会社の貸借対照表が「キレイ」な状態になっていることは経営管理上大事なことですが、貸借対照表の内訳が不明だと、実は相続や贈与にも影響する可能性があります。今回はこの点について確認をしておきましょう。
会社の貸借対照表の内訳、すべて説明できますか?
みなさんの会社の貸借対照表について、こんなことはありませんでしょうか?
- 多額の現金が計上されているけれども、そんな現金は見たことがない
- 売掛金の中に相手先がわからないものが含まれていて、いつまでもたっても回収できずにいる
- 前払金や前受金の残高があるけれども、内容がよくわからない
- 固定資産の残高と固定資産明細が一致しない、もしくは明細が不明な固定資産が計上されている
- 保険金積立金があるけれども、どの保険会社のどの契約分かわからない(もしくは既に保険会社との契約はない)
- いつまでも支払いがされずに残っている買掛金がある
どれも職業柄、背筋が寒くなるような話ですが、このようなものが貸借対照表に残っていると、会社経営上よい状況とはいえません。
こうした状況を放置すると、資金繰りで当てにしていたのにお金が入ってこない、想定外の支払いが突如発生する等々、思わぬところで足を掬われてしまうかもしれません。
貸借対照表の内訳が不明だと相続や贈与で困ること
会社の経営管理上、貸借対照表の内訳はきちんとしておく必要がありますが、実はそれ以外にも、株式の相続や贈与に関連して問題が生じるケースがあります。
上場している会社であれば、株式の値段は市場で決まりますので、相続や贈与に関して問題が生じることはありません。
その一方で、上場していない会社の株主については状況が異なります。
上場していない株式については、多くのケースで税金を計算するための株価を計算する際に、貸借対照表の内訳を相続税評価額に置き換えるという手順が発生します。
※実際には会社規模に応じて、貸借対照表以外の要素を加味するなど評価方法は複雑ですが、そうした説明は今回割愛します。
つまり、最初に挙げたような問題が貸借対照表にあると、この手順を正確に行うことができず、株価を正しく計算することができません。
では、株価を正しく計算できないとどのような問題が生じるでしょうか?
最もわかりやすいのが、相続税の申告書を提出したものの株式の評価額がおかしいと税務署から指摘されて、相続税の申告を修正することになるケース。
他にも、生前に株式を贈与しようとしても、贈与税の計算を正しく行うことができません。
仮に、時間をかけて、毎年贈与税がかからない範囲(110万円)で株式の贈与を検討しましょうといったケースだとどうなるでしょうか?
正しく株式の金額を計算できないと、贈与税がかからないつもりで贈与したのに、後になって贈与税がかかることになるかもしれません。
そうなると、贈与する株数を安心して決めることができなくなってしまいます。
株式以外にも、例えば会社にお金を貸し付けているような場合、お金を貸している方が亡くなると、亡くなった方の相続財産となります。
この金額も貸借対照表に計上されていますが、その金額が間違っていると相続税の計算に影響が出る可能性があります。
贈与や相続も考慮して貸借対照表の内訳の整理を
貸借対照表の内訳について、相続や贈与に与える影響という観点で確認をしました。
相続や贈与というのは、要するにある方から別の方に「財産」を移転させることです。
そして、会社の貸借対照表というのは、その会社の「財産」(プラスもマイナスもあります)の内訳そのものです。
財産の内訳がハッキリしないと、その財産を移転させるときに問題が生じる。
このように書いてしまえば、当たり前の話だと感じるかもしれませんが、会社の財産の「内訳」と相続・贈与という行為が、アタマの中でつながっていない方もいるのではないでしょうか。
貸借対照表の内訳は、このようにいろいろなところに影響を与えるものです。
会社の貸借対照表の中に内訳がハッキリしないものがある場合は、早急に調査をして貸借対照表をキレイにすることをオススメします。
投稿者

- 加藤博己税理士事務所 所長
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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