持続化給付金の受給に関して、最近もいろんなニュースが流れてきますが、ここから士業としてのリスクマネジメントについて考えてみたいと思います。
「京都の税理士も給付金受給に関与」というニュースの見出し
先月JRAの調教助手や厩務員の方が、持続化給付金を不正に受給したのでは?といったニュースが流れましたが、その続報として
「京都の税理士も給付金受給に関与」
という見出しがありました。
ニュースを読む限りでは、この方は無報酬で受給のためのサポートをしたらしいのですが、記事の見出しがどうにも
「何か不正に加担しているのでは?」
というニュアンスが含まれているような気がして、読んでいて落ち着かない気分に。
というのも、普段の仕事の中で、次のようなやりとりであれば、いくらでも起こりえると思えたからです(以下、相談者:相 税理士:税 と略します)。
相:「持続化給付金という制度があると聞いたんですが・・・」
税:「はい、ありますよ。前年と比べて収入が50%以上減少した月はありましたか?」
相:「はい、●月の収入が大きく落ちて、前年の▲割しかないんです」
税:「それは、新型コロナウイルスの影響で収入が減ったのでしょうか?」
相:「はい、そうです」
税:「では受給できる可能性がありますので、申請してみてください」
このやりとりの中で相談者が「新型コロナウイルスの影響で収入が減った」という点について、税理士がどこまで事実確認できるかと言われれば、正直難しいといわざるをえません。
そもそも売上の内容を逐一確認して、それがコロナの影響かどうか判定すること自体が困難ですし、ひとりひとりの相談者に対して、そこまで綿密にチェックする時間もありません。
しかも無報酬で受けたとなればなおさらです。
つまり、このニュースを読んで感じたのは、
「これって他人事じゃなくて、自分が当事者になる可能性も十分にあった」
という点です。
当事者となった方がどなたか存じ上げませんし、ここまでの内容も報道内容を読んだ私の憶測に過ぎませんが、「自分が当事者になる可能性があるということ」、「持続化給付金の受給に無報酬で関与しただけで、さも大きなニュースであるかのように報じられる可能性があること」にかなり驚きました。
士業ができるリスク対策には限界がある
専門家として仕事をする以上、普段からリスク(平たく言えば、処理ミス等により損害賠償請求される可能性)については、気をつけている方がほとんどだと思います。
法律を解釈して仕事をする以上、判断がつかないケース(いわゆるグレーゾーン)はどうしても生じます。
そうした処理についてリスクが高いと判断すれば、起こりうる可能性やシナリオを説明した上で、そうした点も含めて了承いただき、書面で合意を得ておく、といったことは多くの方がされていることでしょう。
そうした通常行うリスク管理に対して、先ほど例としてあげた無償相談のようなケースについては、どのように対応すべきか?
色々考えてみたんですが、結論としては「対策のしようがない」なと。
もちろん、先ほど例としてあげたようなやりとりの中で、
「新型コロナウイルス感染症による収入減でないにもかかわらず給付金を受給すると、あとで罰金を払うことになりますよ」
と説明することは必要です。
しかしそこまでやった上であっても、後で申請した方の収入が新型コロナウイルス感染症以外の理由で減少していたとわかり、マスコミに
「税理士が給付金受給に関与した」
と書かれてしまうと、その事実だけ踏まえれば、否定しようがありません。
で、いつのまにか噂が広がり、風評被害を受けてしまうリスクがあるわけです。
コロナ禍の中での特殊事情かもしれませんが、普通に仕事したことに対してニュース性があるかのように報道されるリスクがあるとなると、困っている人を積極的に支援しようとする税理士が減ってしまうのではないかと危惧します。
相手を信頼しつつ、性悪説のスタンスで
実際のところ、相談に来られる方すべてを犯罪者であるかのように疑って仕事をすることが現実的とは思えません。
その一方で、自分自身の身を守らないといけないもの事実。
そうなると、できることといえば、
「相手を信頼しつつも、性悪説にたって行動する」
ことしかないのではないでしょうか。
相手のことは信頼しつつも、「新型コロナ以外の理由で受給すると、罰金を払うことになりますよ」といった、間違ったことをしたときにどうなるかという情報をきちんとお伝えして、あとはご本人にお任せするしかないのかな、と。
それに加えて、話を聞いて明らかに「おかしい」と感じるのであれば、お断りする勇気もこの仕事をして行く上で大事でしょう。
この仕事をして行く上で、リスクマネジメントについて「これが正解」というものはありません。
常に起きうるリスクを想定しながら、何ができるか考え続けていくしかないんでしょうね。
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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