freeeを使っていると、売掛レポートをどう位置づけるか結構悩むことがあります。
目次
1.freeeの売掛レポートは何のためにあるのか?
freeeで請求書を発行して、入金があったときに正しく消し込み処理をすると、freeeの売掛レポートには残高がゼロと表示されます。
つまり本来想定されている使い方をすれば、このレポートには未回収の残高が表示されます。
そのため私は、このレポートは回収できていない売掛金をフォローするために活用するものとして理解しています。
ところが、長いこと経理をやっていた人間からすると、ここで一つの疑問を持ちます。
「試算表の売掛金残高は、何と合わせればいいの?」と。
昔ながらの感覚でいけば、販売管理システムから得意先元帳が出力されて、この残高と試算表が一致しているか確認します。
得意先元帳というのは、下図のような前月からの繰越と当月の売上・回収があって、当月の残高が得意先別に表示されている帳票です。
前月繰越 | 当月売上 | 当月回収 | 当月残高 | |
A社 | 100 | 130 | 100 | 130 |
B社 | 300 | 300 | 290 | 310 |
合計 | 400 | 430 | 390 | 440 |
帳簿の呼び方や形式は様々あるかもしれませんが、本稿ではこのような帳票を得意先元帳と呼ぶことにします。
2.ERPには得意先元帳が存在しない?
会社員時代にイギリスに出向して、ERP(オラクル)に苦戦した話を以前書いたことがあります。
そして得意先元帳についても、苦い思い出が一つ。
着任早々、試算表の売掛金を合わせようとしたときの、現地スタッフとの会話・・・。
私:「得意先元帳持ってきて」
現地スタッフ:「そんなもんないよ」
私:「は?じゃあどうやって売掛金合わせるの?」
現地スタッフ:「I don’t know.」
なんてやりとりがありました。
ちなみにこうした場面でよく「I don’t know.」って言われましたが、これすごく腹立つんです。完全に余談ですが・・・。
このとき情報システム部門に得意先元帳を作ってもらおうとしたのですが、最初に言われたのが
「月末時点のデータはデータベースにないから作れない」
でした。
得意先元帳みたいなものを作ろうとしたら、月末以降に発生した取引を全て巻き戻して、月末時点の残高を計算しないといけないとか言われて、「ERPで決算なんてできない・・・」と泣きそうになった記憶があります。
(結局、無理矢理ねじこんで得意先元帳は作ってもらいましたが(^^;))
ERPという仕組はとにかくデータが流れていく。売掛金も回収できてゼロになっていれば「エブリシングオーケー」という感じで、問題ないから気にしない。
回収できていないものだけフォローしようという考え方。そんな印象を受けました。
3.ちなみに他のソフトに得意先元帳はあるのか?
MFクラウド
MFクラウド請求書のヘルプを確認してみましたが、得意先元帳に該当するレポートは見当たりませんでした。
一方、MFクラウド会計では、売掛金の補助科目を設定すると、「得意先レポート」という名称で、得意先元帳が表示されます。
ただこのレポートも、仕訳から集計して作ったものなので、試算表の売掛金残高をチェックするという目的には使えません。
同じデータから集計していますので、このレポートの残高と試算表の売掛金残高が一致するのは当然ということになります。
ちなみに、なぜこの得意先レポートではダメなのか?
freeeのケースになりますが、もし請求書をステータスが「下書き」のまま紙に印刷してしまい、お客さまに送付してしまったとします。
すると、現実の取引としては売掛金は発生しているのですが、freeeの中では請求書が「下書き」のままでは売掛金は計上されません。
ところが、このケースにおいてもfreeeでは何もエラーメッセージは表示されませんので、決算を完了させることは可能です。
でもこの場合、試算表の売掛金残高は正しいでしょうか?売掛金の集計が1件漏れていますから、当然正しくありません。
MFクラウドの得意先レポートの作り方では、このようなエラーが検出できないため、好ましくないというのが私の意見です。
弥生
ちなみに弥生販売も確認してみました。さすがに年季が入ったソフトだけあって、ありました。
「売掛残高一覧表」という名称ですが、まさしく得意先元帳です。
良い悪いの判断は別として、長いこと経理やってると、こっちの帳票の方がしっくりくる部分もあります。
4.大切なのは残高の正しさを保証するためのチェックの仕組み
freeeの売掛レポートから始まって、話があちこち飛んでしまいましたが、得意先元帳も元々は、売掛金残高の確認や未回収のチェックのために作られたもの。
今までは請求書を発行する仕組みと会計ソフトがつながっていなかったので、両者の残高が合っているかチェックすることは必須でした。
ところが、freeeのようにこの二つの機能が一つのシステムの中でつながっているのであれば、両者が一致しているかわざわざ確認することは意味がありません。
(これも厳密に言えば、両者が不一致となるシステムエラーの可能性はゼロではありませんので、本当はチェックした方がよいというのが私の考え方です。)
freeeであれば、未回収は売掛レポートで確認できるし、試算表で売掛金を取引先別に表示すれば得意先元帳とほぼ同じ情報は得られます。
そのため得意先元帳という形での帳票は不要と判断されているのだと思います。
ただ、帳票の有無や作り方と経理として売掛金の残高の正しさを保証することは別の問題です。
請求書を「下書き」のまま放置したりするような人的エラーの可能性を考えると、月次決算を完了する前に、「下書き」の請求書が残っていないか確認するルールを決めるといった、今までとは異なるチェックの仕方を考える必要があります。
結局大切なのは、どのような帳票があるかではなくて、正しい決算をするために、どのようにチェックをするかという仕組みをきちんと作り上げることです。
この記事を読んだ経理の皆様、試算表の残高の正しさが保証できているか、チェックすべきポイントに漏れがないか、いま一度チェックされてみてはいかがでしょうか。
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。