税理士の仕事をしていると「事業承継対応!」と謳っていなくても、顧問先から事業承継に関する相談を受けることはよくあるもの。そうした際に、考えていること・気をつけていることなどについてまとめておきます。

「事業承継対応!」と謳っているわけではないけれど

事務所のホームページで、「事業承継対応!」「事業承継に強い!」といった感じのアピールは特にしていません。

それでも、「街の税理士」として日々中小企業の社長とお付き合いしていると、ごく自然な流れで事業承継の話題も出てきます。

「うちの息子ももう40で・・・」
「最近、どうも昔のように無理がきかなくなってきて・・・」
「この事業があと何年持つかなぁ・・・」

などなど、社長がポツリと本音を漏らす瞬間があるものです。

「経営者は孤独」というのはよくいわれることですが、会社を将来どうするかといった話は意外と家族などにはしづらいもの。

会社の数字を知っていて、第三者である税理士の方が話しやすいという部分もあるでしょう。

だからこそ、大々的に「対応してます」とは言っていなくても、顧問先から相談があれば、重要な仕事のひとつとして対応することになります。

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事業承継でまず確認すべきは「後継者」

いざ事業承継を考えようとなったとき、いきなり

「株価がいくらになるか」
「株式の贈与をどうしようか」

といった話から入ることはありません。

株式の値段や移管は非常に重要な論点ではありますが、あくまで事業承継の方向性が決まった上で、考えるべきものでしょう。

それ以前にまず確認すべき点は

「会社を継いでくれる後継者がいるか、いないか」

です。

この問いへの答えによって、考えるべきことはガラッと変わります。

【後継者がいない場合】

お子さんがいなかったり、いたとしても会社を継ぐ気がなかったり、適任の従業員がいなかったり。

中小企業において、後継者がいないということは珍しいことではありません。

この場合、選択肢は大きく分けて3つです。

  1. 後継者を探す(事業を継続する)
  2. 会社を誰かに売る(M&A)
  3. 会社をたたむ(廃業する)

とはいえ、いままで後継者がいなかった会社に、突如として適任者が見つかる可能性はかなり低いでしょう。

また、会社を売る(M&A)という選択肢も、近年は一般的になってきたものの、どうやって買い手を探すのか、そもそも自社に買い手がつくほどの価値があるのか、といった問題があります。

特に、事業が先細りになるのが見えているような会社であれば、M&Aもカンタンではありません。

そうなると「会社をたたむ」というのが、現実的な選択肢として選ばれるケースが多いのではないでしょうか。

その場合は、会社の状況に応じて

「いつまで事業を続けるのか?」

という時期を検討する必要があります。

廃業するにしても、従業員の再就職先や取引先への影響、清算手続きにかかる費用や時間など、考えるべきことは山のようにあるわけです。

後継者がいないと、選択肢がかなり限られてくるというのが正直な印象です。

【後継者がいる場合】

お子様やあるいは信頼できる従業員など、後継者の候補がいる場合は、話が変わってきます。

この場合は

「いつ、誰に、どうやって」

バトンタッチしていくのかを具体的に計画していくことになります。

  • いつバトンタッチするのか?(経営者の引退時期、後継者の成長度合い)
  • 株式をどうやって移管していくのか?(贈与・相続・売買、株価対策)
  • 会社の借入金に個人保証がついている場合、どうするのか?

こういった論点をひとつずつクリアにしていく必要がありますが、後継者がいない場合と比べると、考えるべきことが大きく変わってくるわけです。

このように、まずは「後継者がいるか、いないか」という点を確認することが、事業承継の第一歩になります。

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「いつ」を決めるのは、思っている以上に難しい

後継者がいる場合も、いない場合も、共通して悩ましいのが「いつ」というタイミングの問題です。

後継者がいない場合で会社をたたむのであれば、「いつまで事業を続けるか」を決めなければなりません。

M&Aで会社を買ってもらう場合であっても、「いつ」までに買ってくれる会社を見つける必要があるか、M&Aをまとめるかといった時期の検討は当然必要でしょう。

事業の将来性、経営者の気力や体力、そして引退後の生活資金の問題。これらを天秤にかけながら、タイミングを見極める必要があります。

「まだ体力はあるし、もう少し頑張れる」
「今やめたら、年金だけじゃ生活が・・・」

そうやって決断を先延ばしにしているうちに、業績が悪化したり、ご自身の健康状態が悪化してしまったりするケースも可能性としてあります。

一方で、後継者がいる場合も、「いつ」バトンタッチするかの決断は簡単ではありません。

特に、ご自身でゼロから立ち上げた創業社長に多いのですが、会社や事業への愛着が強すぎて、なかなか経営の第一線から退くことができないというのはよく聞く話です。

「息子にはまだ早い」
「まだ任せられるレベルまで達していない」

と感じて、ご自身で対応してしまうケースがよくありますが、任せて経験してもらわないと、後継者は育ちませんし、従業員もどちらを向けばいいのか混乱してしまいます。

決断を先延ばしにした結果、ある日突然、社長が病に倒れたり、認知症などで正常な経営判断ができなくなるリスクもあります。

そうなってからでは、後継者への引き継ぎなどが手遅れになりかねません。

このように「いつ」後継者にバトンタッチするかということは、特に創業社長の場合は感情も絡むため、かなり難しい問題です。

今回の内容について、少しでも心当たりがあるのなら、顧問税理士に雑談がてら話してみてはいかがでしょうか。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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