広告

昨年末政府から公表されている資料の中で、将来的にマイナポータルで取り込める対象が増えることが謳われています。この資料から、将来の所得税申告がどのように変わっていくのか予想してみましょう。

今後マイナポータルで取り込める予定のデータは?

少し前ですが、税務通信という雑誌に、マイナポータルで今後取り込めるデータの工程表が政府から公表された、という記事がありました。

マイナポータルについては、今回の年末調整・確定申告から、生命保険料などのデータを連携できるようになりましたが、すべての保険会社が対応しているわけではなく、まだ十分に活用できる状況にはありません。

とはいえ、今後どのような展開になるのか、興味はありましたので、出典元データを確認してみることにしました。

政府CIOポータル:デジタル・ガバメント実行計画

記事の元になっている資料は、このサイトに掲載されている

「2020年12月25日 改定(閣議決定)」の中の「別添1 マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤の抜本的な改善に向けて」

のようです。

この資料の22ページ以降に、「2.1 マイナポータルをハブとしたデジタル・セーフティネット構築(民間情報と電子申請等の連携、税(所得情報)と社会保障の連携等)の検討」として記載されている内容から、気になる点をいくつかピックアップしてみましょう。

まず、【取組方針】①において、

確定申告データについてはe-Taxにつなげ、先進諸外国が導入している記入済み申告制度と同様、簡易に申告できるサービスを実施する。

との記載があります。

「先進諸外国が導入している記入済み申告制度」が具体的にどういった制度かわかりませんが、恐らく必要な情報が事前に記入された申告書が配信されて、本人が確認・承認すれば申告が完了する制度と思われます。

この書きぶりからすると、日本においても将来的にマイナポータルを活用して、入力がほとんど不要な所得税申告が実現する可能性があります。

さらに、【取組方針】④「マイナポータルから取得できるデータの拡大」において、2022年度~2025年度にかけて、マイナポータルで取得できるデータとして次のものが挙げられています。

  • 社会保険料控除証明書(国民年金保険料負担額以外)
  • 小規模企業共済等掛金控除証明書(iDeCo等)
  • 寄附金控除証明書(ふるさと納税以外)
  • 上場株式配当等の支払通知書
  • 給与所得の源泉徴収票

それ以外のデータについても、

  • 医療費通知証明データ:2021年9月診療分のものから、マイナポータル連携
  • 公的年金等の源泉徴収票:2023年1月からマイナポータル連携
  • 社会保険料控除証明書(国民年金保険料負担額):2023年1月からマイナポータル連携

とされています。

なお、ふるさと納税については、【取組方針】②において

2021年度(令和3年度)以降に、ふるさと納税の寄附金控除の確定申告手続において、必要なデータ※を取得し、自動入力できるようにする。
※ ふるさと納税の寄附金控除証明書データ。指定寄附仲介事業者がマイナポータルと連携。

とされていて、これも指定寄附仲介事業者の対応次第ではありますが、マイナポータルへの連携が予定されています。

上記以外にも、【取組方針】④に、

フリーランス等の契約情報のマイナポータルへの登録や、収入情報を仲介プラットフォーマー経由で入手する仕組みについても併せて検討する。

との記載もあり、フリーランスの収入情報(恐らく従来支払調書で把握していたような内容)についても、マイナポータルで取得できるようになる可能性があります。

予想される所得税申告の未来は?

引用した内容はあくまで工程表であり、予定通りのスケジュール・内容で実現するかどうかはわかりませんが、仮に実現したとした場合、2025年以降の所得税申告は大きく変わる可能性があります。

これらの情報から、私が勝手に予想する所得税申告のパターンを、いくつか考えてみたいと思います。

広告

医療費控除と寄附金控除を適用したいサラリーマンのケース

ケガ・病気等で医療費が多くかかってしまったサラリーマン(ふるさと納税も実施済み)のケースを、まず考えてみましょう。

会社からの源泉徴収票は、マイナポータルに自動的に取込み済み。

医療費についても、マイナンバーカードに搭載した健康保険証を利用しているため、すべての医療費データは、マイナポータルに連携されて取り込まれている。

利用したふるさと納税のポータルサイト事業者が、指定寄附仲介事業者に該当するため、マイナポータルにふるさと納税のデータも連携済み。

国税庁の確定申告書作成コーナーでこれらのデータを取り込むと、一瞬で所得税の申告書が完成。

マイナポータル連携対象外の医療費の支払があった場合には、確定申告書に追記。

申告書の内容を確認して、マイナンバーカードで署名して送信すると、申告完了。

広告

年金生活者で上場株式の配当があるケース

年金収入がある方で、他に株式の配当所得があり、申告すると還付になるようなケースもあるでしょう。

この場合も、年金の源泉徴収票は自動的にマイナポータルに取り込まれています。

さらに、株式配当金についても、自動的にマイナポータルに連携済みのため、国税庁の確定申告書作成コーナーでデータを引込めば、申告書の作成は完了。

あとは、内容を確認して、電子署名を付けて送信すれば、申告作業は完了。

仲介プラットフォーマー経由で仕事しているフリーランスのケース

フリーランスの場合は、どこまで実現するかわからない部分も多いですが、公表資料に書かれている内容から、予想してみましょう。

仲介プラットフォーマー経由ですべての仕事を受けていたため、マイナポータルに1年間の収入情報は既に取り込みされている。

また個人で支払った、

  • 国民健康保険料
  • 国民年金保険料
  • 小規模企業共済掛金

の情報についても、既にマイナポータルに取り込みされている。

これらの情報を国税庁の確定申告書作成コーナーに連携。

あとは、経費や扶養親族の情報を入力すると確定申告書は完成。

内容を確認して、電子署名を付与して送信すれば確定申告は完了。


私の勝手な想像ではありますが、所得税の申告がどのように変わっていくのか想像してみました。

本当は、マイナポータルの中に確定申告書作成機能を取り込んでほしいのですが、そこまではムズカシイかな、と。

マイナポータルの中で、申告書作成できれば、そのまま電子署名付与(もしくはログインしていれば署名不要とする可能性も)できるので、さらに省力化できるかと。

広告

流れを読んで、何ができるか考えておく

こういう内容を書くと、「税理士の仕事なくなるんじゃないの?」と思われる方がいるかもしれませんが、今回挙げたような方は、多くは無料の確定申告会場で申告をされているか、ご自身で確定申告をされているケースが多いと思われます。

今年は新型コロナウイルス感染症の影響で、確定申告会場も従来通りの運営が難しい状況になっていますので、将来に向けて自宅でカンタンに申告を終わらせられる体制を作ることの重要性は高まっています。

そもそも確定申告会場の運営にもコストはかかっているわけですから、こうした取組を進めて、確定申告会場の規模を縮小できれば、それは行政コストの削減にもつながります。

また、税理士としても仕事がすべてなくなるわけではありません。

今回取り上げたようなデータ連携が進んだとしても、個人事業者の収入や経費を計算する部分がすべて自動化されるわけではありませんし、そうした数字を見ながら次の行動にどうつなげるかといった点で提供できる価値はあります。

こうした資料から、将来どのように変わっていくか予想し、その中で自分ができることを常に考えておく。こうしたスタンスが大事です。

3~4年後の所得税申告がどのように変わっているかわかりませんが、

「ログインしたら申告書が既にできていて、承認したら完了」

という未来、私は見てみたいと思ってます。

 

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
広告