贈与税の改正により「相続時精算課税」という制度に興味を持つ方も増えたのではないでしょうか。今回はこの制度で注意すべき点について確認します。

相続時精算課税とは

この記事を読んでいる方の中には、お子さんやお孫さんに贈与をして贈与税の申告をしている方もいると思います。

税務署に対して特別な届出をしていない限りは、「暦年贈与」という方法での贈与として贈与税の申告をしていることになります。

贈与税の計算・申告には「暦年贈与」以外にももう一つ方法があります。これが「相続時精算課税」といわれるものです。

「相続時精算課税」の(改正される前の)主な特徴としては

  1. 自分で選択して、税務署に届出を提出する必要がある
  2. 一度選択したら「暦年贈与」に戻ることはできない
  3. 累計で2500万円までは贈与税がかからない(ただし毎年使える110万円の基礎控除はなくなる)
  4. 2500万円を超えた部分については20%の税率が適用される
  5. 選択した後のすべての贈与については、相続税の計算に含める必要がある

といった点が挙げられます(他にも年齢などの成約がありますが割愛します)。

暦年贈与であれば毎年110万円までは贈与税がかかりませんが、相続時精算課税を使うと110万円以下の贈与であっても贈与税の申告書を提出しなければなりませんでした。

また、最終的に相続税の計算に含める必要があるため、多くの方にとっては

「メリットが全然ないじゃん!」

ということで、使う方は非常に少ない状況が続いていました。

ところが今年(令和6年、2024年)から制度が変わり

  • 相続時精算課税でも基礎控除110万円を使える
  • しかも基礎控除110万円については相続税の計算に含める必要なし

となったため、注目を集めることとなっています。

暦年贈与では、110万円以下の贈与であっても、相続発生時から7年間遡って相続税の計算に含める必要があります(従来3年でしたが、今年から順次7年まで対象期間が延びます)。

この点を踏まえて

「相続時精算課税を使った方が暦年贈与よりもおトクなのでは」

と考える方が増えたように感じます。

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2500万円控除を受けられないケースとは

贈与税申告書を期限までに提出することが条件

とはいえ、何ごともメリットばかりとは限りません。

相続時精算課税については、注意すべき点が結構ありますが、今回はその中から

「2500万円までは贈与税がかからない」

という点についての落とし穴を確認しておきましょう。

結論から言えば

「贈与税の申告期限(通常は3月15日)までに贈与税の申告書を提出しないと、累計2500万円までの控除を適用できない」

ということになります。

例えば、父からの贈与について子が相続時精算課税を選択している状態で、父から500万円の贈与を受けて、子が贈与税申告書を期限までに提出した場合は

(500万円ー110万円ー390万円)×20%=0円

となり贈与税の納税は必要ありません。

※110万円は基礎控除、390万円は2500万円の控除から充当した特別控除額と呼ばれるものです。

仮に、今回が相続時精算課税を選択したあとの初回の贈与だとすると、今後子は父からの贈与については

2500万円ー390万円=2110万円

までは贈与税がかかりません。

ところが、贈与税の申告書を期限までに提出しなかった場合は

(500万円ー110万円ー0円)×20%=78万円

の贈与税を子は払わなければなりません。さらに無申告加算税や延滞税もかかります。

あくまで「期限までに申告書を提出すること」を条件に、2500万円まで贈与税がかからないという点には注意が必要です。

「申告は必要ないと思ってた」という落とし穴

ここまでの説明を読んで

「いやいや、贈与を受けたんだから当然期限までに申告書を提出するでしょ」

と思われるかもしれません。

ところが

「贈与税の申告は必要ないと思っていたら、実際はそうではなかった」

というケースは実際にあります。

例えば、不動産や上場していない株式については、贈与した金額がいくらになるか自分で計算しなければなりません。

ここで贈与税がかからないよう、110万円以下の範囲で不動産の持分や株数を贈与するケースもそれなりにあるのではないでしょうか。

この場合、当然贈与税の申告書の提出は不要と考えるはずですが、あとで計算が間違っていることがわかった場合は、本来は申告が必要なのに申告をしていなかったことになります。

さらに、贈与してもらったつもりはないのに贈与になる「みなし贈与」と呼ばれるケースについても、あとで気付いて期限後に申告するという可能性は残ります。

※「みなし贈与」については、以下の記事をご参照ください。

現金や上場株式の贈与であればこのような心配はないかもしれませんが

「2500万円までは控除があるので何があっても贈与税がかからない」

とは言い切れませんのでご注意ください。

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制度のデメリットにも注意を払うべき

最近になって相続時精算課税のメリットに注目が集まることが多いですが、実際には今回取り上げた以外にもデメリットはあります。

一度選択してしまうとやめることはできませんので、メリットばかりに安易に注目して利用すると、あとで後悔することになるかもしれません。

当たり前の話かもしれませんが、こうした制度を利用する際には

「本当に見落としているデメリットはないか?」

という点に注意を払った上で、使うかどうか判断をしましょう。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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