例も参考に自社に合った効率的な保存方法を検討いただければと思います。
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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