1月も終盤に差し掛かり、これから確定申告が本格化する時期となりました。先日国税庁から医療費控除について少し気になる発表がありましたので、内容を確認しておきましょう。

ポイントで支払った場合に医療費控除を集計する2つの方法

先日国税庁のホームページに、次のタックスアンサーが追加されました。

国税庁ホームページ:No.1907 個人が企業発行ポイントを取得又は使用した場合の取扱い

内容としては、

「企業が発行するポイントを個人が使用した場合に税金がかかるか」

というものですが、その最後のところで、ポイントを使用して医薬品を購入した場合の医療費控除について触れています(以下引用、太線は筆者)。

ポイントの使用に関する課税関係は上記のとおりですが、ポイントを使用して医薬品購入の決済代金の値引きを受けた場合など、所得控除の対象となる支出にポイントを使用したことが明らかな場合には、
① ポイント使用後の支払金額を基に所得控除額を計算する方法
② ポイント使用前の支払金額を基に所得控除額を計算するとともに、ポイント使用相当額を一時所得の総収入金額として算入する方法
のいずれかの方法により、所得金額及び所得控除額を計算してください。

この文章だけではわかりにくいでしょうから、具体的な数字で説明します。

事例としては、

  • 購入する医薬品の価格:2,200円
  • 所有するドラッグストアのポイント:1,000円分相当

というケースを考えてみましょう。

この医薬品を購入する際に、所有するポイントをすべて使って支払をすると、実際の支払金額は、2,200円-1,000円=1,200円 となります。

このときに、医療費控除の医療費として集計する金額と一時所得の総収入金額として集計すべき金額をまとめると、以下の表のようになります。

  ①のケース ②のケース
医療費控除の対象金額 1,200円 2,200円
一時所得の総収入金額 0円 1,000円

①のケースだと医療費として1,200円しか集計できないけど、②のケースだと2,200円全額を集計できる。

そうなると、②のケースを採用した方が有利なのでは?と思われるでしょう。

でも、その前にひとつ確認しておかないといけないことがあります。それは「一時所得って何?」という点です。

広告

一時所得の対象と計算方法は?

一時所得についても、国税庁のホームページに解説が掲載されています。

国税庁ホームページ:No.1490 一時所得

所得税の計算方法を細かく説明することは割愛しますが、簡単に説明すると、

  • 一時所得に該当する収入がある
  • 該当するものについては、給料や事業からの所得とは別に所得金額(粗っぽくいえば利益)を計算する
  • 最後に給料や事業から得た所得(≓利益)と合算して、その合算した金額に税率をかけて所得税を計算する

となります(実際の所得税の計算は、ケースによってはもっと複雑になりますので、詳細はお近くに専門家にご相談ください)。

一時所得に該当する収入としては、例として

  • 懸賞や福引きの賞金品
  • 競馬や競輪の払戻金
  • 生命保険の一時金(個人として受けとるもの)
  • 法人から贈与された金品

などが挙げられています。

医療費の集計で先ほどの②のケースを採用したときは、1,000円を一時所得としてこれらの収入と合算して確定申告書に含める必要があるわけです。

では「たった1,000円でもその分に税金がかかるの?」というとそういうわけではありません。

先ほどの国税庁のホームページにも書いてあるとおり、一時所得は次の算式で計算します。

総収入金額-収入を得るために支出した金額-特別控除額(最高50万円)

要するに、収入金額からかかった費用を引いた後に、さらに最高50万円まで引いた残りが一時所得になります。

そのため、仮にその年の一時所得に該当するものが、先ほどのポイントで支払った1,000円だけだとすれば、

1,000円(収入) -0円(費用)-1,000円(特別控除額、1,000円<50万円→1,000円)

という計算となり、一時所得は0円です。

(なお、実際に所得税を計算する際には、この算式で計算した金額の1/2だけが、他の給料などの所得金額と合算されることになります。)

そのため、他に一時所得がなく、ポイントで支払う金額が50万円以下であれば、確実に②の方法で医療費を集計した方が有利ということになります。

ただし、保険金の受取りなどがあった年には注意しておかないと、②の方法を使うと一時所得の申告漏れや申告金額の増加となる恐れがありますのでご注意ください。

また、ふるさと納税の返礼品なども一時所得に該当するとされています(先ほどの、「法人から贈与された金品」に該当します)。

「ふるさと納税」を支出した者が地方公共団体から謝礼を受けた場合の課税関係

「保険金の受取りや競馬の払戻金がないから大丈夫」という方でも、多額のふるさと納税をされている場合、こうしたポイントまで合算していくと50万円を超えて一時所得の対象となる可能性もありますので、注意が必要です。

広告

実際に影響するケースがどれだけあるか?

以上、ポイントで医薬品を購入した場合の医療費控除の計算方法についてまとめましたが、正直なところ医療費控除ではあまり影響はないと思います。

医療費控除を適用される方は、通常であればお医者さんから処方箋をもらい、薬局で薬を購入することが多いと思いますが、こうしたケースでは、ポイントを使えるケースはあまりないでしょう。

一方で、セルフメディケーション税制を適用される方は、ドラッグストアで対象となる医薬品を購入するケースも多いでしょうから、今回解説した点も影響してくるのではないかと。

なお、最後に税理士の立場からひと言。

確定申告業務で余裕のないときに、

「今年けっこうドラッグストアで医薬品買って、ポイントで支払ってるから、どっちが有利か検討してね。よろしく。」

などといわれても、とてもそこまで対応してられません。

少なくとも私は、対応する気はありませんので、ここで宣言しておきます(笑)。

どこの税理士さんも同じような状況かと思いますので、医療費控除を税理士に頼まれる方については、その点ご配慮いただければと思います。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
広告