令和6年度税制改正大綱が公表されましたが、昨年と打って変わってインボイスに関する改正はほとんどありません。数少ない改正項目のうち経理実務に関係するものを確認しておきます。

令和6年度税制改正大綱が公表されました

2023年12月14日(木)に令和6年度税制改正大綱が公表されました。

昨年はインボイス関係の改正が数多くありましたが、今年は打って変わってほとんどありません。

インボイスに関しては

「インボイス発行事業者以外から仕入を行う場合に、ひとつの事業者からの仕入が年間10億円を超える場合には、超えた部分については8割や5割の控除を認める経過措置を適用しない」(令和6年度税制改正大綱100ページ)

といった内容も書いてはあるのですが、多くの事業者には関係ないでしょう。

ただそうした中でも経理実務に影響しそうなものがひとつあります。

インボイス制度では、インボイスがもらえない場合であっても帳簿をきちんとつけていれば仕入税額控除が認められるケースがあります。

これに関して、本来法律上は取引先の住所を書く必要がありましたが、これを書かなくてよいとする改正を行うとのことです。

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そもそも住所記載が必要なケースとは

この点について具体的には

一定の事項が記載された帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる自動販売機及び自動サービス機による課税仕入れ並びに使用の際に証票が回収される課税仕入れ(3万円未満のものに限る。)については、帳簿への住所等の記載を不要とする。
(注)上記の改正の趣旨を踏まえ、令和5年10月1日以後に行われる上記の課税仕入れに係る帳簿への住所等の記載については、運用上、記載がなくとも改めて求めないものとする。

令和6年度税制改正大綱101ページより(太字は筆者による)

と書かれています。

住所等を書かなくてよくなるのは

  • 自販機等を使った仕入
  • 入場券などインボイスが回収されてしまう仕入

の2つだけです。

ここで「あれ、他にもインボイスなしでもOKのものって無かったっけ?」と思った方がいるかもしれませんが、その理解で合っています。

帳簿のみで仕入税額控除が認められるものとしては

  1. 3万円未満の公共交通機関による旅客の運送
  2. 取引年月日以外の記載事項がある簡易インボイスに該当する入場券等が回収される取引
  3. 古物営業を営む者がインボイス発行事業者以外から古物を棚卸資産として購入する取引
  4. 質屋を営む者がインボイス発行事業者以外から棚卸資産として質物を取得する取引
  5. 宅地建物取引業を営む者がインボイス発行事業者以外から建物を棚卸資産として購入する取引
  6. インボイス発行事業者以外から再生資源や再生部品を棚卸資産として購入する取引
  7. 3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品購入等
  8. 郵便切手を貼って郵便ポストに投函する際の切手代
  9. 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)

の9種類あります。

税制改正大綱に書いてあるのは、このうち2と7だけです。

ではそれ以外については今後も住所を帳簿に書かないといけないのかというとそういうわけではありません。

実は住所の記載については、もともと次のようになっていました。

項目 住所の記載
1 3万円未満の公共交通機関 不要
2 簡易インボイスに該当する入場券等が回収される取引 必要
3 古物商が棚卸資産として古物を購入する取引 古物営業法に定める帳簿等へ相手方の氏名・住所を記載することとされているもの以外であれば不要
4 質屋が棚卸資産として質物を取得する取引 質屋営業法に定める帳簿等へ相手方の氏名・住所を記載することとされているもの以外であれば不要
5 宅地建物取引業者が棚卸資産として建物を購入する取引 宅地建物取引業法に定める帳簿等へ相手方の氏名・住所を記載することとされているもの以外であれば不要
6 棚卸資産としての再生資源や再生部品を購入する取引 取引先が事業者以外の場合は不要
7 自動販売機や自動サービス機からの3万円未満の商品購入 必要
「○○市 自販機」
「XX銀行□□支店ATM」等の記載可
8 郵便切手を貼ってポストに投函する際の切手代 不要
9 従業員等に支給する出張旅行費等 不要

細かい条件があるものもありますが、もともと住所の記載が必要だったのは2と7だけです。そのため今回の改正によって帳簿に取引先の住所を書く必要はほぼすべてなくなったといえます。

なお上記の取引については帳簿に1~9のどの取引に該当するかについても書く必要があります。

今回の改正で「住所」とされていますが今回対象としているのが2と7のみのため、今後もこの点については変わらない可能性があります。

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改正を待たずに住所の記載は不要に

先ほど引用した部分の注書きには、今年の10月1日以降の取引についても、仮に帳簿に住所の記載が無くても改めて書くことを求めないとされています。

要するに、インボイス制度が始まって以降取引先の住所を帳簿に書く必要はまったくないということです。

インボイス制度が始まってから3ヶ月程度の時点でいきなり改正することを決めて、しかも法律が成立する前でも書かなくていいよと。

こんなことするくらいなら最初から法律に織り込まなければいいのに、と思います。

「こんなことできるわけないから、税理士からわざわざお客さんに説明するまでもない」という意見も聞かないわけではないですが、一応法律で決まっている以上は対応できるかどうかは別として説明はせざるを得ません。

最近の税制に関しては

中小企業等が対応できないようなことを法律として作る→できるわけないと反発を受ける→すぐに変更する

という流れが多く、マジメに対応した人間がバカを見ることが多くなってきました。

経理事務の負担が減るという点ではありがたい改正ではありますが、もう少しできるかどうか考えてから法律をつくって欲しいというのが正直なところです。

なお、本記事は税制改正大綱に基づいて作成しているため、最終的な改正内容については法律等でご確認いただきますようお願いいたします。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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