経理に時間をかけたくないということで、お金が入ってきたときに売上を計上していませんでしょうか?入金時に売上を計上することによる問題点を確認しておきましょう。

「面倒だから入金ベースで売上計上すればいいよね」

事業規模が大きくなってくると記帳もしっかりしてきますが、個人事業者や零細企業の場合、月次は入金ベースで売上計上して、期末月だけ売掛金を計上して辻褄を合わせるという運用は実際にあります。

特に1年分をまとめて記帳するとなると、時間がないからということでやりがちですが、毎月記帳していてもこうした処理をしているケースはあります。

簿記本来の処理である「発生主義」で記帳するとなると、お金を回収したタイミングではなく、商品やサービスを引渡した時点(これ以外の場合もありますが)で売上を認識します。

本来の処理をしない理由としては

「月々の売上を集計するのが面倒」
「売掛金の管理をするのが面倒」
「そもそも本来のルールがよくわかっていない」

等々いろいろあるかと思いますが、こうした相談の受けた場合には基本的には入金ベースでの処理はオススメしていません。

今回は、売上を入金時点で計上することの問題点について確認しておきましょう。

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入金ベースで売上計上することの問題点

入金ベースで売上を計上すると、主に3つの問題が生じます。ひとつずつ確認していきましょう。

前年や計画との比較ができない(実力がわからない)

入金時点で売上を計上するということは、取引先がいつ振り込んでくるかにより売上を認識するタイミングが変わります。

例えば1月に商品を納品、回収は2月となっていたとして、もし取引先の支払い処理が遅れたといったことが起きると、3月や4月に売上を計上することになります。

こうした状況が起きて困るのは

  • 前年や(もしあれば)計画と比較ができない
  • 季節的な変動を正しく認識できない

という点です。

前年数値と同じベースで比較できないと、事業がよくなっているのか悪くなっているのか正しく判断ができません。

間違いなく翌月回収なら1月ズレなので同じベースで比較は可能かもしれませんが、取引先からの支払いが遅れない保証はありません。

また事業内容にもよりますが、季節的な変動による影響を受けるケースは多いものです。

こうした影響を正しく認識しておかないと、時期に応じた販促などの対応をきちんと取れないという問題が生じます。

あともう一つ問題なのは、期首月と期末月の売上が異常値になる点です。

12月決算や個人事業者を例にとると、12月に12月分の売上を売掛金として計上するため、12月には回収による過去月の売上と12月の売上が計上されて異常に高くなり、逆に1月の販売がゼロといったことが起こりえます。

決算は1年単位とはいえ、月別の状況を正しく把握できないと事業の改善に向けた対策が取れません。

回収状況を正確に把握できない

入金ベースで売上を計上すると、帳簿上は売掛金が計上されません。

売掛金とは要するに「回収しなければならないお金」のことです。

お金が入ってくるまで待っているわけですから、どの取引先に対する売上がどれくらい回収されていないか把握できていない可能性が高いわけです。

本来は回収管理のための資料があって、未回収の金額が売掛金と一致しているか確認すべきですが、こうした管理ができていないということになります。

もしかすると

「いや、回収の管理はきちんとしているよ。記帳する上で、入金ベースで売上を計上しているだけ」

という反論があるかもしれませんが、そこまでできているのであれば、売上を発生主義で計上すべきですね。

きちんと管理できているのであれば、やらない理由はないのではないでしょうか。

回収への取組みが甘くなる

回収状況を正確に把握できないことの延長線上の話となりますが、商品やサービスを提供したものの、未回収の代金をきちんと把握できていないと、回収に向けた行動が甘くなってしまいます。

状況を正確に把握していないのに、行動は起こせません。

子供のころ「家に帰るまでが遠足」とよく言われたものですが「お金を回収するまでが売上」です。

売りっぱなしでお金をきちんと回収しないと事業は立ちゆかなくなります。

もちろん発生主義で売上を計上していても、回収管理が甘くなるケースは実際にあります。

ただ、回収の状況を把握できていないというのはそれ以前の状態ですから、代金回収をきちんと進めるための前提として

  • 月々の取引先への売上はいくらか
  • 売上に対していくら回収したか

という情報をきちんと整理する必要があります。

その上で回収が遅れている取引先に対しては、支払いを督促すべきです。

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多少面倒でもルールには意味がある

入金ベースでの売上計上による課題をまとめましたが「店頭販売のみの商売」といった場合は、今回挙げたような問題はあまり影響がないかもしれません。

ただ、店頭販売とはいっても、今やキャッシュレス化が進んでいますので、売上のタイミングと入金のタイミングがズレるケースは増えてきていますので、回収管理はやはり重要です。

「たかが売上の処理」と思うかもしれませんが、過去から続いてきているルールには何らかの意味があるものです。

事業を行う上で資金の重要性を理解していない事業者はいないでしょう。

事業の実態を正しく把握し、回収管理をきちんと行うためにも、売上を発生主義で処理されることをオススメします。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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