freeeを使っていくと従来の会計ソフトの考え方とはなじまない「違和感」を感じることがあります。どこからその「違和感」が生じるのかについて考えてみたいと思います。
ERPパッケージって一体何?
ERPパッケージとの出会いはイギリスで
freeeについて考える前に、昔話を少々。
30代の前半にイギリスの子会社に出向していた時期がありました。その会社はERPパッケージであるOracle(オラクル)を導入したばかりでしたが、事前検討が十分ではなく実務が少々混乱していました。
ERPパッケージというのは、会計だけではなくて生産・調達・販売などの会社全体の業務をまとめてカバーする大規模なソフトウエアです(これ以上の詳しい説明はできませんが・・・)。
営業部門の受注データを元に生産計画が作られて、それが購買部門の発注データにつながり、その結果である材料仕入れや生産・売上がそのまま会計データに流れてくる、という業務の流れを一つのソフトウエアで管理するといったイメージを持ってもらえればよいと思います。
ERPパッケージが想定したとおりに業務(データの作成や処理)が行われれば、必要なデータは自動的に作成されるわけですから、(かなり誇張していえば)経理部門は何もしなくても決算書ができあがるというわけです。
想定外のデータは必ず発生する、でも修正の仕方がわからない
ところが、すべての業務が想定通り行われるはずもなく、経理部門が決算をしようとするとどうしてもおかしなデータが見つかります。
そのときにERPパッケージや会社業務の全体像を理解していないと、そのおかしなデータをどうやって直せば良いか分からないということになります。
往々にして決算の締め切りに追われる経理部門が、やむなく元の取引データを修正せずに振替伝票で「会計上のみ」その間違いを直してしまうと、売掛金元帳や買掛金元帳などは間違ったまま放置されているため、試算表と補助簿が合わずおかしな決算のできあがり、ということになります。
ベンダーの考え方
当時ERPパッケージのベンダーの方にいろいろと相談させてもらいましたが、話をする中で感じたのは、ベンダー側は
「ERPパッケージに合わせて業務を見直してください、そうすれば業務効率が上がります」
という考え方のもとに開発をしているんだろうな、ということでした。
管理体制が十分でない会社がステップアップするためにこうした考え方を採用するのは一理あると思いますが、すべての会社の業務を一つのソフトウエアのやり方に合わせるのは無理がありますよね・・・。
freeeは良くも悪くもERPパッケージ
freeeの根底にある考え方はERPパッケージ
で、freeeなんですが使い込む中で感じるのは、ERPパッケージというほど大規模ではないものの、根底にある考え方としてはERPパッケージに近いんだと思います。
以前受けた会計事務所向けのセミナーでも確か「簡易ERP」だといわれた記憶があります(間違ってたらゴメンナサイ)。
会計という切り口だけで考えるとfreeeは使いづらい
請求書をfreeeで作成・発行したり、仕入れ請求書を「取引」として入力するということは、原始取引データ(発行した請求書や仕入の取引データ)から会計帳簿を一気に作ってしまおうという思想なのでしょう。
税理士や会計事務所は上記の話における「経理部門」にあたるケースが多いと思いますが、原始取引データを無視してその結果である会計の部分だけを修正してつじつまを合わせようとすると、「データの直し方がわからない」「税理士泣かせ」といった感想を持ってしまうのだと思います。
すべての取引が想定された業務フローに適合するわけではない
逆に言えば、freeeが想定している業務フローにはまると税理士・会計事務所がほとんど手を加えなくても一気に決算書ができてしまう、ということになるのでしょう。そして恐らくその状態がfreeeが目指しているものなのだと思います。
ところが、現実にはすべての取引がfreeeが想定している業務フローに適合することはありませんので、そうした場合に原始取引データまで戻って修正するという作業が、会計の世界だけで完結していた会計ソフトに慣れた税理士という立場から見ると非常に煩わしく感じてしまうわけです。
freeeを使用されている関与先の方も誤ったデータを登録すると税理士・会計事務所での後工程に悪影響を及ぼすという点を理解いただくことが難しい部分もあるため、想定された業務フローを実現するというのは結構難しいものです。
ちなみにMFクラウドは?
一方MFクラウドはどちらかといえば、従来の会計ソフト(弥生会計など)の考え方から大きく外れずに、活用可能なデータをうまく取り込んで効率化しようという考え方を取っている(と私は理解している)ため、従来の会計ソフトに慣れた会計人にとってはさほど違和感を感じずに移行できるのだと思います。
freeeが向いている会社とは?
freeeは規模の大きな会社の方が適している?
そう考えるとfreeeは小規模事業者よりも、会社全体としての仕組みをきちんと構築できる規模の大きな会社が組織間の連携を改善するために使う方が、本来向いているのではないかと思えます。
freeeの宣伝文句として「経理・簿記の知識がなくても使えます」「全自動の会計ソフトです」といった感じのものがあったと思いますが、深いところできちんと理解して使うとなると結構難しいのではないかと。
今後の会計の方向性は?
もちろんそうした部分を意図的に見えないようにして、深く理解しなくても会計帳簿を作成できるようにしようという意思をもって開発されているでしょうから、「個人や小規模事業者の方が使うべきではない」というつもりは全くありません。
例えばパソコンやスマホであればその中身を全く理解しないまま多くの方が使いこなしているわけですから、会計もそうした方向に向かっていく可能性も大いにあります。
ただ、現時点ではERPパッケージとしての性質が表に出ているため、税理士や会計事務所も含めて万人が使いこなせるというイメージがあまり湧きません。
これはただ単に私がまだ使いこなせていないだけかもしれませんので、こうしたソフトがさらに洗練されていけば、本当に何も意識せずに会計帳簿ができあがる日が来るのでしょう。
そうなったとしたら税理士はどんなサービスを提供してお客様から報酬をいただけばよいか?
AIに仕事を奪われそうな職業としては、悩み出すと結構頭が痛い問題です。
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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