世の中「DXだ!」「バックオフィス業務の生産性向上だ!」という話をよく耳にしますが、そのためには「データ」が欠かせません。だけど「データ」であれば何でもいいのかどうか。今回はそんなお話です。

電子帳簿保存法一問一答の改訂内容がちょっと厳しい?

データの話をする前に、少し電子帳簿保存法について。

先日、国税庁が電子帳簿保存法一問一答の改訂を公表しました。

追加の設問もかなりありましたが、その中で気になったもののひとつが帳簿書類関係についての問22です。

仕訳帳や総勘定元帳などの帳簿をデータで保存しておく場合、優良帳簿以外では、税務調査などの際に税務署職員からデータのダウンロードを要求されると、これに応じる必要があります。

このデータダウンロードについて

「画像やPDFファイルで提供したとしても、ダウンロードの要求に応じたことにならない」

「CSVファイルなどの検索性を備えたデータを提供する必要がある」

というのが問22の内容です。

国税庁としては従来からこうしたスタンスだったと思われます。

今年1月からの条件緩和により、帳簿を電子保存する事業者が増えることが予想され、上記の点を正しく理解されていないのではないか、という心配から恐らく設問を追加したのでしょう。

ただ、従来から(正しくはありませんが)

「とりあえずPDFファイルで保存しておいて、税務調査があったら印刷すればいいや」

というスタンスで対応してきたケースも結構あるのではないでしょうか。

帳簿のデータ保存をする際に、会計データそのものを削除することはないと思いますが、同じ考え方のままPDFファイルしか保存しないとなると少し困ったことになります。

データであれば何でもいいというわけじゃない

今回の一問一答の改訂ですが

「検索できないとデータを受け取っても意味がない」

という考え方になっています。

こうした方向性については、経理業務を効率化するという観点から考えても、決して間違っていません。

紙の書類をスキャナーでデータにしたり、請求書を取引先からPDFファイルで受け取るケースを考えてみましょう(「電子化」と言われたりします)。

書類保管のスペースが問題になっているのであれば、その点は解決しますが、経理処理を考えた場合には、紙の書類と同じく会計ソフトなどへの「手入力」はなくなりません。

こうした「電子化」といわれる段階では、経理業務が抜本的に変わることはないわけです。

(AI-OCRを導入するといった方法で、入力作業は多少楽になるかもしれませんが、正しく読み取れているかのチェックは残るため、手入力と大きくは変わりません)

経理業務を大きく効率化したいと考えたときに意識しておきたいのは、そのデータが

「良いデータ」か「悪いデータ」

かという点。

ここでの「良い」「悪い」の判断基準は

「そのデータを機械がそのまま読み取れるかどうか」

です。

例えば請求データがCSVファイルであれば、(多少の加工は必要だとしても)会計ソフトや経費精算ソフトにそのまま取り込むことができます。

ところが紙の請求書をスキャンしたり、PDFファイルで受け取った場合には、こうしたデータは会計ソフトなどでそのまま読み込むことはできません。

「経理業務の効率化にはデータが必要」という考え方に大きな異論はないと思いますが、データであればなんでもいいというわけではありません。

使っているソフトが(できる限り)そのまま読み取れる「良いデータ」かどうかという点を意識しておくことは非常に重要です。

国税庁が求める「検索できるデータ」というのも、ここでいう「良いデータ」に該当しますので、方向性としては間違っていないと考えているわけです。

データの専門家からすると

『「良い」「悪い」なんて価値基準でデータをわけるな!』

と思われるかもしれませんが、今回の目的は「経理業務の効率化」です。

経理業務の効率化に役立つデータ=ソフトにそのまま取り込めるデータ=「良いデータ」

と考えるようにしましょう。

税理士に相談する前に聞いてみるべきひとつの質問

国税庁が今回公表した電子帳簿保存法の改訂ですが、中小事業者にとっては少し厳しいという印象を受けます。

世の中が「電子化」ではなく、データを元に処理がされる「デジタル化」に向かうべきという観点からは決して間違った内容とは思いませんが、中小事業者がどこまで対応できるかはまた別の話です。

今年税理士法という法律の改正があり、その中で「税理士業務のICT化推進」という内容が織り込まれました。

税理士は中小企業の経営者が相談しやすい相手であることは確かですので、今後こうしたデジタル化についての相談も増えてくるかもしれません。

とはいえ、税理士の資格を持つ方もたくさんいて、得手不得手はあります。

中にはこうした相談を苦手とする方もいますし、必要なスキルを持っているかどうかを経営者の方が判断するのは結構難しいものです。

もし顧問税理士にデジタル化についての相談しようかな、と思われた場合には

「取引先から受け取る紙の請求書をPDFに変えたら経理業務って楽になる?」

と質問してみるのもひとつの方法かもしれません。

その回答としては

「電子帳簿保存が大変だから、紙のままがいいですよ」

「紙が減るので倉庫スペースが節約できますね」

「PDFでもらっても入力作業減らないから、それだけでは意味ないですね」

など色々考えられますが、その人のデジタル化に対するスタンスが結構見えてくるのではないでしょうか。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち、7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。