平成29年1月1日以後の一定の医薬品の購入については、所得税の確定申告において従来の医療費控除に代えて「セルフメディケーション税制」といわれる制度を適用できるようになります(対象となる確定申告は平成30年以降に行うことになります)。
1.セルフメディケーション税制とは?
制度の内容は?
「セルフメディケーション税制」というのは、平たく言いますと
1.健康保持や病気の予防のための一定の取組を行っているのであれば
2.自分や一緒に生活する家族のために国が指定した医薬品を購入した場合には
3.その医薬品の購入代金の合計額が1万2千円を超えるときは、その超える部分の金額(8万8千円を限度)を所得税率をかける対象となる金額から控除できます
という制度です。
要するに、「国としては財政が苦しいから医療費を下げたいので、健康になるための取組みをやっている人については、軽い病気を自分で治すために買った薬代の一部については税金を減らしてあげますよ」ということです。
なお、上記1の予防のための一定の取組としては、人間ドックの受診やインフルエンザの予防接種などが挙げられています。
金額的なハードルは従来より下がる
従来の医療費控除が10万円(所得金額が200万円未満の場合は所得金額の5%)を超えなければ適用できないのに対して、セルフメディケーション税制は1万2千円を超えればよいため、金額的なハードルはかなり下がっています。
ただし、従来の医療費控除とセルフメディケーション税制は重複適用できませんので、どちらを適用するか納税者が選択する必要があります。
2.対象の医薬品かどうかをどうやって判定するのか?
対象医薬品はどうやって確認する?
この制度の説明を初めて読んだときに感じた疑問は、「どうやって対象の医薬品かどうか判断するの?」というものでした。
その後の新聞報道などで、一部の医薬品のパッケージには識別マークが記載されるといった動きも知りましたが、対象となる品目は厚生労働省のホームページに記載されるとのことでしたので、いちいち厚労省のホームページで確認しないといけないなんてメンドクサイと思っていました。
税理士として一番恐れているケースは、
「先生、なんか今年から普通の医薬品でも医療費控除受けられるって聞いたから、薬代のレシート全部残しておいたので、あとはよろしくお願いしますね」
なんて感じでお客様から丸投げされることです。
しかも通常の医療費の領収書とごちゃ混ぜにして渡された日には、「対象品かどうか確認した上で、さらに有利判定もしないといけないの?」「医療費控除大変だから追加料金くださいなんて言えないし・・・」なんて感じで、本当にどうするんだろうと思っていました。
厚生労働省がQ&Aを発表
これに対して、厚生労働省が11月2日にセルフメディケーション税制のQ&Aを公表しましたので、確認したところ次の記載がありました(強調・下線は筆者による)。
<小売り業者の方向け>
Q14 レシート等には、どのような情報の記載が必要ですか。①商品名、②金額、③当該商品がセルフメディケーション税制対象商品である旨、④販売店名、⑤購入日の明記が必須となります。
要するにレシート等に対象商品であるかどうかの記載があるか確認すればよい、ということがわかりましたので、一応上記の疑問は解消したわけです。
(それでも従来の医療費控除との有利判定についての不安は消えませんが・・・)
3.本当に実効性のある制度になるか?
小売業者の対応は可能?
しかしながら、これって小売業者の方にとってはかなりの負担になるのでは、という心配があります。
延長される可能性はあるものの、現時点では平成29年1月1日から平成33年12月31日までの間の医薬品の購入がこの制度の対象となっているため、もし仮に現在の法律通りに制度が終了してしまうと、5年間の制度のために薬局などはレジ等の改修をしなければならないことになります。
しかも対象品目は次々と変わっていく訳ですから、常にそうした変化に対応することが求められるわけです。
そうなるとこの制度に対応できない小規模なドラッグストア・薬局が出てきた場合、医薬品の購入の際に消費者から敬遠されることになってしまわないかという気がします。
恐らく医薬品販売業界として対応を検討されるとは思いますが、本当にこの制度うまく機能するのでしょうか?
薬をたくさん買えば税金が減るという考え方で機能するか?
結局のところ、薬をたくさん買えばその分税金が減るという制度になっているため、医療費を減らすという本来の目的に合致しているのかという疑問があります。
医療費を減らすためには健康な人が増える必要があるわけですが、その目的のためには税金で薬代を補助するような今回のやり方よりも、今回の財源を健診や予防接種の費用補助に直接充当して予防に重点を置いた方が効果が高いのではないかと考えています。
政策目的を達成するための制度設計というのは難しいものかもしれませんが、今後の動向を見守りたいと思います。
なお、上記記事は説明をわかりやすくするため簡略化して記載している部分があります。実際の法律の適用にあたっては専門家にご確認いただきますようお願いいたします。
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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