先月閣議決定された「規制改革実施計画」では電子申告義務化の範囲拡大が議論されています。電子申告に限らず、税理士が中小企業のデジタル化に向けて何ができるのか考えてみたいと思います。
デジタルガバメントに向けた取り組み
先日、税務雑誌を読んでいると
『「規制改革実施計画」で電子申告義務化の範囲拡大等に言及』
という記事に目がとまりました。
とても小さな記事だったのですが、記事の元になった資料は次のものでした。
この資料から、「デジタルガバメントの推進」-「行政手続きの100%オンライン利用」(7~8ページ)の部分を、一部抜粋します(太字は筆者による)。
a 総務省及び財務省は、法人住民税・法人事業税/法人税・消費税の申告手続について、大法人の電子申告義務化の効果等について速やかに検証を行い、その結果を踏まえ、電子申告義務化の範囲拡大を含め電子申告の利用率100%に向けた取組の検討を行う。
b 総務省及び財務省は、電子申告義務化の範囲拡大を含めた電子申告の利用率100%に向けた取組のための環境整備の一環として、法人住民税・法人事業税/法人税・消費税の申告手続について、民間の取組も参考にユーザーテストを実施し、UI・UXの更なる改善を図る。また、地方税申告と国税申告について、情報連携等によるワンスオンリーを徹底するとともに、システムの共通化・標準化に向けて検討を行う。
c 財務省は、税理士が代理申告を行う場合の利用率100%に向け、電子申告の積極的な利用を通じて事業者利便の向上等を図ることの法制化を含め、デジタル化に向けて税理士の果たすべき役割を検討し、必要な措置を講ずる。
現在法人税等の電子申告は、株式会社であれば資本金の額等が1億円超の場合に限定されていますが、この対象範囲の拡大について検討がされているようです。
そのためのUIや国税と地方税の連携などの改善も検討されているようですが、cにおいてデジタル化に向けての税理士の役割についても言及されています。
税理士は電子申告の代行さえしていればいい?
この税理士の役割に関する部分では
税理士が代理申告を行う場合の利用率100%に向け
とありますので、将来的には税理士が行う申告については、原則電子申告とするような検討がされているということでしょう。
この部分を読んで気になったのは、
「中小企業が自分で電子申告するのは大変だろうから、税理士が100%電子申告するような制度にすれば、税務申告のデジタル化は達成できる」
という考え方になっていないかどうか。
要するに、税理士が「電子申告の代行屋」みたいな位置づけになってしまわないかと。
電子申告という点だけでいえば、それぞれの中小企業が仕組みを導入するよりも税理士が代行した方が、トータルとして効率はよいでしょう。
ただ電子申告が義務化された場合、決算書等の郵送での提出は認められず、電子送信する必要があります。
そのときに、例えば仮に手書きの帳簿のままだったりとか、会計ソフトの相違で電子申告のシステムにデータを引き込めないといったことがあると、そのしわ寄せはすべて税理士側が負担することとなってしまいます。
要するに、中小企業の業務のデジタル化を一切行わずに、電子申告だけ税理士に代行させて電子申告だけ100%達成するという考え方で、本当に中小企業の効率化が進むのかどうか、ということです。
税理士という立場を考慮すれば
- 中小企業の経営者と話がしやすい(話を聞いてもらえる)
- 会社の業務フローをつかみやすい
- 会計という負担の大きい部分をカバーできる
といったメリットがありますので、付加価値を提供するという観点からも、電子申告だけではない、中小企業のデジタル化のお手伝いができるのでは、と考える訳です。
難しく考えず、小さな一歩から始めてみる
「中小企業のデジタル化」と書くと大げさなことのように感じるかもしれませんが、会社ごとに進捗度合いは千差万別。
まだネットバンキングも導入していなかったり、出納帳が手書きだったり、という会社もまだまだ存在しています。
いきなり大きなことをやろうとせず
「銀行行く時間を減らすためにネットバンキング入れてみませんか?」
「出納帳の残高を電卓で計算する時間を減らすために、Excelの出納帳に変えてみませんか?」
といったところからで構わないと思っています。
そうしたことを少しずつ積上げていってから、例えば
- 会計ソフトを使いやすいものに見直す
- 毎月の支払業務のやり方を見直す
- 承認・決裁の仕組みを紙ベースからワークフローに置き換える
といった提案をしていけばいいのではないかと。
「デジタル化」という言葉を聞くと、高価なシステムを導入しないといけないんじゃないか、という気分になるかもしれませんが、大事なのは
「○○を導入したら、仕事がこんなにラクになった」
という経験をしてもらい、デジタル化が会社にとってメリットがあることを理解してもらうこと。
「デジタル化」ではなく、「仕事をラクにすること」が目的であるべき。
そのように考えると、電子申告の代行以外にも税理士としてできることは、いろいろあるはずです。
税務という範囲に縛られずに、幅広く価値提供していければと。
投稿者
-
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
最新の投稿
- 弥生会計2024年11月21日弥生会計NEXTを試してみた素直な感想をまとめてみる
- Notion2024年11月17日Notionフォームの使い方
- Notion2024年11月14日NotionでTrelloと同じ機能を再現するための手順
- AI2024年11月10日今後のAI活用を考えたときに、データの集約を意識しておくべきかについて考える