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今週の税務通信に掲載された税理士への損害賠償請求事例を読んで、こうした事例は人ごとではないと改めて感じました。ミスをどうやって防ぐべきか、自戒を込めて考えてみたいと思います。

今週の税務通信に掲載されていた税理士損害賠償請求事例

税理士向けの雑誌として「週刊 税務通信」(税務研究会 発行)という雑誌があります。

これを毎週読んでいるんですが、今週の記事の中に税理士が損害賠償請求を受けた事例についての解説がありました。

概要としては、

  • 不動産賃貸業を営んでいる方が亡くなった
  • その方は消費税を納めていて、簡易課税方式を適用していた
  • その方の長男が不動産賃貸業を引継いだ
  • 税理士は、亡くなった方の相続税申告・準確定申告、長男の確定申告を受託
  • 長男は簡易課税を適用して消費税を計算した方が有利だったため、簡易課税方式で消費税申告書を作成・提出
  • 税理士は、亡くなった方が提出した簡易課税制度選択届出書は、そのまま長男に引継がれると判断し、長男名義で届出書を提出していなかった
  • 税務署から、長男の簡易課税制度選択届出書が未提出との指摘を受けて、修正申告を実施
  • 長男の方から税理士が損害賠償請求を受ける

といった内容でした。

ここでのポイントは、簡易課税制度選択届出書という書類の効力が、事業を引継いだ方においても有効かどうか、という点になります。

これについては、消費税基本通達13-1-3の2において、次の記述があります(強調は筆者による)。

(相続があった場合の簡易課税制度選択届出書の効力等)
13-1-3の2 相続があった場合における法第37条第1項《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》の規定の適用は、次のようになるのであるから留意する。(平13課消1-5により追加、平15課消1-37、平22課消1-9により改正)

(1) 被相続人が提出した簡易課税制度選択届出書の効力は、相続により当該被相続人の事業を承継した相続人には及ばない。したがって、当該相続人が法第37条第1項の規定の適用を受けようとするときは、新たに簡易課税制度選択届出書を提出しなければならない。

(2) 省略

通達ではあるものの、強調した(1)の部分に、

「亡くなった方が提出していた簡易課税選択届出書は、事業を相続した人には有効ではありませんよ」

ということが明記されています。

つまり、今回の事例については、この通達を知っていたかどうかがポイントになったというわけです。

受験時代に何度も解いたような事例でなぜミスが起きるのか?

で、もしこの記事を読んでいる方の中に、税理士試験の消費税法を勉強中の方がいたとしたら、このように感じるのではないでしょうか?

「なんでこんな基本的なことで、試験に合格した税理士の人がミスをするの?」

と。

消費税法を勉強していると、「届出の効力は相続等によって引継がれない」といった説明を何度も受けますし、問題を解くことで確認する機会が何度もあります。

なので受験生の方にとっては当たり前の論点なのですが、今回のケースでいえば、

  1. 相続の発生
  2. 亡くなった方が個人事業主
  3. 亡くなった方が消費税の課税事業者
  4. 亡くなった方が簡易課税制度を適用
  5. 相続人の方が亡くなった方事業を引継ぐ

という少なくとも5つの条件が重ならないと発生しない事例です。

そのため試験が終わって実務一辺倒になると、意外と接する機会がなく、そうした論点については注意しておかないと、今回のようなミスは起こりうるわけです。

知識は使う機会がないと、短期間に抜け落ちていってしまいます。

さらにいえばすべての税法・通達に精通している税理士は、そんなに多くいるとは思えません。つまり、そもそもそのことについて知らないという可能性もあります。

そのため、今回の事例については知っていたとしても、他の事例において似たようなミスをする可能性はゼロとはいえません。

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ミスを見つけるのに大事なのは、「既視感」「違和感」「第六感」

そうなると、そうしたミスを防ぐためにどうすべきか?

人間である以上、ミスの発生を100%防ぐというのは現実的ではありません。

そうなると、チェックする中でいかにしてミスを見つけるか、ということが重要です。

一度経験したミスであれば「チェックリスト」という形にまとめておいて、チェックすることも可能ですが、未経験の事例を含めたすべてのミスの可能性をチェックリストに含めるのはムリでしょう。

そうなると、チェックしたときに「気付く」ということがポイントとなります。

「気付く」という観点でいえば、「既視感」「違和感」「第六感」の3つの感覚が大事ではないかと。

チェックしているときに、「あれ、これって以前に何かの本で読んだ気がする」といった反応ができる「既視感」。

「亡くなった方と事業引継いだ人って別の人なのに、届出書出し直さなくていいのかな?」といった自分の中の理解・常識から外れていると感じる「違和感」。

「なんかよくわかんないけど、モヤモヤする。もうちょっと調べた方がいいのでは?」と理由はわからないけどスッキリしない感覚を持つ「第六感」。

これら3つに共通するのは、これまでのインプットで作り上げた自分の中のセンサーが反応しているということです。

つまり、結論はありきたりかもしれませんが、「気付く」ためにはそれなりのインプットをしておかないと難しいと。

いろんなことを知っている・経験しているからこそ、「あれ?」という感覚を持つことができる。

こうした仕事をしている以上は、一定量のインプットを確保して、自分の中に「感知センサー」を組み込んでいくという作業は欠かせない、ということです。

「税理士という仕事は試験が終わった後も、一生勉強が続く」というのはよく言われることですが、今回の事例を読んで、改めて勉強大事と思った次第です。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち、7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
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