新聞等で内容を見られた方も多いと思いますが、昨日平成29年度与党税制改正大綱(以下「大綱」)が発表されました。

平成29年度税制改正大綱

配偶者控除の見直しなど主要な項目についてはいろいろな方やメディアが取り上げると思いますのでそちらを参照いただくとして、あまり取り上げられていない項目について今回は触れてみたいと思います。
なお、以下タイトルのカッコ内は上記税制改正大綱のサイトにあるPDFファイル内のページを指します。

1.仮想通貨売却時の消費税非課税化(大綱P108~109)

仮想通貨の消費税における取扱については下記の記事で書きましたが、仮想通貨の売却は消費税の非課税取引とすることが明記されました。平成29年7月1日以後の取引について適用される予定です。

仮想通貨の売買に消費税がかかる理由 | 加藤羨一税理士事務所

2.積立NISAの創設(大綱P20~22)

現在のNISAとの選択とはなりますが、20年間非課税で運用可能な積立NISAが創設されることになりました。

事前の新聞報道等では非課税期間が10年間になりそうだともいわれていましたが、最終的には年間投資上限額を40万円まで引き下げることで20年間の非課税となったようです。

私も投資信託に投資したことがありますが、利益が出たのはほとんど長期間積立投資を行ったものでした。
投資信託は長期での積立投資が有効といわれていることからしても、20年という期間を最大限活用できる20~30代の方が長期的に資産形成を行うのに適した制度だと思います。

3.特定口座年間取引報告書(大綱P22)

これも投資関連の話になりますが、現在証券会社などに特定口座を有している場合には、毎年1月頃に前年1年間の損益を集計した特定口座年間取引報告書という書類が送られてきます。

この書類なのですが、確定申告に使おうとする場合には書面で発行したものでなければなりません。

そのためネット証券などに口座を持っている場合には、パソコンの画面上でほぼ同じ内容のものを見たり印刷したりすることができるにもかかわらず、毎回郵送で送ってもらう必要がありました。どうやらこの点が緩和されるようです。

ただし大綱には

・・・記載すべき事項が記録された電磁的記録を一定の方法により印刷した書面で、真正性を担保するための所要の措置が講じられているものとして国税庁長官が定めるもの・・・

という風に「真正性を担保する」といった文言が入っていますので、どこまで柔軟に認めてもらえるかは今後の詳細を待つ必要があります。

4.届出書の提出先の変更(大綱P36他)

これは主に税理士の仕事に関わる部分ですが、例えばお客様の納税地に異動があった場合(引っ越しされた場合など)には、現在は異動前と異動後の両方の税務署長に異動届けを提出する必要があります。
これが今後は異動前の税務署長にのみ提出すれば良いことになりそうです。

以前から、「届出書くらい税務署間で情報共有してくれればすむことなのに・・・」と感じていましたが、ようやく対応してもらえることになりそうです。

5.医療費控除の際の添付書類の変更(大綱P37)

実は今回の税制改正大綱に目を通す中で、実務の観点から一番気になったのがこの部分でした。

大綱には以下のように記載されています(強調・下線は筆者による)。

(3) 医療費控除又は特定一般用医薬品等購入費を支払った場合の医療費控除の特例 (セルフメディケーション税制) の適用を受ける者は、 現行の医療費の領収書又は医薬品購入費の領収書の添付又は提示に代えて、 医療費の明細書又は医薬品購入費の明細書を確定申告書の提出の際に添付しなければならないこととする。
 この場合において、 税務署長は、 確定申告期限等から5年間、 当該適用に係る医療費の領収書 (次に掲げるものを除く。) 又は医薬品購入費の領収書の提示又は提出を求めることができることとし、 当該求めがあったときは、その適用を受ける者は、 これらの領収書の提示又は提出をしなければならない。
(以下省略)

「明細書」というのが具体的に何を指すのか現時点では不明ですが、要するに単に金額が記載されただけの領収書ではなく内容がきちんとわかるものでないと医療費控除を認めないということで、かつ領収書は別途手元に保管しておかなければならないということなのかと?

とりあえず当面は

(注2) 経過措置として、 平成29年分から平成31年分までの確定申告については、 現行の医療費の領収書又は医薬品購入費の領収書の添付又は提示による医療費控除又はセルフメディケーション税制の適用もできることとする。

とありますので、従来通りの対応で問題ないようですが、ただでさえセルフメディケーション税制が導入されて煩雑になりそうな医療費控除が平成32年以降どうなるのか注意しておきたいと思います。

セルフメディケーション税制はどこまで機能するか? | 加藤羨一税理士事務所

6.まとめ

今回の税制改正大綱では、配偶者控除の見直しや酒税改革が話題になっていますが、それ以外の項目でも税理士の実務に影響を与えそうな内容がいろいろと盛り込まれています。

細かいところでいえば、特定口座年間取引報告書については、所得税の申告の際などにお客様から「えっ、そんなの来てたっけ?」などといわれるケースもなきにしもあらずですので、電子的に交付いただけると少しは助かるのかなと考えています。

各項目の詳細については法律の成立後に出てくることになりますので、今後とも注意深く見ていきたいと思います。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち、7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。