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日々繰り返される業務については多くの場合その根拠や理由を確認せずに、処理することが多いと思います。今回はそうしたルーチン業務について、どのようなことに気をつけるべきか考えてみます。

税務通信の記事で気付いた源泉所得税計算の意外な落とし穴

先日税務通信(12月9日号、No.3584)に掲載されていた記事について、Twitterにツイートしました。

こんなの誰も反応してこないだろうと思ってたのですが、士業の方を中心に意外と反応してくださる方がいて、少し驚きました。

記事のポイントは、

  • 税理士報酬の契約書に、報酬金額を「税抜」で記載し、消費税については「別途消費税が課される」と記載しているケース
  • このケースで、口座振替で支払ってもらい、かつ支払明細書等を発行していないと、源泉所得税は税込金額を対象として計算しなければならない

というものでした。

この根拠となるのは、国税庁HPに記載されている次のタックスアンサーの中の、

No.6929 消費税等と源泉所得税及び復興特別所得税|国税庁

ただし、弁護士や税理士などからの請求書等に報酬・料金等の金額と消費税等の額とが明確に区分されている場合には、消費税等の額を除いた報酬・料金等の金額のみを源泉徴収の対象としても差し支えありません。

という一文です。

私も口座振替で請求するケースはありますし、タックスアンサーに記載の考え方も知っていましたが、正直なところここまで厳密には考えていませんでした。

報酬に対する源泉所得税を税抜報酬額に対して計算していいのはどんな場合?

この記事の根拠をもう少し確認してみましょう。

実際にはタックスアンサーが根拠というわけではなく、この点について通達が出ています。

消費税法等の施行に伴う源泉所得税の取扱いについて(法令解釈通達)

この通達の中の、「3 報酬・料金等所得等に対する源泉徴収」に次のように記載されています(太字は筆者による)。

所得税法第204条第1項の規定が適用される報酬・料金等並びに同法第212条第1項又は第3項の規定が適用される国内源泉所得又は報酬若しくは料金等(以下「報酬・料金等」という。)が支払われる場合において、当該報酬・料金等が消費税法第28条に規定する消費税の課税標準たる課税資産の譲渡等の対価の額にも該当するときの源泉徴収の対象とする金額は、原則として、消費税及び地方消費税の額を含めた金額となる。ただし、報酬・料金等の支払を受ける者からの請求書等において報酬・料金等の額と消費税及び地方消費税の額が明確に区分されている場合には、当該報酬・料金等の額を源泉徴収の対象とする金額として差し支えない

カンタンにいえば、

  • 原則:税込金額を対象として源泉徴収する金額を計算する
  • 例外:報酬金額と消費税を明確に分けているときは、税抜金額を対象として源泉徴収の金額を計算してもいい

ということです。

記事の話に戻りますと、

契約書に「税抜金額」と「別途消費税が課される」としか書いていない場合は、消費税の額が明確になっていないので、例外には該当しないと。

契約書の書き方が「別途消費税が課される」であっても、請求書を発行して報酬金額と消費税が明確に記載されていれば、例外を適用できるけれども、口座振替で請求書や支払明細書を発行していない場合は、原則を適用しなさい、と。

だから、契約書の書き方と口座振替で請求書等を発行していないケースが重なると、税抜金額で源泉徴収税額の計算ができないケースがある、ということになるようです。

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日常業務であっても、時には立ち止まって根拠の確認をしてみるべき

他の事務所がどうされているか多くは知りませんが、やはり実務的には控除する税額を減らすために、税抜金額をベースに源泉徴収税額を計算しているケースが多いのではないかと思います。

そうした事情もあり、あの記事の内容をツイートした際に反応が意外と多かったのではないかと。

源泉徴収する税額を計算するようなルーチン業務の場合、流れ作業でやってしまうことが多いですし、実際に毎回その根拠を確認していたら、実務を回していくことはできません。

でもこうして時々立ち止まって根拠や考え方を確認することは、非常に重要だと思っています。

気付かずに放置していること、というのは指摘された時には大きな問題になってしまっている可能性がありますので、早い段階で見つかったほうが絶対によいはずです。

特にひとりで仕事をしていると、誰も指摘してくれる人はいないわけです。税務調査の時に指摘されていたのでは手遅れ、ということになってしまいます。

自分のしている仕事に誤りや勘違いがないか気付く機会を増やすためにも、インプットは重要です。

そしてインプットだけでなく、インプットしているときに感じる、「あれ?」という違和感。この違和感を感じたときに、流してしまわずにきちんと確認する。

忙しくなるとついつい手を抜いてしまう部分ですが、改めて気をつけたいと思います。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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