税理士に報酬を支払う際には源泉徴収を行う必要がありますが、インボイス制度が導入されたあとに源泉徴収税額の計算に影響があるのか確認しておきましょう。

報酬料金に対する源泉徴収税額の計算方法

税理士に対して税理士報酬を支払う場合、一般的には源泉徴収という形で所得税等を差し引く必要があります。

(給与支払者でない個人など例外はいろいろありますが、今回は割愛します)

この税理士への支払以外にも、「報酬・料金等」として区分される支払については源泉徴収が必要です。

「報酬・料金等」に含まれるものとしては、

国税庁ホームページ:No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは

によると

イ 原稿料や講演料など
ただし、懸賞応募作品等の入選者に支払う賞金等については、一人に対して1回に支払う金額が5万円以下であれば、源泉徴収をしなくてもよいことになっています。
ロ 弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
ハ 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
ニ プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
ホ 映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
ヘ ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
ト プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
チ 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金

が該当するとされています。

税理士を含む士業への支払以外にも、原稿料や講演料の支払なども対象となりますが、今回は源泉徴収の対象範囲についてはこれ以上触れません(これだけで1回分の記事になってしまいますので・・・)。

今回確認しておきたいのは、報酬・料金等に消費税が含まれる場合の、源泉徴収税額の計算方法についてです。

具体的な例を使って計算方法を確認していきましょう。

例えば私が源泉徴収義務のあるAさんに110,000円(消費税込み)の金額を請求したとします。

この場合、Aさんから私への支払金額は、

110,000円×10.21%=11,231円

を源泉徴収した後の98,769円(=110,000円-11,231円)となります。

これが本来の計算方法なのですが、国税庁が出している「消費税法等の施行に伴う源泉所得税の取扱いについて(法令解釈通達)」という通達では、例外として別の方法が示されています。

その方法とは、私がAさんに請求書を発行する際に、

税理士報酬 100,000円
消費税等 10,000円
請求金額合計 110,000円

という形で、本体価格と消費税を明確に区分している場合には、

100,000円×10.21%=10,210円

を差し引いた99,790円(110,000円-10,210円)を支払うことができる、というものです。

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「請求書等」の定義はインボイスにより変わるのか?

先ほどの通達においては、

「請求書等において報酬・料金等の額と消費税及び地方消費税の額が明確に区分されている場合には」

と書かれています。

一旦「等」は無視して「請求書」について考えてみた場合、インボイス制度が導入されたあとには、

  1. インボイスに該当する請求書
  2. インボイスに該当しない請求書

の2種類が存在することになります。

「インボイスに該当しない請求書」というのは、例えばお客様が消費税を納める義務のない一般消費者のみのためインボイス登録をしていないケースや免税事業者が発行する請求書が該当します。

ここで先ほどの通達にある「請求書等」に該当するのは、1と2両方なのか、それとも2は該当しないのか、という疑問が。

この点について、今月国税庁より「インボイス制度開始後の報酬・料金等に対する源泉徴収」という発表がありました。

その中で

インボイス制度開始後においても、(中略)『請求書等』とは、報酬・料金等の支払を受ける者が発行する請求書や納品書等であればよく、必ずしも適格請求書(インボイス)である必要はありません(以下省略)

とされていますので、結論としては先ほどの1・2ともに「請求書等」に該当し、税抜価格に源泉徴収する税額を掛けて計算する方法で構わない、ということになります。

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免税事業者が消費税を請求してきたら?

インボイス導入後の源泉徴収税額の計算方法について確認しましたが、ひとつ疑問が残ります。

それは免税事業者が本体価格に消費税を乗せた請求書を発行してきた場合です。

免税事業者が消費税を請求してよいのかどうかについて、明確に説明された資料は私の知る限りではありません。

その一方で消費税法においては、

「税務署にインボイス登録してない人が、インボイスと勘違いするような書類を発行したら罰則があるよ」

とされています。

もし仮に免税事業者から消費税が明記された請求書を受取った場合、

  • 税抜価格に対して源泉徴収していたら、税務調査の際に「免税事業者が消費税を請求するのはおかしい」と指摘されて、源泉徴収する金額が不足していると言われる可能性はあるのか?
  • 免税事業者の行為は、インボイスと勘違いするような書類を発行したことになるのか?

といった疑問が残ります。

インボイス制度と免税事業者との関係については、政府が検討中のものとして

インボイス制度への対応に関するQ&Aについて(概要)(案)

といった資料(リンク先の資料3)もありますが、先ほど疑問に答えるものにはなっていません。

まだ制度が始まっていないため、このようにハッキリしない項目もあるというのが実情ですが、明確になった点についてはきちんと確認をして対応をしていきましょう。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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