会社の仕組みをデジタル化しようとすると、対応可能な人材は欠かせませんが、中小零細企業にはそうした人材がいないのも事実。今回はデジタル人材育成のための環境について考えてみたいと思います。
DXやらIT対応するなら人材は不可欠だが・・・
「中小企業のDX」とか「IT化で生産性向上」といった話を耳にする機会が増えましたが、その前提として社内に対応できる人材が必ず必要となります。
外部のコンサルタントやITベンダーにお金を払ってシステムを導入してもらうことはできるかもしれませんが、導入したあともきちんと運用しようとすれば、社内に受け手となる人材は欠かせません。
「ウチの会社って、Excelもほとんど使えないんですよ」という状況で、最新のITツールの導入とかDXとかいっても無理だというのは誰でもわかることでしょう。
人材がいないのであれば採用するしかありませんが、人手不足・人材不足という状況下で、簡単に希望する人材が見つかるわけもなく、さらに優秀な方であれば、当然給与水準も大きく上がることになります。
そうなってくると、特に中小零細企業であれば
「とてもそんな人は雇えない」
ということになるでしょう。
とはいえ、高度なシステムを導入するのであれば、それに見合った高度な人材が必要となりますが、中小零細企業が最初に目指すべきレベルのDXやIT化であれば、内部の人材を育成するというのもひとつの方法として考えられます。
デジタル人材育成のための機会と支援は十分か?
世の中で求められるスキルが変化していく中で、今の会社で価値を生み続けるために、新たなスキルを身につけることを「リスキリング」といったりします。
「リスキリング」については昨年一度取り上げましたが
中小企業などがDXやIT化に舵を切るのであれば、社員の方に働きながら新たなスキルを身につけてもらうことも検討すべきです。
検討する際に問題となるのが、スキルを身につけてもらうにあたっての環境が整っているのかという点。
この点について、課題として2つあります。
ひとつは従業員の方が学ぶ機会が十分にあるのかどうか。
例えば「職業訓練 プログラミング」「職業訓練 RPA」といったキーワードで検索してみると、もちろん情報は出てくるのですが、あまり選択肢が多いという印象は受けません。
会社の方針として、いざ学んでもらおうと思っても学びやすい機会がなければ、新しいスキルを身につけるのが難しくなります。
もう一つがコスト面。
資金的に厳しい中小零細企業であれば、こうした取組に対して補助金・助成金といった支援があればありがたいものです。
一例として東京都では以下のような助成金制度がありますが、他はほとんど見つけられませんでした。
【東京都】助成金:「令和4年度DXリスキリング助成金(中小企業人材スキルアップ支援事業)」
資金的な支援の枠組みもまだ十分とはいえない状況です。
以前のブログで
経済産業省の「第2回 デジタル時代の人材政策に関する検討会」(2021年2月26日)
のプレゼン資料を引用しましたが、1年以上前の資料で取り上げられた「リスキリング」について、中小零細企業まで浸透してきたという印象は受けません。
また今年6月に発表された政府の「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針2022)に「人への投資と配分」という項目がありますが、中身を読んでみると「人的資本投資」に関しては
成長分野における重点投資等を通じた質の高い雇用の拡大を図りつつ、「人への投資」を抜本的に強化するため、2024 年度までの3年間に、一般の方から募集したアイデアを踏まえた、4,000 億円規模の予算を投入する施策パッケージを講じ、働く人が自らの意思でスキルアップし、デジタルなど成長分野へ移動できるよう強力に支援する。
「経済財政運営と改革の基本方針2022」4ページより引用
と書かれています。
要するにこれからアイデアを募集して施策を検討するという状況です・・・。
中小零細企業がいざ「リスキリング」をやろうと思っても、従業員が学びやすい機会や政府などからの手厚い支援が整っている状況ではなさそうです。
環境が整うのを待つか、自らリスクを取りに行くか
環境が整っていないとなると、とりうる選択肢は2つ。
- 手探りで試行錯誤しながら、資金も自己負担しつつ「リスキリング」を実施する
- 世の中の環境が整うまで「リスキリング」について様子見する
どちらを採用するかは経営判断となりますが、目指すべきゴールが見えているのであれば、早く動けばそれだけ早く成果が得られるわけですから、1を目指したいところ。
ただ正直大変ですから、どの事業者でもできるとは言いづらいです。
国の方向性として
「世の中をもっとデジタル化していくべき」
と本気で考えているのであれば、政策的な支援を早急に準備すべきかと。
中小零細企業にデジタル対応してもらうには人材が欠かせないけど、実態としては育成するための環境が不十分という八方塞がりのような状況です。
少しでもお手伝いできることがあれば支援していければ、とは思っていますが、なんとも歯切れの悪いまとめになってしまいました。
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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