手軽に金を購入できる純金積立。利用されている方もいるかと思いますが、売却したときの所得税の計算方法について、今回確認しておきたいと思います。

ニュースで聞く金の国内価格って、実は1g単位って知ってました?

最近、「金の価格が最高値を更新」といったニュースを聞かれることも多いのではないでしょうか。

そういったニュースを聞いて、「金」を買ってみようかと興味を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。

一般の方がイメージする「金」といえば、テレビなどでよく映る「金の延べ棒」かもしれませんが、ニュースなどで流れる金の国内価格は1グラムあたりの価格であるため、何Kgもする金の延べ棒の価格は相当な金額になるわけです。

そうなると一般の方が利用しやすい金の購入方法としては、毎月一定額を支払って購入する「純金積立」があります。

今回は、この「純金積立」で購入した金を売却したときの所得税について、確認しておきましょう。

純金積立で積み立てた金を売却したときの所得税は?

所得区分と所得税の計算方法

一般の方が金を売却した場合には、通常はタックスアンサーに記載されているとおり「譲渡所得」として申告をします。

(ただし、売買の状況などによっては、事業所得や雑所得とされるケースもありますので、最終判断については専門家にご相談ください。)

タックスアンサー:No.3161 金地金を売ったときの税金

「譲渡所得」として申告する場合の税金計算は、買ってから売るまでの期間(以下、「所有期間」とします)が5年を超えるかどうかにより計算が変ります。

所有期間が5年を超える場合には「長期譲渡所得」、5年以下の場合には「短期譲渡所得」となります。

金以外に譲渡所得となるものがない場合の計算方法としては、

■短期譲渡所得

(金の売却金額 - 売却した金の購入にかかった金額) - 50万円

■長期譲渡所得

{(金の売却金額 - 売却した金の購入にかかった金額) - 50万円} × 1/2

という計算式で計算した金額に税率をかけて計算します。

(売却手数料等がかかった場合は、それも引くことができますが、売却手数料等はかからない前提で説明しています。)

この計算式でわかるとおり、金以外に譲渡所得となるものがないのであれば、50万円の利益までは所得税がかかりません。

なお、50万円を超える利益が出る場合の税率ですが、金の売却については「総合課税」という方法で所得税を計算しますので、給料など他の所得を合算した上で税率が決まるため、その人ごとに税率は異なります。

長期か短期かどうやって判断するの?

純金積立で購入した金を売却した場合にかかる税金について、国税庁から文書回答事例として、次のような文書が公表されています。

金定額購入システムで取得した金地金を譲渡した場合の課税上の取扱いについて

この中で、長期・短期の判定について、

先に取得したものから順次譲渡したものとして判定することは差し支えないものと考えます。

と回答されています。

つまり、日々積立という形で購入していますが、売却したときには古い購入分から売ったことにすればいいよ、というわけです。

売却した金の購入時期が5年を超えていれば長期譲渡所得とし、そうでなければ短期譲渡所得として判定します。

売却した金の購入にかかった金額はどうやって計算する?

売却金額については、純金積立を行っている会社から受け取る計算書等で確認することができます。

問題は、売った金の購入金額をどうやって計算するか、特に過去に売却したことがある場合に、どうやって計算するかという点です。

この点については、先ほどの文書回答事例の中で、

2回以上にわたって取得した同一銘柄の有価証券を譲渡した場合に準じて、総平均法に準ずる方法により算出することは差し支えないものと考えます。

とされています。

ただ、これを読んでも『「総平均法に準ずる方法により算出」って一体どういうこと?』となりますよね。

この点については、次のタックスアンサーの中で説明がされています。

タックスアンサー:No.1466 同一銘柄の株式等を2回以上にわたって購入している場合の取得費

この中の具体的な計算例を引用すると、

 

と書かれています。

要するに、

  • 初めて売るときは、それまでのすべての購入金額の平均単価をだして、売却数量×平均単価で購入にかかった金額を計算する
  • 2回目売るときは、1回目に売ったときに残った分(残った数量×1回目の平均単価)とその後買った分を合算して、新たに平均単価をだして、この新しい平均単価を元に購入に係った金額を計算する
  • 3回目以降も同じ計算をする

という流れになります。

1回しか売却しないのであれば問題はありませんが、2回以上売却するのであれば、購入した明細や計算資料についてはきちんと保管しておく必要があります。

計算方法はわかったけれど、金額が簡単に出せるかどうかは別問題?

純金積立で購入した金を売却した場合の所得税について、所得区分・長期短期の判定・購入した金額の計算方法について、解説しました。

「やり方さえわかれば後はカンタン」と言いたいところですが、少し注意が必要です。

株式投資で特定口座を使っている場合には、証券会社から受け取る特定口座年間取引報告書を見れば、売却金額も売却した株式の購入にかかった金額もすべてわかります。

ところが、純金積立の場合には、特定口座のような制度はないため、

「売却した金をいくらで買ったのか?」

「売却した金の購入時期はいつなのか?」

といった点を把握するのが意外と面倒です。

純金積立を販売している会社に相談しても、

「税務署や税理士にご相談ください」

と言われてしまうケースもあります。

残念ながら税理士であっても、資料がなければ正しく計算することはできません。

そのため、純金積立で購入した金の売却を検討されている方は、できるだけ購入に関する資料を残しておいた方がよいでしょう。

ネットでしか細かい明細が見られないといったケースもありますので、そうした場合は特に注意が必要です。

「1年に50万円も利益でるほど売らないから大丈夫だよ」という方も多いかもしれませんが、金の価格が上昇しているため想定以上に利益が出る可能性もありますし、将来にわたって複数回の売却が見込まれるのであれば、売却の都度きちんと平均単価を把握しておいた方がよいでしょう。

特に過去から積立をされている方であれば、最近の金価格上昇により売却を検討するケースもあるでしょう。

その際、少しだけでも税金の計算を気にかけていただければと。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち、7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。