令和2年の所得税申告から導入された所得金額調整控除。「年末調整で対応したから所得税の確定申告も大丈夫」と考えていると思わぬ落とし穴があります。年末調整との違いを確認しておきましょう。
所得金額調整控除とは?
年末調整における所得金額調整控除の注意点については、昨年一度記事にしました。
繰り返しになりますが、そのときの解説を一部抜粋しますので、所得金額調整控除の概要を確認しておきましょう。
対象者
- 給与等の収入金額が850万円超の方で、23歳未満の扶養親族がある方、もしくは本人・同一生計配偶者・扶養親族が特別障害者の方
- 給与所得と年金所得の両方があり、これらの所得の合計額が10万円超の方
制度の趣旨
対象者1について
省略
対象者2について
給与や公的年金の税金を計算する際に控除できる給与所得控除・公的年金等控除が今年から一律10万円引き下げられると共に、基礎控除が10万円引き上げられました。
給与もしくは年金どちらかだけ受け取っている方については、高所得者を除いてトータルで税金負担に変更はありませんが、給与と年金両方を受け取っている方については、控除額が10万円減ってしまいます。
こうした負担増が生じないよう所得金額調整控除が創設されました。
計算方法
対象者1のケース
(給与等の収入金額※ - 850万円) × 10%
※給与等の収入金額が1,000万円を超える場合には、1,000万円として計算
対象者2のケース
(給与所得控除後の給与等の金額※ + 公的年金等に係る雑所得の金額※) - 10万円
※給与所得控除後の給与等の金額・公的年金等に係る雑所得の金額が10万円を超える場合には、超えた方の金額は10万円として計算
適用時期
令和2年分の所得税から適用されます。
年末調整と確定申告での相違点は?
会社などで年末調整を行う際に、年末調整の対象となるのは、その会社から支給される給料だけです(前職の給料がある場合は、それも加味されますが、あくまで対象になるのは給料だけです)。
そのため、先ほどの説明で言えば「対象者1」の所得金額調整控除だけが年末調整の対象となり、「対象者2」については会社などで行う年末調整の計算に反映されることはありません。
従業員の方が公的年金を受け取っていたとしても、その収入金額や源泉所得税を年末調整に反映することはありません(基礎控除など所得制限のチェックには使用しますが、あくまでチェックが目的です)。
その一方で、所得税の確定申告においては、その方が稼いだすべての所得が対象となります。
つまり、年末調整では「対象者1」のみが反映されていましたが、所得税の確定申告においては「対象者1」「対象者2」両方を反映させる必要があります。
また、年末調整においては「所得金額調整控除」の適用を受けるためには「所得金額調整控除申告書」を提出する必要がありましたが、確定申告においては同様の書類はありません。
では、適用しているのかどうか、どこで確認するのか?
確定申告書の用紙には、「収入金額等」欄の「給与」の右横に「区分」欄があります。
この欄に
- 「対象者1」の所得金額調整控除を受けるときは「1」
- 「対象者2」の所得金額調整控除を受けるときは「2」
- 「対象者1」「対象者2」両方の所得金額調整控除を受けるときは「3」
を記入することになっていて、ここで確認することになっています。
結論として、所得税において所得金額調整控除を適用するにあたり、年末調整と異なる点は、
- 適用される所得金額調整控除が2種類になる
- 「所得金額調整控除申告書」は不要だが、給与欄に区分の記載が必要
の2点になります。
なお、「対象者2」の場合、給与所得と雑所得(公的年金)のどちらから所得金額調整控除を引くのか、という疑問があるかもしれませんが、これは給与所得から差し引くことになっています。
経験からくる思い込みには要注意
税理士の仕事をしていると、所得税の申告業務は、年末調整が終わって一息ついたころにやってきます。
今回のような、年末調整と所得税確定申告で適用の有無が異なる処理があると、年末調整の時の感覚のまま、「対象者1」しか対象にならないと思い込んでしまう恐れもあります(私だけかもしれませんが・・・)。
忙しいときほど、基本に戻って適用される対象者・計算方法などきちんと確認する必要があるでしょう。
所得金額調整控除は、対象となる条件が複雑なため、申告書作成ソフト等で申告書を作成しないと見落としてしまう可能性も高いのですが、条件さえ満たせば適用できる控除ですから、見落としがないよう気をつけないといけません。
改めて気を引き締めて、残りの確定申告期を乗り切っていきたいと思います。
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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